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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
2章 グレーマン街道編
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6話 赤帝龍王 前編

 

 状況を確認してみよう……俺たちは龍捜索隊から逃れてカリスティルの誘導に従い山道を登ってきた、だがカリスティルが存在を主張する坑道は見当たらなかった。

 確かに今現在俺たちが存在しているのは坑道らしき横穴だ、だが入り口なんていうものはなかった。

 入り口はホログラムか何かのように岩壁に偽装されていた、ここに入れたのはカリスティルのおっちょこちょいの産物だ、まぁそれはいい、それはいいが目の前のコイツだ。


 明らかに龍だ、カリスティルもそう口にしているし俺にも龍に見える、だが小さい、うん、立っている龍の全長は一メートル以下だろう、薬局の前にあるケロヨンの人形ほどしかない。


「龍だわ……これを持っていけば……街道を通してくれるかも……」


 カリスティルはそう言うが俺には無理に思える。

 確かに奴らの目的は龍だ、だけど俺たちはもう何人も奴らを斬っている、俺なら見逃さない。


「まてよ」

 俺は剣を抜こうとするカリスティルの前に割って入った。


「なんでよ……もしかしたら街道を通れるかもしれないじゃない」

 カリスティルはそう言うがその口調は弱い、余りにもお粗末な希望的観測だと自覚しているからだろう。


「とりあえず、とりあえず剣を治めろ、話がある、それは……っ」


「そうですね、それにここの出入り口、これはその龍の術かもしれませんよ」

 ヨモギが俺の会話中に割り込んできた、俺がカリスティルを煽って馬鹿にしながら解説し始めるのを読んだのか?


「お…おう」

 言葉に詰まってしまった……ヨモギのターンだ。


「何で……?」

 カリスティルは精神的に相当参っているのか考えればすぐに出るはずの答えも思い浮かばないらしい。


「カリスティルさんも言うようにここは坑道です」


「ええ、そうよ……」


「しかしこの坑道の入り口は見えませんでした、魔術か魔法かは私にもわかりませんが目の前の龍が姿を隠すために仕掛けている幻術と思えるからです、現にこの場所を知っているカリスティルさんにも入り口がわかりませんでした」


「で……でも術や魔法が使える龍なんか聞いた事がないわ!」


「その話の中に赤い龍は含まれていますか?」


「いえ、レッドドラゴンは伝承だけの存在なのよ……本来は、ね」


 ヨモギが変だ、口調や仕草が変わったのはカリスティルの教育のせいだと分かっている、二人だけの時間にカリスティルがヨモギに講釈を垂れているのを何度も目撃しているからな。

 

 だが十歳前後の子供がこんなに理路整然と意見を言うことができるだろうか……何かを見落としている気がする。


「今ここで龍を討伐してしまうと入り口の術も解けて捜索隊に発見されてしまう恐れがあります」


「そうだぞ~カリスティル~」

 俺は――最初からわかっていたぞアピール――を入れてせめてもの抵抗をしてみた。


「確かにそうね、でもその間にその龍が暴れだしたらその限りではないわ!」

 カリスティルは剣の柄に手を掛けたまま同意した。


「しばらくは動けません、その間に今後の方針を決めましょう」




 ――それから全員が動かず話さず沈黙だけが過ぎていった、一時間はたっただろうか、最初に動くのはやはり俺。

「さてと、今日はとりあえずここで捜索隊をやり過ごすとして……」


 俺は龍に数歩歩(すうほあゆ)み寄る、理由は特にないがあえて言うなら豪胆アピールだ、リーダーシップを奪還しなければならない。

 剣は構えない、俺は自分より小さいものには警戒している態度を取らないことにしている。


「あんた、なにやってんのよ!」


「いや、な~に、術が使えるなら言葉も話すかな~? ってよ」

 俺は可能な限り軽快に返答しスタスタと龍に歩み寄る。


「馬鹿じゃないの! ブレスで焼かれるわよ!」

 ……何それ? ヤバイやつなのかな……俺は歩を止めた、が、このまま引き下がっては俺の沽券に関わる。


「なぁ、お前って言葉は話せるのか?」


 龍との距離はまだ十メートル以上離れていたが俺は声を震わせることなく自然に話しかけることに成功した。

 さて引き返そう。


「うむ、貴様の言葉は理解できておる」


 ……そっか~まさかとは思ったけどそんなもんだよな~世の中、この世界では畜生でも言葉を話すくらい朝飯前なんだな~……。

 そんな事があるのか……?


