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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
2章 グレーマン街道編
27/85

5話 坑道突入

 

 

 話し合いが終わった後、俺は直ぐにでも眠りに付きたかったのだが、夜は街道を進むと決めたばかりな事を口実に、カリスティルは朝まで移動すると言い、方針を違えば斬る、と、先ほどビシッと決めたばかりの俺は反論する術も無く従った。

 舌の根を乾かすには時間が短すぎた。


 ヨモギは傷が痛むはずなのだが、夜が明けるまでずっと明かりを絶やさずゲジ男の頭頂部でがんばっていた、カリスティルがヨモギに「大丈夫?」「苦しくない?」とか隣で声を掛け続けていたが「お前のせいで無理してんだよ」と言いたかった。


 夜が明ける前にゲジ男の駐車スペースに到着し、やっと移動は終了となった、大体の地形はカリスティルが把握していたのでギリギリまで移動できた。

 カリスティルが言うには、アルディアの領地ということで土地堪があるということ、ムセルダイトとかいう白魔法の効果がどうとかっていう鉱石の鉱脈があって王族ならこの地域に詳しくて当然らしい。 


 まあどうでもいいがヨモギが負傷で狩りができないから白い太陽の間はゲジ男を俺が魔獣から守らなくてはならない、実は徹夜の俺は眠くてヤバかった。

 隣にカリスティルが居なかったら寝ていたかもしれない。「寝たら殺されるぞ!」と自分に言い聞かせて起きていた。


 赤の太陽が出て即効で隔離部屋に駆け込んで寝た、カリスティルは知らん、明日からの気不味い生活を思うと逃げ出したくなった。


 その後は夜は僅かな明かりを頼りに移動しながら太陽の登っている時間は物陰に身を潜める生活を十数日過ごすことになった。



 

 そんな毎日の繰り返しをしていた。

 その日もいつものように夜の間だけ移動して白い太陽の間、魔獣を見張っていた、ヨモギの傷も殆ど治り、ボチボチ俺の快適な生活の為に魔獣の守りを交代してもらおうかなぁと思っていた矢先。


「捜索隊がこっちに向かってくるわよ!」――と、カリスティルが声を掛けてきた、カリスティルに声を掛けられたのはあの日以来だ。


「マジきゃ、全部で何人だ?」

 久々に声をかけられて声が上ずってしまった。

「五人以上はいると思うわ!」


 五人以上か……カリスティルのことだから数え間違いか何かで実数は百人を越えるかもしれない、これはマズイ……


「この脇の山道を少し登れば廃坑の横穴があるわ、そこに隠れましょう!」


 ふむ、どちらもカリスティルの情報だ、心配でならない、言われるがままノコノコ進んでいって終点は敵の本陣って可能性もあるからなぁ、カリスティルだし。


「早くしなさいよ!」

 カリスティルが勝手に決定している中で俺が悩んでいるとヨモギが荷台から顔を出して。


「カリスティルさん、その坑道にいきましょう」

 と、言って俺を無いものとして方針が決まった。

 まぁ役に立つヨモギが言うなら安心だな。


 


 カリスティルの誘導に従い狭い山道を進む俺達だったが……カリスティルの言う事だから少し不安な俺はカリスティルとヨモギに先行させ、一人で後退して敵を確認しに戻った。


「ふむ……本当にいるな……」

 遠目で捜索隊を確認できた。


「見えるだけで五人……か」

 どうやらカリスティルの情報は正しかったらしい、実はカリスティルはスパイで俺達を危険地帯に誘導しているって線はこれで消えたな、まぁあんな短絡的な奴をスパイにする意味も理由もないのだが。


 草葉の陰に少し潜んで奴らの会話を盗み聞きする……


「ちっ手掛かり一つありゃしねぇぜ」

「まぁ赤龍って噂だしな、エスタークの連中は言葉を濁しちゃいたが」

「本当かよ! 最高位の龍って噂だったが赤龍って……俺は架空の生き物だと思っていたぜ」

「まっ、この山道を調べたら本体に合流しようぜ」


 ふむ、都合よく聞きたい事は全て言ってくれた、奴らが余りにも無駄口を延々と叩きながら気楽な雰囲気なもので「お前等楽しそうだな」と言って斬りかかりたい衝動に駆られたが自分を律して聞き耳を立てていた、俺は奴らが通り過ぎた後で先回りして駆け出した。


