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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
2章 グレーマン街道編
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2話 強行偵察



 俺たちはゲジ男の背に乗り一路グレーマン街道を南下している。

 インテルリ丘陵に入ってからは周りの森林はより濃くなっていき道幅も狭くなってきている。

 ゲジ男の車幅感覚がどの程度の物かは分からないが、道の向かいから同じサイズのキャタピラポッドが現れたら擦れ違えるのか不安だ。

 

 カリスティルは荷台の隅で小さくなっている、アルディア王国が滅んでいるという話を信じてはいない様子だが、不安は耐え切れないほど抱えているらしく話し掛けられる雰囲気でもない。

 俺はカリスティルと同じ荷台にいるのは(はばか)られるので、ゲジ男の頭で手綱を握るヨモギと並んで座っている。


「タイサ、カリスティルさんを見てあげててください」

 ヨモギはそう言うが俺には無理だ、力不足だ。


「いや、こっちにいるよ」

 俺は重い雰囲気が苦手だから沈黙に耐え兼ねていらぬチョッカイを出してしまう可能性がある。

 彼女の心情を(おもんばか)るにとてもおっぱいを触っていい状況ではない。 

 おっぱいを触れないなら一緒にいる意味も無い。


「私が見てきましょうか?」

「――それもいいや」


 俺にゲジ男は運転できない、手綱を握ったことがないだけだから慣れれば大丈夫だろうが、おそらく今度は纏まった数の追撃が来る、四人を撃退したのだからな。

 そんな状態でペーパードライバーである俺が手綱を握っているのはマズイ、今しなくてはならないのは身を隠せる場所を探して逃走計画を練ることだ。


「ヨモギ、どこかにゲジ男を隠せるような場所があるか?」

「ゲジ男は大きいですからね、探しながら進んでみます」

「あぁ、そうしてくれ」


 ゲジ男の高さは二メートルそこそこだが長さは二十メートル近くある、スペースの確保は容易ではない、そうそう見つからない。


 インテルリ丘陵に入ってから道幅はどんどん細くなってきてることから追撃を受ければやり過ごすのは不可能だ。

 ここの道に詳しいカリスティルに聞くのが正しい選択なのだろうが、俺に今のカリスティルに話しかける気概はない。

 何かしらのきっかけが欲しい所だ。


「あ、タイサ、村が見えます、周辺には空き地もチラホラ見えますよ」

 丁度丘を登ったあたりでヨモギの声で辺りを見渡すと確かに集落や、ゲジ男でも収まりそうな空き地が見えた。


「さすが役に立つヨモギだ」

 俺はヨモギの頭を撫でてやった、まめに頭を洗うようになったヨモギの頭はもうヌルヌルしない、変な異臭もしない、安心のヨモギヘッドだ。


「エヘヘ――」

 若干笑顔がキモイのが難点だな。




 俺達は脇道にそれて街道からは見えない場所にゲジ男を駐車すると三人で荷台に集まった、三人ならヨモギもいるし沈黙に耐えかねて俺の手がカリスティルの胸に伸びる事も無い。

 

「カリスティル、ショックなのはわかるが今考えてもしょうがない、今後の話をしよう」

 

 俺は凛々しくそう言えた、となりにヨモギがいるのはありがたい、基本的にマジメな話は苦手なので一人ではなかなか切り出せないのだ、おちゃらけてカリスティルを怒らせている場合ではないからな。

 

「今後って、私はあんなやつの話は信じないわ! 何が何でもアルディアに帰るの!」


「でもよぉ、何が起こっているかわかんないのに直進して突破ってわけにもいかんだろ? 相手の規模もわからんのに……」


「それじゃ騒動が治まるまでずっと隠れているつもりなの? 冗談じゃないわ、そんな時間ないのよ!」


 カリスティルは冷静さを欠いている『冗談も言えなくなったらお終いだ』の格言をしらんのかな、世界が違うからそんな言葉は無いのかもしれないが。


「この近くに集落があるのでそこで情報を集めませんか?」

 子供なのに役に立つ冷静なヨモギが常識的な提案をしてきた、バカリスティルとは大違いだ。


「俺も賛成だ、どんな状況かもわからんまま強行突破は難しいだろ、最低限、せめて相手の数だけでも把握していた方がいい」


「そ……それもそうね、じゃあ早速行ってくるわ!」

「ちょっと待ってくれ」

「なによ! また邪魔する気」


「お前はダメだ、常に興奮状態なのにまともに情報を集めれるとは思えん」

「一応ここは辺境だけど私の国なの! 私が聞くのが最善に決まってんでしょ!」


「いや、冷静な奴じゃないと無理だ、ここは俺が行ってきてやるよ」

 こんな状態のカリスティルに行かせても持ち帰るのは情報ではなくトラブルの類だろう。


「そんなのダメに決まってんでしょ! あんたなんか一人で行かせたらトラブルの元よ、女の子だっているかもしれないし!」


「どういう意味だよ!」


「言葉通りの意味よ! 頭が悪いわね!」

 こいつは俺を誤解している、が、誤解を解く手段は無い、こんなやつ両手両足縛って荷台に放り込んでおいたほうが正解なのではないか?

