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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
2章 グレーマン街道編
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11話 人斬り燕

 俺と赤帝はグレーマン街道を駆け戻り、ヨモギとカリスティルとゲジ男に合流して顛末を説明した。


 一 捜索隊は七人、そのうち六人は斬ったが一人討ち漏らしたこと

 二 討ち漏らした一人はグレーマン街道を南に逃げていったということ。

 三 以上の事から敵の迎撃準備が整うまでに一刻も早くグレーマン街道を突破しなければならないこと。


「わかったわ! もう準備はできているしこのままいきましょ!」

 カリスティルはもう行く気満々だ、元から強行突破を主張していたのだし願ったりかなったりなのだろう。

 だが俺との距離がやたらと遠い、チラチラと俺を見ていて滅茶苦茶警戒してやがる。


「私はタイサに従います」

 ヨモギは垂れ目だが力強い視線を向けながら俺に従うと告げた、どうせ何も考えてないのだろう。


「お前の意見は?」

 一応赤帝の意見も聞いてみた、一応仮にではあるがメンバーだからな、なお俺にとっての正式メンバーは俺、ヨモギ、ゲジ男の三名だ。


「貴様の案に不服はない」

 何で上から目線なんだよ、賛成ならそう言えよ。

「あぁ準備できたら出るぞ」


「あの……」

 ヨモギが何か言いたそうだ、俺への労いの言葉だろうか?

「どうした? 俺なら大丈夫だぞ」


「いえ、もう出発しても良いのですがタイサは着替えてください」

 どうやら血塗れの魔獣の鎧は不評らしい、血が乾いてパリパリになっているしな。

「わかった、着替えてくるからその間に出発していてくれ」


 俺はキリッとした態度でそう告げると自分の隔離小屋に向かった。

 若干ハイテンションだったのは久々にリーダーシップが回ってきたからかもしれない。




 俺が鎖帷子の上から久しぶりに学生服を羽織り、自作の魔獣の鎧を手に取り隔離小屋から姿を晒すとカリスティル、ヨモギ、赤帝の三名はゲジ男の頭に並んで座っていた――――なんていうかさ、三人で並んで座ると横幅は一杯なんだよね……


「カリスティル、インテルリ丘陵はあとどのくらいで抜ける?」

 俺は疎外感を感じていることを悟られぬよう不必要に大きな声で話しかける


「もう少しで抜けるわ! 抜けたら一気に視界が開けるけど……」

 カリスティルは俺の方に振りかえりながら応えた、両手で胸を隠しながら。


「けど……どうした」


「それが、赤帝が言うにはこの先で待ち伏せがあるみたいなのよ!」

 クソッやっぱりな、一人逃がしてしまったことにより俺たちがもうインテルリ丘陵を越える寸前だという事が知れてしまっている、てか、俺を他所に仲良くなりやがって、俺には『あんた』とかで名前すら呼ばないくせによ。


「赤帝、待ち伏せの規模はわかるか?」

 今はそこに拘泥している場合ではないので話を進める。

「人数は十二名、そのうち数名が街道を塞ぐ馬防柵ような物を組み立てようとしている」

 淡々とした説明だがいつもよりは人間味のある声……のような気がした。


「それはまた詳細なことだな」

 便利すぎるな、まだ馬防柵が組みあがっていないのなら正面突破も可能かも知れない。


「ヨモギ、お前も鎖帷子を着込んでいろ、カリスティルの胸当てもだ!」

「私は持っていません」

「あたしもよ!」


「俺が奪っていた装備から自作で組んでいたんだよ! どれだけ暇だったと思っているんだ! 俺の部屋にあるから取ってこい!」

「なんであたしのサイズを知っているのよ!」

 クッ、そんなこと気にしている場合かよ!


