19話 ルーキフェア帝国からの離脱
ガラガラと物が跳ねる音が五月蝿い、衝撃で俺の頭も飛び跳ねて、床……なのだろうか、板張りの床面にガツンガツンと叩きつけられ痛いし揺れで気持ち悪い、車酔いみたいなものなのかな。
あっ、眼は開かないが明るさは感じる、赤みを帯びた不可解な光が俺の体を優しく……なく包む、赤い太陽が気持ち悪い。
「道が悪くなってるから、注意してね!」
「はい、カリスティルさん」
などと声がする。
視線の先にいるのはカリスティルだ、胸の大きな赤毛の女で、胸の大きな眼が赤い女で、胸が大きなアルディア王国の第三王女だ。
俺の記憶が正しければ酷い性格をした自意識過剰な女だ。
ならば、今、キャタポラポッド改めゲジ男を運転しているのはヨモギという、緑の髪をした胸のない少女で、緑の眼をした胸のない少女で、胸のないドクダミアンの娘だ。
俺の記憶が正しければ怯えた眼をした役立たずな少女だ。
ふむ、ルタロールと戦い、完封で圧勝した所までは覚えているがそこからの記憶が全くない。
今、息をしているってのでヤグダスをなんとか処分できたのは理解できるのだが何が起こったのかサッパリわからん。
ヨモギがヤグダスを倒したのか? いや、まさかな……考えても記憶にない事はわかりゃしねぇか。
俺は考えるのを止めてゲジ男の起こす振動でユサユサ揺れるカリスティルの胸を眺めることにした。ガタン!ゴトン! と揺れる度に弾むおっぱい様を眺めつつ俺は二人の会話に耳を傾けながら現状を確認していく。
「本当に凄い山脈なんですね」
「えぇヨモギちゃん、ホーリウォール山脈はルーキフェアとその他の世界を隔絶する壁なのよ!」
ヨモギは感嘆の溜息を漏らしながら「へー、そうなんですね~」などと相槌を打つ。
「山脈と呼べるのはガナディア大陸から見て聳え立つ崖のように見えるからで、ルーキフェアから見るとガナディア大陸は下界と言ったほうが正しいわね!」
「ダスタの街からだと、少し高い山、程度の見え方だったんですけどね。」
「山頂から見てもそうだけど、ここから後二ヶ月はこの斜面を下り続けることになるわ!」
あの場面を切り抜けてアルディア王国へ進んでいるらしいな。
俺はヨモギとの会話に夢中で俺の視線に気づかないカリスティルの揺れるおっぱいを眺めながら会話の内容を精査し現在位置を把握する。
どうやら山頂に到達して現在は下りの局面で、そして何故かヨモギの性格が変わっている気がする。
ふむ、俺の意識のない間に重大なパラダイムシフトがあったっぽいな。
とりあえず体を起こそう、あれ、体が重い、痛っ! 左腕が痛い、てか、動かそうとしても痛いだけで動かない。右腕は、クソッ、肩がすっげぇ痛い。
なんだこれ、俺って重傷みたいだな、負けてたまるか!
俺は痛む肩を押し、力を振り絞って右手を持ち上げ、ヨモギの方を向いたまで俺の意識があることに全く気づいていないカリスティルの胸へと、歯を食い縛りながら伸ばす。
ぐっ、ぐぬぬ、負けてたまるか! どんな状況であろうと、俺は! 俺である事をやめない! 苦痛を押し留める、息が荒くなる、体が岩のように硬く、重い、それでも俺は手を伸ばす。
その時、唐突にカリスティルと眼があった、おっぱいまで残り十センチの距離だった、なんてこった。カリスティルはスッと息を吸い込むと何故か俺の手を握りヨモギに大声で叫んだ。
「ヨモギちゃん! ゲジ男を止めて!意識が……意識が戻ったわよ!」
その瞬間、ゲジ男の手綱を眼一杯引いたのだろう、物凄い急停車で俺の体は飛び、荷台の壁にしたたか打ち付けられた。
「がああああぁぁ! いってえええぇ!」
悶絶ものの激痛が俺を襲った、洒落にならない、絶対にどこか別に怪我した。
「タイサアアアァァァァ!」
ヨモギは叫びながらダッシュで俺に駆け寄ると、勢いを一切殺さないまま悶絶する俺にダイビングボディプレスを慣行した。
トドメだ。
「タイサ……よかった……本当に……」
ちっとも良くない、死んじゃう、今のボディプレスで俺の主な負傷箇所は、肩筋から鎖骨にかけての裂傷、左腕の骨折、左脇腹も酷いダメージだと分かった、主に突き刺すような肩の痛みが酷くて悶絶も出来ない、動けない、動けないのに体中が痛いよ~、何これリンチ?