 

 俺とカリスティルが口論になっていると思ってか、ヨモギが俺とカリスティルの服の裾を引っ張ってきた。


「どうした? お前がカリスティルに「更年期ババァ熱くなるなよ」って言ってくれるのか?」


 カリスティルが剣の柄に手をかけている、またかよ、こいつは本当に気が短いな……

 ヨモギは上目使いで俺達を交互に見回した後、一つ深呼吸をするとボソッと呟いた。

「私が……集落に言って話を聞いてきましょうか……?」





 俺が情報収集するのはカリスティルが却下、カリスティルが情報収集するのは俺が却下。

 選択肢が無い現状ではヨモギの提案に乗っかるしかなく、渋々ではあるがヨモギに情報の収集をさせることになった。


 ヨモギは情報収集の許可が出ると「準備しますので少し待ってくださいね」と言い、少し嬉しそうに倉庫にしている荷台に消えていった、何を準備するかは不明だ。


「ヨモギちゃん、大丈夫かしら……」


「さぁな、だけど他に選択肢がないからな、身を隠しながらヨモギを見守ってやるしかないだろ」


「そうね……あんたが邪魔しないならあたしが行けばいいんだけどね」


 


 ヨモギが準備を終えて荷台から姿を現したのは、二十分近く経ってからのことだった。

 荷台から踊り出るように姿を現したヨモギは、ダスタの宿場町で買った白のワンピースを纏い、奴隷狩りの荷物に紛れていた銀色のネックレスを装備していた。


「じゃあ行って来ますね」


 ヨモギはそう言って呆然とする俺達を他所にスキップでもしそうな足取りで集落に向かって歩き出した。

 あのガキ、あの軽快な足取り……実は新しい服を着てお出かけしたかっただけじゃねぇのか?


 俺はヨモギに駆け寄り行動目標の最終確認を取る。


「いいか、まずは街道を封鎖している連中の素性だ、そしてその規模、もし確認できるなら人数もだ」

「それから奴らが何の目的で……龍だっけか、なぜその龍の為に封鎖されているのか、まぁ最重要なのはその二つだ、わかったか?」


「はい、わかりました」

 ヨモギは俺に満面の笑みを浮かべ頷くと集落の入り口に向かってどんどんその足を速めていった。


 そのヨモギの手には何故か金貨袋が握られている、何に必要なのだろう。

 非常に嫌な予感がする。




 俺達は物陰に身を潜めつつ集落に入るヨモギを見守り周囲に注意を量る。

 この集落の名前は――ダゴスタ村――というらしい、カリスティルに教えてもらったのだが、そのカリスティルの顔色が徐々に悪くなっている。


「何で……エスタークの兵がこの地域に入ってきているの……」


 ダゴスタ村の入り口に武装した兵が二人組が歩哨に立っていた。

 あえて何も返答しなかった――俺は既にアルディアは滅んでいるのではないかと思っていたのでショックは無いが、カリスティルには信じられないのだろう。


『おまえん()、火事で燃えて無くなってんぞ』と言われても自分の目で確認するまで誰でも信じられないだろう――それと同じだ。

 そういえばもしアルディアが滅んでいたらカリスティルはどうやって俺に代金を払うのか。


「あれってエスタークの兵隊なのか?」


 俺はダゴスタ村の入り口付近でたむろしている二人組の男を指差してそう聞いた。


「ええ……」


 俯いているからカイスティルの表情は伺い知ることはできないが、声の感じから相当堪えているのはわかる。


 俺は『おいおい奴隷の購入代金どうすんの? うへへ~何してもらおうかな』と言おうとしたが


「まぁ……アルディアに辿り着いて事実確認するまでは何もわかんねえんだから、なっ」

 と俺の口は滑り何故かカリスティルの肩をポンポンと叩いた。

 俺は誰かに操縦されているのかもしれん。




 呆然として役に立たないだろうカリスティルをゲジ男に帰るように言って俺は一人でヨモギの後を追った


 ハッキリ言って俺も情報収集すれば二人力なのだから俺もヨモギと共に村人に話をすればいいのだが、決め事を破ってのスタンドプレーは新たなスタンドプレーを呼び込んで誰も約束を守らなくなるので遠くから見ているだけだ。

 知らない奴に話しかけるのは苦手だしな。

 

 ふむ、ヨモギは色々な人に話を聞きながら村の奥へと進んでいく、オドオドして怯えた眼をしていたヨモギは死んだんだと感慨深く思ってしまうね。


 街道沿いの集落という事もあり村人も余所者になれているみたいだが歓迎しているわけでもなさそうだ。

 やはり街道を封鎖されているのが生活全般に影響している様子で、フードを被った余所者の俺に舌打ちする奴もいる。


 しばらく村の奥へ進んだヨモギは一つの建物に入った、なんだろう? ひょっとしたら潜入捜査なのか?

