表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
2章 グレーマン街道編
26/85

4話 揺れる方位磁針

 

 

 閑散としたダゴスタ村の入り口は俺、カリスティル、エスターク兵三名による戦場になっている。

 俺は切先を揺らしながら前衛を押し込もうとしているが後衛の動きに警戒しなければならないため踏み込むには至らない。


 カリスティルは前衛と睨みあっている、俺の剣の真似事ではあるがカルマが大きい事もあって間合いの取り合いで右前衛の先手を封じている。


 ヨモギの様子は伺えないが死んでいないと信じるのみだ。


 村の方ではいつの間にか人だかりが出来つつある、『街道封鎖の厄介者同士が仲間割れしている』とでも思っているのか騒ぎになってはいない、とても冷ややかに眺めている。


「ここからじゃ狙えない、もっと追い込め!」


 後衛が指示を出す、あいつが隊長か司令塔みたいなものか……どんな奥の手を隠しているか分かった物ではないが俺は常に後衛と前衛の直線上に立ち位置を調節しつつ切先を揺らし牽制する。


 興奮を抑えながら後衛の遠距離攻撃を警戒する、この世界では弓の類を見ない、きっと独特の肌触りがある大気が原因だろう、だが先ほどの炎は一直線に飛んだ『投げる』ではなく移動させる感じだろうか。

 直線に飛ぶなら味方の背後からは撃てまい。


 仕掛けず切先を揺らし左翼前衛を追い込む。

 後衛は前衛の後退に息を合わせるように下がっていく。

 俺にだけ意識を集中させているのだろう、左翼と右翼の間にかなりの距離が出来ている。


 カリスティルも旨くやっている、左右にステップを踏みながら自分に右翼前衛を釘付けにできている、頭を使わせたらダメな奴だが力仕事ならそれなりにこなせるか……脳筋だな。


「うらぁ!」

 俺はわざとらしい掛け声で間合いを一気に詰める。

 予定調和のように前衛の男はバッと後方に飛び、後衛の男もそれに応じた。


(掛かった!)

 俺はその動作に合わせ左翼前衛の間合いを離脱。

 カリスティルと相対している右翼前衛に(きびす)を返し飛びかかる!

 僅かの間だが二対一だ!


 声はおろか息も殺しての急旋回

 右翼のエスターク兵の側面へ斬りかかる

 飛び込むように上段一閃!

「なっ!」

 右翼が体を廻して声を漏らすがもう遅い。


 『ザシュッ!』

 俺が放った背後からの一閃は首筋から脊髄付近を斬り下げ鎧の縁で止まった。

 鮮血が噴水のように飛び散る。


「飛べえええええええええええええ!」

 直後、俺は叫びながら横っ飛びに飛ぶ!


 カリスティルも吊られて飛ぶ!

 俺が先ほど右翼前衛を斬りつけた場所を炎の塊が通過する!

 だが気にする余裕はない、好機(チャンス)だ。


「カリスティル! 後衛に突っ込めぇ!」


 そう叫びながら這いずるように上体を起こし倒れこんだ俺を追撃に来た左翼に切先を向ける。

「二対二だなぁ~」

 俺は可能な限りの邪悪な顔を作り眼光にハッタリを効かせ左翼へ囁く。

 左翼は俺の切先で動けない。


 カリスティルがカルマの量に見合ったダッシュ力で後衛に飛び込む!


「うがぁ!」

 後衛が剣の柄に手を掛けた時にはカリスティルの突きが後衛の妙な技を使う男の胸に吸い込まれ背中から――コンニチワ――した。

 相手の陣形が崩れた瞬間に全体を崩しきるのは基本だ。

 ワンシーンごとに溜めを作るのは少年漫画の主人公に任せる。


 後衛の男がカルマを漂わせているのを視界の端で確認し

「どうする?一人ぼっちだなぁ~」

 顎を少しだけ上げて煽る、相手は俺より背が高いから見下ろせないのが辛い所だ。


 カリスティルは剣を後衛から引き抜いて残った一人の後方に回り込む、残った最後のエスターク兵は茶色い瞳に狼狽の色を濃くしながらカリスティルに意識を奪われる


「俺を舐めてんのか!」

 俺は隙のできた男の胸に浅い突きを放つ!