俺が痛みで身動きが取れず涙眼で空を見上げていると俺の手を握ったままのカリスティルが話しかけてくる。
「あんたよく生きてたわね、酷い怪我だったから死んだと思ったわ! 」
あぁそうだな、お前の無配慮のおかげでもう一回死ぬところだったけどな。
「タイサァァ……私、聞こえました、タイサが、私にも出来るって、だから、私、がんばれました……」
何かヨモギがやったらしい、美しいダイビングボディプレスだったが俺が教えた覚えはない。
まさかコイツが百八十センチの大男を倒したのか?
ありえないだろ、そんな無茶を俺が出来ると思うわけがない。
「……」
記憶がないので何も言えない、いったいどうすれば事態が把握できるのだろう?
かと言って、この状況から判断すると俺が全てを理解していること前提で会話してやがる。
「何があったの?全然覚えてないや」
とか言えない、どうする……
その時、俺に天恵が降りてきた、そうだ、その手で行こう!
俺は彼女たちに向かいキョトンとした顔を作り恐る恐る口を開いた。
「あ、あの……どちら様……でしょうか?」
「え~っと……ここは何処でしょう?」
「僕の事…知っている人、ですか?」
可能な限り俺は演じた、演じきれた、さぁ落ち着いて話せるよね。
彼女らは表情、体、呼吸さえ止めたように固まり、俺の顔を凝視したままカリスティルは呼吸が不自然に早くなり、ヨモギは表情を一変させ、歯を食いしばり、眉間に深い皺を刻み、細めた眼に大粒の涙を浮かべ。
「そ……そんな……タイサアアアアアア!」
と、まるで俺が死んだかのように泣き出した、号泣だ、ワンワン泣いている、やばい、明らかに選択を間違えた。
「せっかく、せっかくこれから、タイサに……タイサには一杯、一杯貰ったから今度は、わたしが、返そうと……うわああああああ……」
カリスティルは唇を噛み締めながらヨモギの肩を強く掴み抱き寄せ
「大丈夫だから、きっと直るから! だからヨモギちゃん……泣かないで……」
と、あのカリスティルも、あの、おっぱい以外良いところが一つも無い性悪のカリスティルにも一筋の涙が!
なんてこった。あの天恵は神のお告げではなかった、悪魔の囁きだったのだ、やばい、心が痛む、何でこんなことに……胸に去来するこの気持ちはなんだろう。
一体どう収集をつければいいのだ! 誰の責任なんだ許せない! 体のダメージも心のダメージも蓄積されていく。
彼女たちの心を守るため俺は起死回生の一打を放たなくてはならない。
とうとうヨモギとカリスティルは互いに抱き合い、号泣し始めた。嫌だ!
これ以上俺を追い詰めないでくれ! 罪悪感で吐き気がする、押しつぶされて死にそうだ、どうする、どうする……これだ!
俺は
「あっ……」とだけ言うとバタリと倒れた、考えた末に到達した結論はもう一回気絶して今の会話をなかった事にするというものだ。
誰も傷つかない、みんなが幸せになる筈だ、俺はそう信じて眼を閉じる。
「タイサアアアアアアアアアアアァァ! 死なないで! 置いて行かないで!」
ヨモギが絶叫しながら、俺の体を激しく左右に揺する、痛い! 痛い! 痛い傷が開いちゃう、死んじゃう! やめてくれぇ!