 カリスティルがドジを踏んで何か手掛かりを残していて、俺たちに追っ手が掛かったかと警戒していたが、その懸念は杞憂に終わった。

 どうやら龍の捜索隊にぶつかったらしい。

 奴らがこのまま山道を登ってくるとヨモギとカリスティル、通称ゲジ男隊を発見されてしまう、まずゲジ男対と合流しなければならない。

 俺は急いで先回りして山道を駆け上る。




「おい! すぐそこに龍の捜索隊が迫ってる、早く隠れないと戦闘になるぞ」

 俺はハァハァと息を切らせながら山の岩陰に身を寄せていたカリスティル、ヨモギ、そしてゲジ男に伝えた。

 ヨモギとカリスティルは同時に俺に振り返ると、ヨモギは控えめに首を振りカリスティルは口をヒクヒクさせながら口を開く。


「えっ……あの……」


 カリスティルはうろたえた声を漏らす、自信満々に土地勘がある風な態度だったが今は酷く不安気な表情、知った被りだったのか?


「いいから早く坑道とやらに隠れるぞ! どこにあるんだ?」


「それが……」

 嫌な予感がする。


「なんだよ、お前の誘導でここまで来たんだろ! ここからどう進むんだ?」

 敵が近くから迫っている状況でつい声を荒げる。


「違うの! ここにある筈なのよ! 坑道の横穴!」


「どうしたんだ、何も無い唯の岩肌だぞ……年甲斐もなく思春期を拗らせた発言だったならブン殴るぞ」


 カリスティルは指差しているところは、穴はおろか凹みもないゴツゴツした岩肌だ。


「違うのよ! 絶対にここなの! ここにあったはずの坑道がないのよ!」


坑道って結構でかいだろ、普通に考えて無くなるわけない、ってことは……まさか……

「カリスティル、お前、昨日何を食ったのか覚えてるか?」


「失礼ね! 呆けてないわよ! 違うのよぉ!」

 凄い剣幕で怒られた、いつものヒステリーだ、心配してやったのになんて言い草だ。

 しかし、無いものはないのだ、捜索隊とぶつかるのは目前で巨大なゲジ男がいるから隠れる事はおろか奇襲も無理だ…… 

 

「本当なのよ! ここにあったのよ!」


「もう大声出すな、もう敵は近くまで来ているはずだ、こうなれば迎撃するしかない」

 カリスティルはついに泣き出してしまった、何というか食中毒を出した飲食チェーンの記者会見みたいな光景だ。


「カリスティルさん、大丈夫ですよ」

 ヨモギがカリスティルの背中に手を回して抱きしめながら慰める。

 いや、そんな良い話しに持っていっても事態は何も進展しないぞ、それと二十歳くらいの女が小さな子供に慰められているのは少し恥ずかしいぞ。


「本当なのよ! ここにっ!……」

「……!」

 カリスティルが消えた! 何の変哲も無い岩壁を拳で横殴りしようとした所までしっかり見ていたが、カリスティルが拳の揚力だけでスッと岩に吸い込まれていった、いや、岩がホログラムか何かだったかのように抵抗無く入って行った……

「ヨモギ……」

 必死に声を絞り出す……

「はい……」


 少し理解が追いつかない、ここは最初の大前提から確認しよう。


「俺達の知り合いにカリスティルってやつがいたよな?」

「はい、今、岩壁に入っていかれました」


 やはり実在していた、俺の脳内だけに住む二次元彼女ではなかった、そりゃそうだ、もしそうならもっと性格がいいはずだ。

 だとするとこの岩にカリスティルは入っていったのか?


