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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
1章 ルーキフェア帝国編
18/85

16話 ブレードランナー



 赤い太陽が昇り始め空が真っ赤に染まり始めた頃、俺は森林の木々を掻き分ける様に進んでいた。


 クソッ、草や木の根が邪魔で思うように走れない。

 獣道すら碌にない森は進むのが思っていた以上に困難で、街道から森林に飛び込んで五分もしないうちに、自ら立てた作戦の粗に悪戦苦闘していた。


 敵も俺を追って森林に入ったらしく、後方で響く馬の嘶きが遠くなっていく、俺の後方にまだ人影はない、

 こんな足場では、素早く取り囲むことはできないだろうから、悪い点ばかりではないがスタミナのロスが著しい。


 もっと近くに合流ポイントを定めればよかった、と、後悔し始めたところで、左の茂みから兵士が姿を現した。


 兵士は近づいてきた俺の姿を視界に捉えると、辺りを見渡しながら笛を吹き始めた。


 ピーピーと甲高い笛の音が辺りへ木霊(こだま)する。


 いや、本当に木霊してあちこちへ笛の音が乱反射している、周辺に味方がいるとしても場所の特定は困難だろう。

 これはチャンスかも。




 俺はガサガサと兵士に向かって歩きつつ、サッと腰に下げた剣を引き抜いた。


「一人でノコノコ現れて、バッカじゃねぇの」

 俺は嘲るように吐き捨て兵士の間合いに踏み込んだ。

 気合一閃


「いやああああああああっ」

 上段から剣を振り下ろす。

 『キンッ』

 甲高い金属音が響き、兵士は俺の剣を抜き撃ちで弾いた。

 雑魚顔の分際で俺の斬撃を防ぎやがった。


 『ふへへ、俺って強ぇんだぜ』という慢心もあったかもしれない。

 特に七対一で生き残った事実、そして相手のベラミー家その物への侮りもあったろう。

 現に今も『モブの癖に生意気な!』という気持ちが胸の内に湧き上がる。

 しかしよくよく思い返してみれば油断を突いた結果が殆どだ。


 俺は気持ちを切り替えるため後ろへ飛び下がって相手をよく観察する。

 見れば、眼前で剣を向けている兵士は俺以上のカルマ。

 体格は俺よりもかなり大きく、身長百八十センチ以上あるだろう。

 二十センチ近く差がある。

 それはまあ気にしない、気にしない。

 服装は皮の胸当てと肩当て、剣は


 「うらあああああああああああ!」

 クッソ危ない!