 男が怯んだところをカリスティルが腰の辺りを突く。

 エスターク兵は腰に深手を追い、我武者羅(がむしゃら)に後方のカリスティルを払おうとした。

 その隙に俺は男の足首を薙ぐ。


『ザン!』

 と斬撃音を鳴らし足首を叩ききられた男はもんどり打って倒れた。


 

「がぁああああっ!」

「そらよ!」

 呻き声を上げる男の右手に持つ剣を蹴り飛ばした。


 俺は荒い息を吐くカリスティルを見遣って吐き捨てる。

「お前、こいつらに聞きたいことがあるんだろ! さっさと済ませろ! 俺はヨモギを見てくる」

 そう言ってカリスティルを残しヨモギに向かって駆けた。


 ヨモギの情報ではエスターク兵の数は少ないがこの三人が全てではない、ここで要らぬ時間を潰し総勢四十人もいる連中と鉢合わせすれば終わりだ。

 ヨモギを回収して素早くこの場を離脱するに限る。


「これはきついな……」

 ヨモギの背から肩にかけては裂傷のような深い傷が入りその周辺は焼け爛れている、普通の火傷だけじゃない、原理はわからんがあの炎の玉は質量を伴っていたらしく触れた部分を削り取っている……


 直撃していたら骨も残らないな……これは……


「おい、生きてるか! 生きているならニャーと言え!」

「ニャ…ァ……」

 ヨモギは瞳を滲ませながら弱々しく応答する。

 生きてはいるが顔色は真っ青で明らかに重傷だ。

「よし! 生きているな! ゲジ男に戻るぞ!」


 俺はヨモギを抱きかかえる、思ったよりも重い! もうガリガリじゃないもんな、そりゃそうだ。


「カリスティル! 話が終わったらさっさとトドメを刺して引き上げるぞ」

 怒鳴るように大声で叫ぶも返答はない。


 本当に役に立たない上に足を引っ張りやがる、胸がムカムカする。

 カリスティルは横たわっている男の襟首を掴み上げて騒いでいる、俺の言葉が耳に入っていない様子だ。


「アルディアの!……王族はどうなったのよ!」


「生かしておくわけないないだろう、貴様もアルディアの王族なら奴らが……どうやってカルマを宿しているか知っているだろう、お前のカルマも奴隷を殺して手に入れたものなのだろう……憎きアルディアの忌まわしい……俺の……」


「ううっ――」


 いつまでも楽しいフリートークしてんじゃねぇよ!

 俺はカリスティルの元へヨモギを抱きかかえたまま駆け寄ると尻を蹴ってやった


「いつまでもここにいたら見つかるだろ! もう引き上げ時だ、早くしろ!」

 カリスティルは振り向きざま空ろな瞳で俺を見上げながら

「だって……そんなはずないもの……」と声を絞り出した、何を話していたかは知らんが時間がない!


 もう構っている暇はない、俺は剣を抜きエスターク兵の喉に突き立てた、せっかく話をさせてやってもカリスティルの耳には都合の悪い情報は入らない仕様らしい、時間の無駄だ。


「――なっ!」

 カリスティルが俺を責めるような顔で絶句しているが構うものか!

「いいから引き上げるぞ! お前、ヨモギを殺す気か!」


 俺たちはゲジ男の元に駆け戻ると、村から離れた空き地に移動した。

 この辺りは森林に紛れて空き地が点在している、材木置き場のようなものだろうか、とりあえずの拠り所としてその一角にゲジ男を隠した。


 俺は初めてゲジ男の手綱を握ったが運転は簡単だった、まぁヨモギに運転できるくらいだものなぁ。






 夜になってゲジ男の影で街道に明かりが漏れないような角度で焚き火を起こし、今後の方針について話をすることになった。


 本来ならヨモギは安静にして荷台の中に設置したベッドで寝ているべきだが、ヨモギが「私も一緒に話を聞きたいです」と言うので簡易のベッド、実際はそんないいものではなく雑草を集めた上に布を敷いただけだが、その上で横たえて話しに耳を傾けている。


 実際ヨモギは参加したいわけではなくカリスティルの安全を考慮してお目付け役としてその場にいたいのだろう。


 理由は明白で、俺がカリスティルに対して我慢の限界だからだ。


 我慢の限界とはいってもカリスティルのたわわな胸に辛抱堪らんという意味ではない――俺がカリスティルを斬ってしまうことを警戒しているのだろう、カリスティル本人は気づきもしていないだろうがな。




 俺はカリスティルの直情的なところが嫌いだ、世間一般では一途だとか真っ直ぐな性格、だとかプラス面で評価されやすいあれだ――そういう奴は詰まるところ自分の気持ちだけを押し付けるってことだろう。