しかしこの作戦は表情は愚か全身の力を抜いて死んだふりをし続けなければならない過酷なミッションだ、だが彼女の心を守るために俺は戦う。
「あんた、しっかりしなさいよ!」
カリスティルが俺の胸倉を掴み俺の頬をバシバシ叩く、やたらとパワフルな炸裂音、ちくしょう、ふざけんなよ!
しかし眼を空けたら全て台無しになる、故にカリスティルの表情は分からない。
とりあえずビンタの嵐で俺の顔がドンドン膨らんでいるのは明らかだ。
痛いよ! 加減ってことを知らんのか!
あっ、鼻血が流れる感覚が……畜生、いい加減にしろ!
だが動く訳にはいかない。
結局、その後三十分ほど俺は二人の猛攻を体の力を抜き、表情筋を緩めきった状態で耐え切った。
彼女達は俺が気を失ったと判断し深く沈んだ表情を湛え、無言で二人共それぞれの持ち場についたようだ、まぁ目をつぶったままだったから表情は知らないけど。
俺が痛む体と腫れ上がった顔に耐え、本当に眠ったのはそれから一時間ほど経ってからだった。
俺が再び目覚めたのは夜になってからの事だった、今度は同じ徹を踏まない……周りに人影はない、ユラユラと赤く揺れる明かりが見える、どうやら二人とも火を灯して野営しているようだ。
俺は大きな咳払いを一つ「ゴッホン!」と、ついた。ザッザッザッと土を蹴る音が聞こえその足音は近づいてくる、二人は荷台の手すりに手をかけ飛び込むように俺の前に躍り出た……二人とも様子を伺う雰囲気だ。
よし、いい雰囲気だ、俺はもう間違わない。
俺は、心配げな表情のヨモギと強い眼差しで俺を見つめるカリスティル睥睨し、用意していたセリフを吐く。
「よう、地獄の底から戻ってきたぜ」
ヨモギは口に手を当て呻くように「タイサ……」と声を漏らし。カリスティルは引き吊った顔を浮かべ「ホント、しぶといわね、あんた」と吐き捨てた。
どうやら掴みはOKのようだ、俺は安堵した。
それから俺は変な地雷を踏まないように会話を進めつつ相槌を時折折り混ぜながら、大体の状況を把握した。
俺はルタロールとの戦闘で重傷を負ったらしい、俺の記憶では完勝だったのだがイメージと現実は違うものだと納得することにした。
結局、目覚めるまで五日間も寝たきりだったらしい、カリスティルの話では死ななければカルマを失いながら傷は直っていくらしい。そっか、不自然に傷の直りが早い理由は、やはりこの世界のルールが関係しているらしい。
ルタロールが「大会戦に間に合わぬ」とか言っていたが腕とかも生えてくるのだろうかと疑問に感じ尋ねてみた。
「斬られたのならくっ付ければいいじゃない!」
と、おっぱいお化けが常識のように言った。
次はヤグダスの事だが、話しを聞くと、やはりヨモギが斬ったらしい。
ヤグダスは最後まで剣を抜かなかったそうだ、ヨモギが剣を持って間合いを詰めても「汚らしい半人が、ルーキフェア帝国貴族である私を!」とか「汚らわしい、近寄るな下郎!」とか喚き倒していたらしい、そしてヤグダスはヨモギに斬られる寸前まで必死にルタロールを呼んでいたそうだ。
俺の計算以上のヘタレだったようだ、まぁ、そんなものかも知れない。
いざという場面では人間の本質が剥き出しになるからな、その覚えは俺にもある。
ヨモギとヤグダスが対峙していた時にカリスティルは意識を取り戻していたそうで、ヨモギに加勢しようと這うように近づいたがヨモギに「タイサの手当てをお願いします」と言われて俺の手当てをしていたらしい。
俺に恩を売るための嘘かもしれない。
カリスティルがそんなに優しいはずがない。
だが……俺は自分の傷を見渡し、そのまま放置してたら絶対死ぬよな、と、納得し否定は出来なかった。