「いいからさっさと着て来い! ここで死んだらどうにもならんだろ!」

 言葉を濁しておいた。

 

 ヨモギとカリスティルは俺の隔離部屋に駆け込んでいった、インテルリ丘陵の出口までそう時間はない、些細な事に拘泥して時間を浪費するわけにはいかない。


「赤帝! お前もこれを着ていろ」

 そう言って魔獣の鎧を渡しておいた。

「うむ」

 それだけ言うと赤帝は手綱を離すことなく器用に魔獣の鎧に袖を通した、感謝の心は皆無な様子だ。


 俺の隔離小屋から「タイサって器用なんですね」とか「なんでサイズがピッタリなのよ!」とか聞こえるが急いで着込んでいるらしい、らしいというか俺の隔離部屋の壁は薪を組んで作ったスカスカの壁だからシルエットがモロ見えなんだよね。




 インテルリ丘陵の出口が見えてきた、出口って明確に決まっているわけではないが森林が一気に開けている、ゲジ男の頭には俺と赤帝、その後ろにはカリスティルとヨモギ、三人並んで誰かをハミ子にしてやろうという俺のプランは瓦解している。


「さすが赤帝さんですね、十二人ピッタリです」

 出口付近にいる敵を視認したヨモギが淡々と赤帝を褒める、微動だにしない赤帝だが隣に座っている俺は赤帝の顔が僅かに緩んだのを見逃さない。


「まだ基礎だけで柵は組めていないわ! ゲジ男なら踏み越えれる!」

 カリスティルが興奮を抑えきれないのか大声で叫ぶ、一瞬おっぱいを触っても気づかないかな? と思ったがカリスティルは俺が作った胸当てを装備していて胸を包み込むように守っている、俺の自縄自縛ってやつだ。


 俺たちの出現で慌てた龍捜索隊の面々が弓を引いているのが見える。

「弓を持っていやがる、注意しろ!」


「弓なんか当たるわけないわ!」


「お前のことじゃない! ゲジ男を守れ! こいつはデカイんだよ、狙えなくても当たっちゃうだろ!」


「少しくらい大丈夫でしょ!」

「ふざけんな! ゲジ男は正式なメンバーだよ! お前より大切なんだよ!」


 クソッタレ、殆どが見当違いな所へ飛んでいってるが気を抜かない! ゲジ男に当たるコースの弓を必死で叩き落とす。

「あんた必死過ぎでしょ……」

 俺はゲジ男を守るため獅子奮迅の働きを見せる。


「ところで正式メンバーって何なのよ!」

 クソ忙しい時にカリスティルがつまらない質問をしてくる。

「俺とヨモギとゲジ男は俺が名前を付けたんだ、だから正式なメンバーなんだよ!」


「チッ! 意味わかんない!」

 カリスティルは舌打ちしつつもそれ以上無駄口を叩かず弓を叩き落とし始めた、ふむ、納得したようだ、したのか?


 ゲジ男は真っ直ぐ前進する、主に俺とヨモギ、そしてカリスティルは少々弓を払い落として進む。

「キャラピラポッドを狙え!」「絶対に通すな!」と遠くに聞こえる、ふざけんなよ! 俺のゲジ男にちょっかい出すな。


 ゲジ男はヌルヌルグイグイと街道を進み、馬防柵の基礎を作っていた土台を乗り越え、検問を突破した。

「よっしゃ! 抜けた!」

 

 俺はゲジ男の背後を守る為にゲジ男の尻尾の方に駆け出す、ヨモギはついてきているがカリスティルはゲジ男の頭の上で立ち尽くし、前方を見据えてウルウルきてる、役に立ちそうに無い。


「ヨモギ、俺の目では見えない、奴らは追ってきてるか?」

 ヨモギに尋ねる、コイツは垂れ眼だが視力はいいからな。


「騎馬が追ってきています、数は六人ですね」

 随分少ないな、準備が出来ていないのかな?


「短い弓を持っています、あっ更に後ろ六人が後方から付いてきています」

 なぜ二手に別れる……?