 そんなに無理しなくていいのに……ひょっとしたら俺が誉めすぎてヨモギを使命感で追い詰めてしまったのだろうか。


 そこまで使命感の強い子だったのか……もしもの時には単身で斬り込んででも俺が……


 そんなことを考えてローブの下に隠した剣の鍔を指で持ち上げているとヨモギが建物から出てきた。

 布の袋で何かを包んでいる……これは……


 俺はヨモギがその建物から出て行ったのを遠目に確認してからヨモギが入っていた建物を探った。

 靴屋さんだった。

 あいつって実はズル賢い奴なのかもしれない。




 俺は情報収集を終え、布の袋を大切そうに抱え込んだヨモギは意気揚揚とダゴスタ村から出てきた。

 それを遠目から伺っていた俺は買い物以外に情報収集もがんばっていたと知っているが一応聞いてみた。


「おまえは買い物目当てで村に行ったのか?」

 ヨモギは俺の方をバッと振り向き。


「ち……ちがいますよ、いっ、一生懸命に村の人たちに情報をき、聞いて回りましたよっ」


 うん、知ってる、いろいろな人に声をかけて話を聞いて回っていたよ、知ってる、でも買い物したのも知ってる、ついでに言うけど言葉に詰まると余計に怪しくなるからさ、心をもっと鍛えようぜ。


「心配すんな、カリスティルには黙っておいてやる」

 そう言ったのにヨモギはゲジ男の場所に戻るまでずっと下を向いて拳を強く握り締めていた、なんか脅したみたいになって悪いことをした。


 空き地に身を潜めているゲジ男と付属物であるカリスティルに合流して、ヨモギの集めた情報を精査すると以下のようになった。




 連中は二つの種類に分類され片方はエスタークの龍討伐隊、討伐隊の規模は十名と小規模で戦闘要員は五名、残る五名は軍管、主力の討伐隊は傭兵ギルドの所属でエスターク王国から直接の依頼らしく全員で三十名近くの人員らしい、全部で四~五班に分かれ各班ごとにエスタークの軍管が付いているそうだ。


 エスターク王国は旧アルディアに大量の人員を割いていて龍の討伐に回せる余裕が無いらしい。


 次に街道封鎖についての話だがヨモギはエスタークの兵隊にも直接話を聞いたらしい、最も兵隊は「軍が管理している国家機密だ」の一点張りで話にならなかったそうだ、ヨモギは恐れ知らずだ、兵隊に直接会話すんなよ。


 それでもヨモギが村人と話をする中で『龍の出現をルーキフェア及び他国から極秘裏に処理する為』――という情報を聞き出してきた、やるなぁ隠密ヨモギ、そのうちお風呂シーンを毎回依頼しなくてはならなくなるほど将来有望だ。


 全ての話を統合すると龍の出現でエスターク王国が情報統制の為に街道を封鎖、そして龍の討伐の為にエスターク正規兵十名と傭兵ギルドから三十名の計四十名が事に当たっているということだ。


 

 いつのまにか夜になっている、街道から見えない位置で焚き火をしながら情報を精査した俺達は不穏な空気に包まれていた。


「以上が私が聞いた話です」

「あぁ、よくがんばったと思うぞ、俺ではそこまで集められない」


「――それで、結局どうするつもりなの?」

 カリスティルはそう言って俺を睨みつける、リーダーシップが俺の元に帰ってきたらしい。


「俺としては森が深いことだし、龍討伐が終わるか、討伐隊が何らかの形で解散するのを森の中で潜伏しながら待った方がいいと思う、四十人とまともにぶつかるなんて馬鹿げている」


「……」

 カリスティルは俺に話を振っておきなから返答もなく黙っている、文句あるなら言ってくれたほうがいいのに……重い空気は苦手なんだよ。


「私はタイサに従います」

 ヨモギがカリスティルにシカトされた俺を見かねてか同調してくれた、俺は一人じゃない。


「……」

 カリスティルは黙ったまま時間がけが過ぎていき、夜も更けて自然に消灯の流れとなった。


 恐らく俺の言ったプラン以外は全て全滅の危険がある、国許に帰還したいカリスティルには悪いが出来る事と出来ないことがある。

 俺一人の命なら一緒に特攻してやってもいいがヨモ……いや、他の奴が死んでも構わないが俺が死んじゃうのは困る。


 夜は星も無いし月も無い、いつ日が昇るのか分からないが夜が明けたらカリスティルに森林に潜伏する案を飲んでもらうしかないな。


 俺はそう思いながら、最近荷台のさらに後ろに増設されたボロっちい小屋に入ると眠りについた……

 



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