話題は俺の記憶喪失に逸れたが俺は知らぬ存ぜぬで通した、カリスティルが「ああいう時は叩けばいいのよ!」とか言っていたのには激しい怒りを覚えたが、記憶がないことになっている俺に文句を言える筋合いはなかった。
ある程度話が終わると「タイサ……タイサが戻ってきてよかったです、これからは私がタイサを守ります」と、ヨモギにイケメンボイスで宣言された。
いや、まだ明らかに未熟で弱いから、と言いそうになったがせっかく自信を付けたのに申し訳ないから俺は頷きつつ
「いや、まだ全然弱いから、もっとがんばれよ」
あれ? 激励するつもりだったのにおかしいな……まぁ大丈夫か、ヨモギは柔らかく微笑むと「そうですね、もっとがんばります。」と答えた。
「一番の大怪我だったくせに偉そうね!」とカリスティルは言うが、まぁいいだろう、気分が良いので許してやる。
ヨモギはもうあのムカツク媚びた薄笑いを浮かべる事はないだろう。
一歩を踏み出すってのはそれだけ大きいものだ。
もっと話があったようだが、俺は中座し荷台に入って眠ることにした。
急に思い至ってしまったからだ。
五日も寝ていたら絶対に下の世話とか色々されているよな……服も青から白い服に変わっているし……
そんな事を考えると、とても顔を直視できなくなってしまったからだ。
それから十日の月日がたった。
俺の体は左腕以外殆ど痛みも無く生活できるまでに回復した「そろそろ街道が分岐するから右に曲がればアリディアまで一直線よ!」などとカリスティルは言っている。
おかしな話もあるものだ、一応料金を頂くまでコイツは俺の奴隷だったはずなんだが何故リーダーシップを発揮しているのだろう……とはいえまだ体調が悪く手が出せない俺は無駄口を叩けない。
白い太陽が昇れば魔獣が襲ってくる、聖流はもう近くを流れていないから当たり前のように戦闘になる。そうなると俺は左腕がまだ本調子じゃないから「魔獣がでたぞ」と言ってカリスティルやヨモギにナイスパスを送ることになる。
ヨモギは毎日の稽古も欠かさず行い、ヤグナスを倒して人格が変わったのか魔獣を狩りに真っ先に駆けていくようになった。「タイサはゆっくり休んでください」とか言って魔獣を狩る姿は初めて出会った頃からは考えられない姿だ。
そのうち「タイサ、邪魔です」と言われたら『タイサ』という名前の改名を考えることになりそうだ。
まぁそれは悪い傾向ではない、しかし魔獣の返り血を浴びながら笑顔で剣を振り回す姿を見ると良い傾向とも言い難い。
「見えてきたわ!あの丘を越えたら道が分かれるわ! 右に曲がればアルディアよ!」カリスティルはテンションが高くなってきて煩くなってきていた。
「わかりました、次を右に曲がるんですね」とかヨモギは笑顔で返答するが甘い! ここは「急がば回れです」と言って左に行くべきだ。
俺ならそうするが手綱は俺の手にない、なぜか信用が無いからな。
丘を越えたところで複数の人影がウロウロしている事に気づいた。
武装をした男が五~六人、俺たちのゲジ男に気づいたその内の一人が街道に立ち塞がり両手を広げ大きく振っている。
俺たちは男の手前でゲジ男を停車させ、カリスティルは男に「なんなの!アルディア王国に帰りたいの、邪魔しないで頂戴!」と声を荒げた、俺とヨモギは穏やかに状況を眺める。
魔獣の毛皮らしき素材の鎧を着た灰色の髪をした二十歳くらいの男は、明らかに不愉快そうな態度で
「ダメだ、左のフェリアス街道を通ってくれ、グレーマン街道は通行止めだろうよ!」
「ダメよ! アルディアに一刻も早く帰らないといけないの! 通して頂戴!」
カリスティルは今にも飛び掛りそうな剣幕で男に食って掛かる。
ヨモギは心配そうに眺め、俺は干し肉を齧っている。
騒がしくなって気になったのか別の男が割って入ってきた。
「マルゴー、どうしたぁ!」