 だが考える暇は多くない、ゲジ男より騎馬の方が足が速いのはホーリウォール山脈での戦いで明らかだ、追いつかれる。


「ヨモギ、赤帝に言ってゲジ男を止めさせる、ここを死守しろ」

 そう告げると俺はゲジ男前方へ走った、これはゲジ男を止めて迎撃した方がいい。

 追いつかれて弓を打たれたらゲジ男が走れなくなって十二人に囲まれる、弓はゲジ男を射るためのものだ、証拠は何も無いが俺ならそうする。


 俺はグラグラと揺れるゲジ男の背を走りきり手綱を握る赤帝のに駆け寄ると

「ここでゲジ男を止めろ、後詰が来るまでに先鋒の六人を仕留める!」


 そう言ったが近くにいたカリスティルが俺の服を掴むと

「ダメよ! もう少しでアルディアに帰れるの!」


 そう喚く、正直意味がわからない、追っ手の方が足が速いからいずれ戦闘だ、弓を持つ騎馬に追いつかれるとゲジ男が弓で負傷して動けなくなる、最低の場合ゲジ男が死ぬことすら考えられる。

 コイツは本当に逆境に弱すぎる、見て見ぬ振りをしていれば明るい未来が開けるとでも思っていやがるのか?


「ゲジ男が怪我でもしたらどうやってアルディアに行くつもりだ!」

「だってもう少しなの! こんなに大きいんだから大丈夫よ!」

 