「うそ! 信じられない、頭が変になりそう……」

「凄いです……タイサ……」

 

 カリスティルはコメカミを押さえながらフラッとよろめきヨモギは俺を憧憬の眼差しで見つめている、何かに勝った気分だ。

 

「おっおう、どうやら話せるやつみたぜアミーゴ」


 何故かカリスティルとヨモギを友達認定してしまったがまだ俺は平然と出来ているはずだ。


「会話をするのは二千六百年ぶりかのう……」

 どうする? 愉快なフリートークをご所望のようだぜ……さて、どうするか……


「えーと、あなたは本当に龍なんですか?」、

 ヨモギの瞬発力は異常だ、また先手を打たれた。


「異なことを言う女よな、貴様には我が何に見える」

 女だと? まだ子供だぞ、こっちの世界ではロリコンが平均なのか、あなどれない世界だ。


「私にも龍に見えます、ですが言葉を介する龍に心当たりがないのです」

「貴様等が魔獣としての龍を指して言っているのであれば異なる者、別の者ということになる」


「おかしいわ!赤い龍なんて、知らない、きっと誰も、……それに、話なんか、まだ捜索隊が近くにいるかもしれないのに! 聞かれたら……」


「ここは我の結界に守られた場、音など漏れはせぬ……ふむ、人間が周囲に六名ほどおる」

 五人じゃなかったのかよ……

「外の事がわかるのか?」


「それくらいのこと、龍脈の力を借りずとも容易い」

 気配を読む? いや、手に取るように分かるかのような言い草だな。


 押し黙ったカリスティルに変わり再びヨモギが話題を戻す。


「魔獣ではない龍、ですか……龍ではなく別の存在、ということですか?」

「我は龍だ、貴様にはそれ以外に何に見える?」


「私には別の存在に心当たりが無いのです、よろしければお教え頂けませんか?」


「ヨモギちゃん……」

 カリスティルもやっとヨモギの変化に気付いたようだ、理由は俺にもわからんけどな。


「我は二千六百年前にルシファルと共にこの最下位相世界に落とされた天界の龍だ、どの位相世界でも神話や伝承として残されている話だろう、知恵の実、人の始まり、いや、終わりかも知れんな」


「……」


 沈黙が辺りを包む、しかし俺にはわかる、日本人でも過半数の人間はピンとくるはずだ、天帝とか言うからわからなかったがルーキフェアの親分は堕天使ってわけだ、それでこいつが知恵の実を喰わせた蛇、天界のドラゴン様ってわけだな。

 俺の前にそんな大物が現れるとは思わなかったが表情に出したら負けな気がするのでポーカーフェイスを維持する。


「まぁなんとなくわかった」

「わかったって、何のことよ!」


「まぁいいからいいから、で、堕天使様は天帝とかいってブイブイ言わせてるのに何でドラゴン様はそんなにショボイの?」

 ヨモギのターンは終わって俺のターンだな、カリスティルは(うるさ)いから蚊帳の外で。


「貴様は……この世界の人間ではないな、おかしな話だ、この最下位相世界に歪な魂と記憶を抱えて転生はできない」


「知らんよ、知り合いの女と色々してたら何故かここに来たんだよ」


「勝手に話をされてもあたしにはわからないわ!」

 カリスティルが激怒しているが無視する。


 色々話をしてみると今更役に立ちそうにも無いがこの世界の事が色々わかった。

 この龍と天帝は知恵の実の扱いの問題で今は仲違いをしている状態だという事。

 この世界は二千六百年前まで違う世界だったが天帝の『神の意志を示す力』とやらで今の世界に作り変えたらしい、前の世界とはブッちゃげて言うと地獄、なんだろうな。

 その作り変えられた世界では黒髪を除く全ての種族が前世の姿で転生するらしいからヨモギの元のエルフやノームといった面白族もいる、様々な位相世界の力や能力がそのまま通用する世界、だから魔術、魔法、他にも妖術や精霊魔法なんてのも存在できる、言葉が伝わるのもその現象の一つみたいだ。


 そしてカルマ、これは読んで字の如く(カルマ)ってことだ、そりゃ~人を殺せば増えるわけだ、だが背負える罪に限界があるように人には決まった器があり器以上の業は背負えないらしい。

