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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
2章 グレーマン街道編
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13話 Farewell

 この戦闘が始まったときの状況は、俺とヨモギの二人に対して敵は龍捜索隊の傭兵四人と魔術師を含むエスターク兵二人の合計六人。

 先ほどまで俺は圧倒的劣勢でカリスティルが現れなければ死んでいただろう。


「何よその態度! あたしは命の恩人よ!」


 確かにその通りだが気に入らない、元から二対六の状況で戦闘になったのはカルスティルがゲジ男にいつまでも乗っているからゲジ男が暴れだした時に降りれなくなったせいだ。

 正面三対一の半包囲を耐えていた俺は肩に手傷を負っている。

 コイツが最初からいれば俺はここまで苦戦することもなかったはずだ!


「ふざけんな、お前が遊んでいるうちに俺とヨモギは大変だったんだ! 俺が怪我したのはお前のせいだぞ!」


 俺にはそう言う権利があるはずだ、さっそく行使した。

 そのままカリスティルの真横に身を移して手早く状況を伝える。


「なっ! あんたってホント自己中!」

 カリスティルと無意味な口論をしている時間はない、唐突に腹心らしき男を失ってカーノッサが動揺しているうちに連携を取らなければならない。


「いいから敵に集中しろ、いいかよく聞け、奥にいるエスターク兵は最低でも一人は魔術師だ、正面の敵から間合いを取りすぎるな、電撃みたいな魔術が飛んでくる、それと紫の髪をした男は俺が相手をする」


 そう言うと俺は「ちょっ……」何か言いたそうなカリスティルの横からサッと前に飛び出しカーノッサの前に出る、真っ先に仕留めなければならないのは強い奴だ、基本だろ?


「きっさまぁ!」

 カーノッサはニヤニヤ笑いで躍り出てきた俺が大層気に入らないらしく怒声を放ち目を充血させながら槍を俺に向ける、俺も笑っている状況ではないのに何故かニヤついてしょうがない。


「ヨモギ! こっちのことはいいからお前は背後を付くことだけ考えろ! 人数は変わったがやることは変わらん!」

「は、はい! タイサ!」

 ヨモギはビクッとなって返事をした後、また奴らの背後を高速で移動し始めた。

 

 本格的に斬り合うまでに方針の徹底だけは行う、ヨモギはまだ心が弱い、弱い奴は緊張状態を自分では持続できない、自棄になって破滅するのは弱い奴からだ。

 前の世界では相手の心理を逆手にとって有利になることばかり考えていた俺も味方ってものに配慮するようになったんだなぁ――シミジミしている場合ではないが笑えてくる。


「よくもマルゴーをっ!」

 カーノッサは穂先を俺にスッスッと突きながら前に進んでくる、俺は切先でキンキンと伸ばされる穂先を払いながら後退する、俺が押されているのではなく隣のカリスティルが傭兵に押されるから歩調を合わせているのだ。


 文句を言うつもりはない、剣と槍では武器としての相性が悪い、俺くらいのスーパーウルトラグレート剣士なら対応もできるが敵の傭兵は槍の扱いに慣れている、カリスティルの技量では退くしかない。


「カリスティル! お前は俺の隣を離れて回り込め!」


 俺はカリスティルに指示を出す。

「ばっ、馬鹿ね! あんたが二人をまとめて相手する気なの!」

 細かな指示は出す暇がない、俺はカーノッサの鋭い突きを切先で払いながら吐き捨てる。


「今、お前を庇って下がってんだから俺」一人の方がいい、回り込んで後ろを取れ、魔術師に注意してな!」

 それだけ言って俺は敵二人の間合いに踏み込む。


「早く!」

 何故か躊躇うように動かないカリスティルを急かす。

 カリスティルは振り切るように引き下がり回りこもうと走り出した。


 よし、後は俺が粘ればいい。

「殺してやる黒髪!」「棟梁、落ち着いてくだせぇ!」とか怒鳴りあいながら傭兵達は俺を押し込む、が、俺は間合いを取り過ぎない程度に後退しながら切先で火花を散らせながらやり過ごす。

 

「何をしているカーノッサ! 後方に注意しろ!」

 ジャラスパは冷静さを欠いているカーノッサに指示を飛ばす、本来なら自分も打って出たいのだろうがヨモギを警戒して動けない、ジャラスパの腕ならヨモギは脅威ではない、しかしその場を動かない。


 察するに魔術師は単体でヨモギに対応できるタイプではないのだ、魔術は追尾するような類ではなく避ける事はできるのだろう、そうでなければ俺はもう死んでいる、ヨモギは速い、魔術は当たらない、だからジャラスパ本人は動かないのだ。

 そして間合いを離れなければ魔術は撃たない、経験則だ、傭兵を巻き込むからだろう。


 勝ち目が見えてきたな、俺はそう思った。


「勝ち目が出てきたな」

 実際に口に出して笑ってみせた、せっかく取り乱してくれているのだから煽らない手はない。


「このクソガキィィィ!」

 カーノッサはキレた、目玉が零れ落ちるのではないかと思えるほど目を見開き、大口から唾を飛ばしながら穂先に全ての力を込めて俺の体のド真ん中へ突撃してきた。


(これに合わせる)

 穂先から体を滑らせるようにかわす。

 そのままの勢いで突き進むカーノッサの胴狙い。

 狙い済ました渾身の一閃を放つ!


 俺の過剰に研ぎ澄まされた剣はカーノッサの腕を切り飛ばしそのまま脇腹を切り裂く!