 ガクン、とスピードが落ちた、危うく振り落とされそうだったがしがみ付いて難を逃れる、見れば赤帝が手綱を引いてゲジ男を止めている、さすが年の功だ。


「なんでよ!」

 カリスティルが何事か喚いているが無視する、もう追撃は間近に迫っている。

「よし、話が通じて助かった」

 俺は赤帝の肩をポンポンと叩く

「あのエルフの娘が死ぬと我の姿も本来の物へ戻ってしまう、死なせるわけにもいくまい」 

 この野郎、自分の事がメインかよ、と頭にきかけたが結果は上々なので不問にする。


「よし、始末してくるから大人しくしていろ、あの馬鹿もできれば抑えていろ」

 俺はカリステティルに親指の先を向けて赤帝に伝えゲジ男の後方に駆け出す。




 後方に駆けつけるともうヨモギと六人は戦闘を開始していた、開始していたというか三人既に始末していた。

 馬は六匹とも斬られ、傭兵の三人は背中から刺されているようだ。


 場面を見ただけで予想がつく、ヨモギはゲジ男が止まると同時にゲジ男の背から飛び降り馬に跨った男達が近づいた瞬間仕掛けたのだろう。

 騎馬が向かってくる、ヨモギは持ち前の速度で相手が下馬するまでに全ての馬に剣を突き立て馬を暴れさせる、転げ落ちてきた男を順番に刺していったはずだ。

 ――俺ならそうする。

 だが幼い少女が三人の人間を躊躇いもなく刺し殺すか……


「タイサ、これが正しさですよね?」

 ヨモギはそう言って爽やかな笑顔を見せる、正直ゾッとしたが役に立ったし正しい。

 俺は若干腰が引けていたがヨモギの頭を撫でながら

「よく持ちこたえた、さすが俺のヨモギだ」と誉めてやった、絶対に良い方向には育っていないが俺の立ち位置では誉めるべきだ。

 相手は六人で俺が来るまでヨモギは一人だ、ヨモギの取った戦術は最良と言っていい。


 インテルリ丘陵方面からは後詰めが近づいている、急いで仕留めないと戦力差は開く一方だ。

「カスごときが誰を追ってんだよ!」 

 俺は剣を抜き一番近くにいた男の間合いに入る、お馴染みの魔獣の皮鎧、こいつらは龍探索の傭兵だな。

 ヨモギとアイコンタクトを取りながら間合いを探る、三対一のような体勢だが奴らの後方はヨモギがウロウロしている。


「シッ!」

 俺は手打ちの突きを見せる。

 男は大きく避ける、俺にも聞こえるほどこいつらは息がハァハァと粗くなっている、仲間を失い焦っているのだ、ここは早目に仕掛けるべき。


「ハッ!」

 俺は更に踏み込むと軽く胴払いを払った、男の腹を僅かに掠める。


「がぁっ!」

 だがそれでいい、引きすぎた体制のまま更に飛び退いた男の背中にヨモギの短刀が突き刺さる、戦いというより漁だな、男はジャリまみれの道に這いつくばる。

 傷が浅いので俺が頭を叩き斬る。

 男は大切な中身を撒き散らして絶命した、後詰が来るまでに残り二人を始末しなとな。


 やや強引に切先を振り二人の男を追い詰める、後ろのヨモギが気になるのだろう、俺に対してどうにもならないようだ。


 『ザッ!』――――唐突に男の背後から土を蹴る大きな音!

 男はバッ! と背後を振りかえるがヨモギは土を蹴っただけで動いていない!

 ――俺は振り返った男の背を袈裟斬りにした――

 その場で崩れ落ちる男はそこで消えた物として意識から消し、残り一人の男に切先を向けた。


 いやはや、ヨモギさん、随分と俺の思考に染められていってるな……確かにナイス連携プレイだが人間として腐っていってるぞ、多分。

「逃げるなら止めないけどどうする?」

 俺は残り一人となった男に余裕の表情で尋ねる、やさしいなぁ。


 男は目に狼狽を浮かべながら引きつった笑いを浮かべ、そして……「うあぁ……」

 踵を返し逃げ出そうとした瞬間、がら空きの腹をヨモギに刺された。

 背中を付きぬけた切先が左右に踊る。

 ――容赦の欠片もない――


「ウフッ、うまくいきましたね」

 ヨモギは男の腹を剣で貫き痙攣する人間の返り血を浴びながらとても澄み切った笑顔を俺に見せた。

 ――小便チビるかと思った――

 

「あ、あぁ上出来だ……」

 ヨモギの予期せぬ方向の成長には今は目を瞑ろう、今の場面では助かっている、それは事実だ。


 俺はインテルリ丘陵方面を見据える、土煙を上げ後詰が迫る……が、俺たちの後方にいるゲジ男が急に動き出し道を外れて草原を爆走しだした。

(何があった? またカリスティルのせいなのか?)


「貴様らも逃げろ!」

 ――赤帝が聞いたこともない大声で怒鳴った――なんだ?


 辺りを見回すと後方の騎馬一団の中で燃えている? 黒い炎と表現すればいいのか。その黒い炎はいつの間にか発生していた上空の黒雲に渦へ吸い込まれ――――

「――なんかヤバイ! ヨモギィ! 走れぇ!」


 俺は叫ぶと同時に草原に駆け出した。


 その黒雲は黒い炎を全て吸い尽くすと白い雷を吐き出しが先ほどまでゲジ男がいた場所に直撃した。

 最初に『パーン』という軽い音が逃げる俺の背後から聞こえ、一瞬の静寂の後、凄まじい爆風が俺を吹き飛ばした。


 飛んだ後、ゴロゴロと転がり、合計で三十メートル近く飛んだだろうか。

 体はあちこち軋むが痛みは感じない、戦慄って麻酔効果もあるんだな……


 直撃を受けた街道は25メートルプールほどの黒焦げたユニットバスに地形を変化させていた。

 間違いない、これは魔法だ! 魔法使いだ!


「こんなに凄い魔術師が……」

 俺の近くにいたヨモギが呟く。


 後詰には魔術師もいるらしい、どう考えてもダゴスタ村で戦った男より強力な術を使う奴だ。

 土煙を上げて迫る騎馬集団は全員で六名、見たところ二名はエスターク兵のようだ。


 それと、どうやら魔法ではなく魔術らしい……




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