 世界は神が創った無数の位相世界に別れ、(けが)れた魂はカルマに引かれ最下位相世界へ落ちて生まれ変わる、まぁ有体に言えば地獄落ちってことか。


 カルマを背負えば怪我は直るし老化すらしないという話だから地獄だった頃はそれだけ苦しむ時間が長いってことなんだろうけど今やステータスと化している、皮肉なもんだね。


「なんだか物知り博士だな」


「不愉快な物言いだが貴様らの無知からすればそう見えるだろう」


「褒めてんだよ、俺は特にこの世界の事はわからない、だから知識は貴重だし素直にお前に感謝しているんだ、お前が美少女ならキスしているところだ」


「……」

 伝承レベルの存在すらドン引きさせるとは今日の俺は絶好調だな、こっちの世界に来てから色々な出来事がありすぎて自暴自棄になっているだけかもしれんが。


「ところでまだ答えてもらってないんだがどうしてそんなにショボイの?」

 何故か煽ってしまう、短所だとは自覚している。


「――龍脈の力を受けておらぬからだ」


「めっちゃ弱そうなんだけど」

「否定は出来ぬ」


「その龍脈ってこの世界には無いのか?」

「あるにはある、しかし我にはどうすることも出来ぬ」


「あんた、何でそんなに馴れ馴れしくしてんのよ! 警戒しなさいよ、龍なのよ!」


 カリスティルは俺の裾を掴んでそう言うが俺には何も脅威に感じない。

『人は見た目が九割だ』恐らく人じゃなくても当て嵌まるだろう、龍の口調は偉そうだがその身は脆いと確信できる。

 だから俺は長々と話を聞いている、カリスティルにはわからないだろう、コイツは格式や先入観が強過ぎる。


「でさぁ、その龍脈の力って受けれるようになるのか?」


「龍脈の根源まで到達し龍穴に六つの屏風杭を穿(うが)てば本来の我を取り戻せるだろう」


「ならさっさと力を取り戻せばいいだろ、それとも『力は争いを産む』とか言っちゃう(こじ)らせているタイプか?」


「我には龍脈の根源まで辿り着く力は無いのだ」

 辿り着けない? まさか『俺の心の中にある』とかチープなセリフを吐く気ではないだろうな?

 俺が怪訝な目をしていると全てを察したのか。


「我の力は失われておりこの姿ゆえ人間に常に狙われておる、フラフラと出歩くこともできまい」

 あぁそっちの意味か、距離とか環境が悪くて移動できないって意味ね。


「力が戻ったと仮定するとどんなことができる?」


「我は『神の力を示す者』この世界は神の意向(いこう)は強いが意思は無い、ルシファルの真似事くらいなら可能だろう」

 俺の読解力では意味がわからない、しかし脳内にイメージくらいは思い浮かぶ、何やらワクワクする。


「まぁ言ってる事は全くわかんねぇんだけど……」

「例えばだ、俺の黒髪はルーキフェアでは散々追い掛け回されるほど忌み嫌われている、実際に追い掛け回されたんだ……あぁ、ついでにヨモギも緑の髪と目であまり良い扱いは受けていなかったぽいんだ、聞いてないから知らないがな」


「神は黒髪だ、ルシファルにとって黒髪は憎悪と怨嗟の象徴なのだ、奴からすれば自分の支配する世界に黒髪は不要だろう」

 龍は当然のこととして流した、俺が追い掛け回されたのは個人の好き嫌いが原因かよ! まぁそれは後回しだ。


「ルーキフェア以外ではそこまで邪険に扱われることは無いみたいだがそれでも俺の黒髪はルーキフェアが支配している世界にいる限り、いつ狙われてもおかしくねぇ、そこでだ……」

 言葉を切る、喉の渇きを実感する。


「お前のその力が戻ればルーキフェアが中心の世界を変える事はできるか?」


「この世界は天使長であったルシファルの再構築した世界だ、そこまでの力は我にはない、だが世界を切り取ることならば可能だろう」

 格は龍よりも天帝の方が上ってわけね、そらそうだ、コイツは洞穴に隠れ住むほど落ちぶれてるわけだしな。


「どういう意味だ、切り取るって?」

「龍脈の根源、龍穴を基点とした限られた地域なら切り取ることは可能だ」「一定の範囲でルシファルって奴の力が及ばない地域を作れるってことか?」


「ルシファルの力が全く及ばないわけではないがの」


「ほほぅ、悪く無いかもな……」

 自分でも酷く歪んだ薄ら笑いを浮かべているのがわかる。


「あんた……まさか……」

 カリスティルも俺との付き合いが長くなったせいか次のセリフがわかったらしい。

 ヨモギは最初からわかっていたのだろう、俯いているがその僅かに見える顔が……邪悪な顔で笑っているように見えた。

 そうだよなぁヨモギ、こんな世界捻じ曲げてやろうぜ……




「その龍脈の根源とやらに俺らが連れて行ってやろうか?」


 辺りが静寂に包まれる……どうやら気持ちのいい肌触りをした地雷を踏み抜いたらしい……



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