「がああああぁぁあ!」そのまま体勢を整える間も無く蹴り足が中に浮いたままの俺は身を翻す。


「棟梁! がぁ!」

 隣で崩れ落ちていくカーノッサに駆け寄ろうとした傭兵の背をヨモギが一突きに仕留めている、喜んでいいのかわからんが結果は最上だ。

(残りの一人はカリスティルが――)

 カリスティルは口を開けてみている、クソッ、つかえねぇ!


 身を翻しながら片腕だけになり左腕で剣を抜こうとしているカーノッサの首へ横薙ぎの一閃!

 俺の放った切先はカーノッサの首筋に吸い込まれる。

『ブッシャーッ』と真っ赤な鮮血が辺りを濡らす。


 俺は顔面から地面に転げたが跳ねるように飛び上がり剣を構え状況を確認する。


 傭兵は一人、残りはエスターク兵二人、人数は五分だが傭兵は見る見る青ざめてきてる、圧倒的に有利だ。

 

「カリスティル、ヨモギ、エスターク兵を遠巻きに包囲していろ! こいつを仕留めてから向かう!」

 俺はそう指示すると傭兵に真っ赤な切先を向ける。


「はい、タイサ」「わ、わかったわ……」


 何故か薄い微笑みを絶やさないヨモギとひょっとしたらヨモギにドン引きしているかもしれないカリスティルはエスターク兵に向かう。

 いざという時のリーダーシップはやはり俺の手の中にある、安心した。


 残された傭兵は穂先こそ俺に向けているが『僕はアンパイです』と表情が物語っている。

「逃げたきゃ逃げてもいいぞ~、俺には追う理由はないからな~」

 俺は得意の意地悪な笑いを浮かべながら優しく提案する。


「天の精霊へ第三を告げる――」


『キーン』甲高い金属音がエスターク兵の方向から木霊(こだま)した。

 横目にヨモギが剣を翳して魔術師へ飛びかかり、その軌道に割り込んだジャラスパの剣に、斬撃を弾かれている光景が見えた。

 魔術師の右掌は俺に向かって翳されている。


 「――交わされし盟約の数を糧とし、我が仇を滅す光を成せ」


 魔術だと!? 

 俺は反射的にその場から飛びのく……


 俺と傭兵がいたその場を空に渦巻く黒雲から光の柱が貫く。


 可能な限りの横っ飛びから着地した俺は気付いた、これは先ほどまでの電撃みたいな魔術ではない。


 着弾した光の柱はその地表を焼き尽くしその直後に炎を伴った爆風が俺の体を台風に煽られたビニール傘のように吹き飛ばした。




 ……目の前が真っ白だが僕は生きているね、だってあちこちがズキズキするんだもん。

 子供みたいな感想を持っている場合ではない。

 

 俺は上体だけユラリと起こし事態を把握しようと試みる。

「いってぇ……」

 目の前がチカチカするが全く見えないわけでもない、薄っすらと見え始めてきている。

「っ!」

 また内蔵にダメージを受けたようだ、経験則ってのは便利だな……

 遠くに豆粒ほどの大きさで人らしき物が見える。

 なんだか焦げ臭い。

 骨は折れていないようだ、これも経験則。

 意識して体の動かない箇所はあるか確かめる。

 なんだか皮膚が突っ張って動きにくい。

 あぁ、そうだ、俺は魔術をくらって吹っ飛ばされたのだ。


 魔術の追加注文を発注するわけにはいかない、止まらず動かないとな。

 俺は体に力を込め立ち上がる。

 気合で視野が広がっていく、ような気がする、ダメージが抜けてきただけかもしれないがどっちでも構わない。

 

 


 目を凝らすと校庭の向かい側ほど遠くに真っ黒な爆心地がある、これはゲジ男を狙った魔術と同じ類のものだ……そうか……

 傭兵を巻き込むから威力の小さな魔術を使ってフォローしていただけでやろうと思えば傭兵諸共俺たちを消し飛ばすこともできたって事か……


 フラつく頭にガツンと右手で活をいれる。


 そうか……傭兵の姿はやはり見えない、使えないと判断して俺と一緒に消し飛ばそうとしたんだな、納得だ、賢いよ……

 俺なら気づけるはずだそんな事、情けないことに奴らが仲間を切り捨てることは無いと勝手に思い込んでしまっていた。


 俺だってヨモギやゲジ男、ついでに赤帝やカリスティルを今みたいな場面に遭えば同じように切り捨てれる人間のはずだ、少なくとも日本にいた時の俺なら簡単にやってのけたはずだ。


 奴らも仲間を見放すはずはない、そう思いこんでしまっていた……

 ハハッ、親父ならお見通しだったんだろうけどよ。




「ぐうっ」

 俺は震える足に力を込めて立ち上がる、自分から発せられる焦げ臭い匂いで俺は己の姿に目を奪われる。


 ……やっと鮮明になってきた視界に飛び込んできたのはこっちの世界に来て唯一残っていた日本の焼け焦げた証拠だった、俺と日本を結びつける学生服、その内ポケットに入っていた財布、充電はとっくの昔に無くなっていた携帯電話も黒ずんだ燃えカスに化けた、俺が俺を証明するものはこれで何一つ無くなったわけだ。


「……へっ」

 まぁいいだろう、俺は羽織っていた学生服を脱ぎ捨てた、そんな気分だった、理由はないし必要ない。

 ズボンも焼け焦げてズタボロになっているがさすがに脱ぐわけにはいかない、しかし後で捨てるだろう。

 俺は火傷で皮膚が突っ張るからだを動かしヨモギやカリスティルが囲むエスタークの二人組へ向かって歩き出した。


 未だに魔術のアンコール演奏がないのはヨモギとカリスティルが迷惑なオーディエンスになっていてくれているからだろう。

 

 主役は遅れてくるものだが早いに越した事はない……

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