「私も試してみます」

 ヨモギはそう言うとカリスティルが入った岩壁にゆっくりと手を伸ばした。

 スッ、と手が入った、理屈はわからないがここは通れる……


「ヨモギ、後ろにはもう敵が迫っている、先に入って確認してみてくれ!」

 正直に言うと俺は少し、ほんの少しだけ怖い、思わずヨモギにお願いしてしまった。


「はい」

 ヨモギは岩にしか見えない岩壁に首を何のためらいも無く突っ込んだ。


「ど……どうだ?」

 ヨモギは首をこちら側に戻し眼を大きく見開き俺の顔を見ながら


「中は広い坑道です、カリスティルさんも居ました、ゲジ男さんも入れるほどの広い横穴です」


「――そうか」

 横穴はカリスティルのイメージとは違ったみたいだが存在していた、俺はゲジ男を先に岩壁に向け進ませた、そして最後に岩壁に入った。




「広いな……」

 穴は立て横共に十メートルくらいの広さが有り、ゲジ男もターンに疑問は残るが頭から突っ込む分には十分な広さがあった。

 どうやって隠しているのかは分からないがここなら誰にも見つかる事は無いだろう。


「よくやったカリスティル、これでヨモギの傷の分はチャラにしてやる、残りは借金だけだな」

 そう言ってしゃがみ込んでいる俺は労を(ねぎら)ってやった、が


「ほら……言ったじゃない……うぐっ……ここにあるって……ひっく……」


 戦慄に顔が歪む、いい年した大人の女が大泣きだった、ヤバイ、色々追い詰めすぎたかもしれない、九割以上俺が……

 どうしよう、苦手な空気だ……こんなに追い詰められていたとは……


「うん、そうだな、うんうん、あった、横穴あった、カリスティルの言ったとおりだ、偉いぞ~」

 やばい、自己嫌悪で俺までウルウルきそうだ……


「あった……ヒック……よかった……本当に、もし無かったらっ……あたし……ウッ、どうしようって……」

 俺にはどうする事もできない、最早已(もはやや)む無し、どうにでもなれ!


 俺はカリスティルの背後に回り込むとおっぱいを両手で鷲掴みにした、そして()ねた、理由は自分でも説明できない。

 カリスティルのおっぱいの感触を感じながらも俺は思う。

 力の限りぶん殴ってくれ、最悪の場合斬られても抵抗しない! ……と、だが……


「本当でしょ……嘘じゃないでしょ……ねぇ、うぅっ……私は嘘つきじゃない……」

 なっ、何の反応も示さず両手で顔を覆い泣き続けている……これは、もう胸が痛い、張り裂けそうだ……

 これでは泣いている大人の女の胸を後ろから鷲掴みにしているだけだ!

 まさかこれは! もう、服の中に手を突っ込むしかないのか……


 俺が心臓の高鳴りを押さえつつカリスティルの服の中に手を忍ばせようとした、正にその時だった。


「何かいます!」

 ヨモギが大声で叫ぶ、カリスティルもビクッとなって我に返る、俺も心臓がドキッとなって胸を抑えて(うずくま)った……


「ヨモギちゃん、どこ?」

 カリスティルは正気に戻っている、本当に良かった。


「……!」

 俺は心臓のダメージで声が出ない。


「あそこです、今、明かりを当てます」

 ヨモギの有能っぷりは異常だ、だが、助かっているのは事実だ。

 

 ヨモギの手から光が発せられる、小さな明かりだが薄暗い坑道を照らす。


「あれってまさか……」

 光に照らされた薄暗い坑道の奥に一つのシルエットが浮かび上がった。

 

「そんな……」

 カリスティルは驚愕を露にした、ヨモギは冷静に見ている。

「龍ですね、カリスティルさん、私たちが見つけてしまいましたね」


「そんな……まさか……赤い龍なんて……」


 カリスティルの驚愕とは裏腹に俺は呆けていた。

 赤いと何が凄いのか俺にはわからない、カリスティルのおっぱいが凄いのはわかるが俺にはこの龍が凄く思えない。

 目の前に現れたのは赤い体に金色の爪、金色の眼、金色の角、金色に光る無数の棘、そして金色の片翼を広げた龍だ。

 



 ただし全長は一メートル未満……


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