 他の、そう、ヨモギがカリスティルの向こう見ずな行動の結果負傷したことにしてもそうだ『私を庇って負傷した、可哀想、ごめんなさい』口で言うのは容易い。

 だがそんな結果が出ようともコイツは変わらない、心配するヨモギを他所(よそ)に自分の気持ちだけで突っ走り、これから先もなんら変わろうとはしないだろう。


 きっとそれが(まか)り通る世界で生きてきたんだ、自分はこう思う、回りの共感を得る、自分は正しい、この三段活用だ、特にコイツの場合は一国のお姫様らしいから周りは太鼓持ちばかりだろう――悪い結果を引き起こしてもそれを自分のせいとは思わず、誰からも責められず不幸な事故として自己完結して反省や後悔なんかしないのだ――正直に言うともう斬ってしまいたい。


 だがヨモギはカリスティルを気にするし何故かカリスティルもヨモギに気を使うというか妙に優しいというか、う~ん、俺にはわからんが何かしらの情で結ばれていそうで斬ることも見捨てることもできない。


「今後の方針だけど、ほとぼりが冷めるまで身を隠すってことでいいな?」

 どうせ言ってもわからないと最初から承知の上で言う。

「――それでもあたしはアルディアに帰らなければいけないの」


「知るかよそんなこと! さっきだって俺らが追わなければお前は死んでるんだぞ!」


「それは……だから私だけでアルディアに行くって言ったじゃない!」


「無理だっただろ! もう解かれよ! さっきみたいなのがゴロゴロいるんだぞ、強行突破なんかできるわけねぇ!」


「だって! アルディアにはお母さんが!」

 俺だけならカリスティルの好きにさせる所だ、何処へでもいけばいい、だがヨモギはまたカリスティルを助けるために動こうとするだろう、それが分かるから余計に腹が立って


「このっ!」

 俺は剣に手を掛けた……だけでは済まず抜いた、もう我慢の限界だ……


「な……なによ……」


「何じゃねぇよ、お前いい加減にしろよ、お前のせいでヨモギがこの様なんだよ、お前、歳はいくつなんだよ……最低でも俺より上なんだろ? なら分かるよな、馬鹿なお前をヨモギが心配して、それで心配した通りの行動を取って、その結果をヨモギが背負い込んだってことをだよ」


「それは……でも私は!」

「私は! じゃねぇんだよ、お前、俺やヨモギがいなかったら何回死んでると思ってんだ」


「だって――」

「だってって何だよ、それともあれか? お前の為に他人様が変わりに尻拭いをして、負傷して、それが当たり前だってのかよ」


「……」


「いいから選べ、俺はお前の我が儘につき会う気はもうねぇからよ、出て行くなら俺を斬って行け、まぁ俺がお前を斬るほうが先だろうけどよ、購入代金とかもういい、従うか斬り合うか選べよ」


 俺は剣を抜いたままカリスティルを睨み付ける、カリスティルの目がカタカタ震えていて狼狽しているのが手に取るようにわかる。


『ハッタリは使い()りする、安いハッタリは自分を安売りするのと同じだ』 クソっ、親父の言葉が耳障りだ。


 それでも、心配されて当たり前、気に掛けてもらって当然、剣を抜いた俺が理解できないって態度がムカついて堪らない……どうしろってんだよ!

 

「あの……いいですか?」


 ヨモギが話しかけてきた、不穏な空気を出しまくりだからな、主に俺が、何で俺はこんなに怒っているのか自分でも分からないくらいだしな。


「どちらか選べってタイサは言いましたけど……」

「あぁ――」

「――私の案を出してもいいですか?」


 ヨモギが自分の意見を言うなんて驚きだった。

 驚きすぎて「うん」と可愛らしく言ってしまった、俺の殺気が消えたからかカリスティルが口を開く。


「どうしたのヨモギちゃん、言ってごらん」

 ヨモギに対して優しい声色で(うなが)がす、いいお姉さんな態度が余計苛立つがもう(すご)むテンションにならん。


「あの……急いでは進めませんけど、夜は私が少し明かりを出すのでその間に進んで太陽の出ている時間は身を隠して少しずつ進んでいくのはどうでしょう?」


「……」

「でもお前はカルマが少ないから傷の直りが悪いんだ、大丈夫なのか?」


「私は平気ですよ、タイサ、心配しなくても大丈夫です」

「ぐっ――」

 大丈夫ではなさそうな気もする、だが心配していると思われるのは何故か嫌なのでそのまま鵜呑みにしてしまった。

 カリスティルもヨモギの案で納得したようで、俺への評価は最低になった代わりにヨモギへの好感度はMAXに達したようだ。


 ともあれ方針は決まった、方針を覆せば斬るとカリスティルに宣告し俺への好感度にダメ押しして話し合いは終わった。




 明日からは周囲に警戒しつつ街道を進むハードスケジュールだ。

 

 早く寝ることにしよう……


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