「棟梁、こいつらグレーマン街道を通るって聞かねぇんだろうよ」
「フェリアスなんて通ったらアルディア王国までどのくらいかかると思ってんのよ! いいから通しなさいよ!」
カリスティルは熱くなって周りが見えなくなっている。
うん、カリスティルには全く眼中にないみたいだけど、男たちは六人ともカリスティルを囲むように配置し始めてる、最悪の場合は戦闘になるな。
「お嬢ちゃん、通行止めは通行止めなんだよ、聞き分けがないとわし達も黙っていられないんだわい」
紫の髪をした男が凄む、カルマも結構な量だ、他のザコとは違いこの棟梁とか呼ばれている紫頭はできる。このままではカリスティルでは斬られてしまうだろう……仕方が無いなぁ……
俺は剣を腰に挿し俺ゲジ男から降りると、正体不明の男達に囲まれそうなカリスティルに駆け寄る。
「まぁ落ち着こう、俺達はアルディア王国に用があるんだが、おっさん達は何でトウセンボしてんの?」
「何だこのチビ、まだガキじゃねえかだろうがよ」
このっ、カスが……いかんいかん、怒っちゃいかん、話し合い話し合い。
「話しだいでは迂回も考えるってことだよ、理由次第でね」
「ダメよ! 何が何でも通るわ!」
カリスティルが話しにならない、とりあえず理由を聞かなきゃ話も出来ないだろ! お前は大人なんだから分かるだろ!
「コイツは気にしないでいいから、さてと、通行止めの理由は何かな?」
「それは言えねぇなぁ坊主、別に坊主達の聞き分けが悪くたってこっちはどうでもいいんだわい」
「……」
明らかに話し合う余地が無い、むむ、まだ左腕痛いんだけど……まぁ……仕方ないか。
後方から集まってきた四人のうちの一人、青い髪の男がイライラしたのか剣を抜きヒラヒラと切っ先を揺らす。
「棟梁、こんな面倒なガキ、さっさと片付けて龍退治といきましょうや」
「龍ですって!」
カリスティルが息を呑んで絶句している、また俺の知らない話で盛り上がるつもりなのだろうか、このおっぱいの人。
「あ、言っちまったな~もう逃がすわけにはいかないなぁ~」
そう言いながらその男は俺に向かってノシノシと歩いてくる、油断というよりも俺を侮っている感じだ。小さいからだろうか?
やっぱりそうだろうなぁ。
「ダーミン! つまらんことを漏らすなだわい!」
「もうやっちまいましょうや~棟梁ぉ~」
青い髪の男はドロッドロに脂ぎった黒い眼を細め、口を裂いた笑みを浮かべ俺の間合いに入ろうとしている。
もう、話し合う余地は無い。
俺は深く息を吸うと剣を抜いた。
体は万全ではないが動く。
問題は無い。
「ヘヘ、やるってのかよ~」と、俺の間合いに入ってきた男は無造作に剣を振り上げると俺に斬りかかろうとした。
緩慢な切っ先が振り下ろされる動作に入る前に
『ザン!』
という斬撃の音が響き渡り。
男の首は『ボトリ』と落ちた。
鮮血が吹き上がり……俺を濡らす……
「くっそぉ」川沿いじゃないんだから水は貴重だ、服が洗えないのに勘弁してくれよ。
しかし、カリスティルを止めに入ったのだけなのにやってしまった!
「カリスティル! ゲジ男に飛び乗れ!」
「ヨモギ! ゲジ男を出せ!」
「はい! タイサ」
俺は男の首を落とした瞬間、大声で叫んでダッシュでゲジ男に飛び乗る。
「ヨモギ! 右の街道を全力で飛ばせ!」
と、指示を出した。背後からは「聞かれたからには逃がすな!」「あのガキ、殺してやる!」「南側と南東側の連中に早馬を出せだわい!」などと物騒な言葉が聞こえた。
そんなにムキになるなよ――まぁ俺が先に手を出したのだが。
あの男達は何なのか。
『龍』とは何なのか。
何一つわからないままアルディア王国を目指しグレーマン街道を突っ走る……
ルーキフェア帝国編-完-