 『ゴオッ!』

 敵は轟音を響かせ、一メートルくらいの大刀を横薙ぎに振ってきた

 バックステップで交わす。


 男は大刀を振った後、素早く体制を整え俺に切っ先を向けている。

 油断もクソもない。

 俺から見ると構えに隙があるが今回は心に隙がない。

 俺を強敵と認識して対峙している。

 技量勝負なら分はあるが身体能力ではまだまだ向こうが上だ、ヘヘッ。


「お前の名前は」

「……」

「答えろよ、覚えておいてやるからさ」

「……ルーティスだ」

「そうかい、俺は……クッ!」


 ルーティスは構えた体勢から、そのまま一直線に俺に飛び込みつつ突きを放ってきた。

 初動が小さい。

 ちっ! 俺はルーティスの切っ先を剣の腹で角度をいなしながら体を斜めに逃がしつつ、肘打ちを顔面に叩き込む。


 そこから半歩下がって距離を取り袈裟懸けに斬りつけた――

「ぐぅっ!」

 ルーティスは首筋から胸にかけて鮮血を拭きつつもバックステップを踏み深手を回避した。


 驚くほどの身体能力ではないが、コイツは旨い。

 剣道だけではなく剣術、棒術など元の世界にはあるが、この世界ではそんなチマチマした技術は発達していない。


 しかしルーティスは旨い。

 ようするに筋がいいタイプだ。

 そして俺の自己紹介を聞く気がないタイプだ。


 俺は切っ先を伸ばしルーティスに向けユラユラ躍らせる。

 そして左右に牽制し足場が悪いほうに追い込んでいく。

 ルーティスはジリジリと下がりながら隙を探り、俺の間合いに踏み込もうとしている。

 だが、俺の切っ先がそれを許さない。


 ハァハァと互いの息遣いが荒くなっていく。

 ルーティスはその茶色い瞳をギラギラと脂ぎらせながら俺の隙を伺う。

 しかし技量勝負に持ち込めばどれだけ筋がよかろうが積み重ねているものが違いすぎる。


 後ろに下がっていたルーティスの足が木の根に引っかった

 『カクン』

 体が沈んだ直後に、ルーティスの腕ごと胴を横一文字に斬った。

 ルーティスは折り畳み携帯電話のように、体を二つに折り曲げ崩れ落ちた。


 横たわったルーティスの目が俺の方に向き直ったが、その光は徐々に消えうせ、白いカルマを漂わせた。




 ルーティスを斬り捨てた俺は、そのまま合流地点の大木へ向けて、木々を掻き分けて森林を進んでいる、と、背後から草木を掻き分ける音が近づいていることに気づいた。


 残りは何人だ。

 最初にカリスティルと合わせて二人斬って、その後、立派な鎧を着込んだ男の盾に入った男を斬った、先ほどのルーティスを加えると四人か。

 残りは三人、ここで一人斬れれば俺とカリスティルで……カリスティルを数に含むべきか?


 俺は木の根元に身を屈め、に腕を畳んで間近に引き寄せ背後から近づいてくる足音に神経を集中させた。


 ザッザッと足音が迫ってくる、心臓がドクドクとテンポアップする。

 服が見えた、白をベースに赤をふんだんに散りばめた色調、髪は薄い赤で腰まで伸びている……そして、凄い胸だ、僅かの挙動で弾むように揺れている! ってカリスティルじゃん。


「おい、無事だったのかよ」

 俺は近寄って声をかけた。


「あぁ、あんたか」

 カリスティルの声はボンヤリとしていて、いつものような覇気が感じられなかった、目も空ろで足元が覚束ない、近寄ると肩から胸にかけて、太刀傷がザックリ入っていて、鎖骨まで傷は達している。


「なんだよこれ、ちっとも無事じゃねぇ」

 俺は、自分の服を引き裂いて包帯状にして、カリスティルの傷に当てして、さらに布で固定した。

 俺の服がパンキッシュな感じになってしまったが仕方が無い、見殺しにすると目覚めが悪いからな。


「あたし、一人斬ったわ」

「そうかい、背負ってやるからさっさとしろ」

「優しいなんて珍しいわね……」


「はぁ? 俺は背中でおっぱいの感触を楽しみたいだけだ、勘違いすんじゃねぇよ、いいから早くしろ」

 

 カリスティルは言われるがまま俺の背に体を預けた、思ったよりも軽いからなんとか大丈夫そうだ。


「あたし、今日だけで二人も斬ったわ、真正面から人間を斬ったのって……初めてよ」


「嘘つくなよ、お前俺よりカルマ抱えてるだろ、あれって殺すたびに増えている気がするからな、沢山殺してるだろ」


 カリスティルは、フッとため息みたいなものをついたが背負っている俺にその表情は伺えない。


「あたしは王族だから」

「そんなもんか、俺は余所者だからわかんねぇよ」

「でも本当の王族かはわからないわ」


「どういう意味かわからんが、ボチボチ声が辛そうだから、またの機会でいいぞ。暇で暇でしょうがない時に聞いてやるからよ」


 カルマの量的にこのくらいの傷では死にはしないだろうが、辛くないわけがない傷だ、俺が奴隷狩りに負った傷より少しマシな程度で、普通の世界だったら死んでも不思議じゃないレベルだ。


「あたしだけね、髪も目も赤なのよ」

「父様も母様も兄様も姉様もみんな金髪碧眼、それなのにあたしだけ赤いの」


「そりゃあ素敵な母ちゃんだな」

「それってあたしにはどうすることも出来ないじゃない」

「黙ってろよ、怪我人なんだからよ」


 カリスティルは俺の言う事を聞かない、いつも聞かないが重傷を負ってもなお聞かない、楽しい話題しか聞きたくない。


「母様は私を産んでから一度も私に話かけてくれたこと、無かったわ」

「いいから、バランスが悪いから黙ってしっかりしがみついてろ。おっぱいの感触がわかんねえだろ! 」


 俺は全神経を背中に集中させた、柔らかい感触はあるが俺の服はカリステェルの傷を塞ぐため布面積の過半数を失っている。

 生暖かい流血のネチャネチャした肌触りが気になっておっぱいに集中できない。

 俺にはまだ精神修養が足りていない。


 走る俺は、撓りながらペチペチと顔や体に当たる枝に「うぜぇ! 」と、眉間を顰めながら森林をひたすら進んだ。

 手で掻き分けたいところだ、しかしカリスティルの尻を支えているので使えない。


 その忙しい間も、周囲を警戒し続けなければならないし大忙しだ。

 全ての作業が俺の担当になっている理由は、カリスティルが寝ているのか、気絶しているのか分からないが、意識を失ってしまったからだ。


「……」

 この流血ではとても責める気にならないが、もし「ムニャムニャ……もう食べられないよ~」とか言いやがったら、この場で捨て行くつもりだ。


 ノンビリ休憩でも挟めればよいのだが、追撃を受ける可能性があるので、ヨモギ、というよりゲジ男と一秒でも早く合流したい。

 一歩一歩地面を踏みしめる度に重くなっていく『小泣きカリスティル』を恨めしく思いつつ先を急いぐ。


 「くっそう、キツイ! 重い!」

 背中に押し付けられる膨らみに集中も出来ず、バシバシ顔に叩きつけられる枝にブチキレそうになりながら、怒りを動力に変えて森を走る。


 動力に変換しきれず零れた怒りは、カリスティルの尻を掴む手に振り分けられ「千切れるんじゃないか?」という馬力で握り絞めている。

 尻に興味がない俺に邪な感情は存在しない

 「フッ! フッ!」

 怒りを放出する息を吐きつつ、目印の大木を目指した。


 


 何時間走ったのか分からないが視界が開けた。

 森を抜けたようだ。

 合流地点の大木が見える。

 ヨモギとゲジ男もその場に佇んでいる。

 後方に人の気配はない、どうやら追っ手も巻いたようだ。




 山頂付近の大木周辺は、小さな草原といったところで、身の隠しどころも無いような場所だった。

 長居をすれば必ず追いつかれる、と、わかっているので、街道をゲジ男に乗って進んでいきながら、ヨモギがカリスティルの手当てをした。


 野営をして食事なり睡眠なりするのも今は難しい。

 カリステイルには悪いが、追っ手から逃げ切ったと確信できるまで、揺れるゲジ男に身を任せてもらう他無い、どうせ気を失っているのだから問題ないだろう。




 結論としては、野営して休息を取っていたほうがマシだった。

 街道を塞ぐ形で、豪奢な鎧を纏った百八十センチほどある金髪の男と、黒い鎧に身を固め、長太刀を持った銀髪の男が、待ち伏せしていたからだ。


 森林で俺を見失ったこいつらは、先回りして街道を待ち伏せしていたというわけか、よく考えれば誰でもわかりそうなものなのに、何で俺はその可能性に気づかなかったのだろう。

 背中に当たるおっぱいの感触に思考を引っ張られていたのかもしれない。


「逃げられると思っていたのか黒髪!」

 豪華な鎧に身を固めた金髪の男が大声で叫んでいる。

 とても『五名の部下をみすみす見殺しにした能無しとは思えない』立派な立ち振る舞いだ。


 まぁいい、それどころじゃない。

 脳無しの傍らに控える黒い鎧の圧力は相当なものだ。

 厳しい戦いになるだろう。


 黒鎧は俺の方を睨みつつ大太刀を抜き、俺に向かって鋭い眼光を向ける。


 さて、ゴリ押しで通過しようか……




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