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撃剣使いの異世界冒険譚  作者: 寿ふぶき
1章 ルーキフェア帝国編
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12話 撃剣使いの南下

 

 

 「ヤー、ヤー、ヤー」

 白い太陽が燦々と照りつける中、一人の少女が手作り感溢れる木刀を、掛け声と共に振っている、少女の緑色の髪の毛も、半袖の服も、汗で地肌に張りつき、服が吸い取りきれなかった過剰な汗が滴り落ちている。


「声が小せぇよ、恥ずかしがってんのか?もっと腹から声を出せよ、気合が入ってないと怪我するぞ」


 その隣では黒髪に黒い瞳、奴隷狩りから拝借した青い服を着たイケメンが、少女に暖かいエールを送っていた。

 つまり俺だ。


「ヤー! ヤー! ヤー!」

 ヨモギは木刀をヘロヘロと振りながら、か細い掛け声を上げている。

 早朝ランニング、体作りのトレーニング、その後に素振りだ。

 一歩間違えば、いや、間違えなくても虐待だ。


 カリスティルと別れてから数日たった、ずっと燻していた干し肉も、なんとか形になって、俺とヨモギはキャタピラポッドに所持品を全て搭載し、聖流沿いを移動しながら、国境を越えることにした。


 そして、その道中の合間にヨモギに剣を教えることにした、俺といつまで一緒にいるのかはわからないが、いつ襲撃者が現れるかもわからない現状で、足手纏いをそのままの形で連れているのは俺のウイークポイントにしかならないという俺基準の判断だ。


 襲撃者を相手に使い物になるとは思っていないが、絶望的な状況になったときに少しでも心の支えがないと、ビービー泣かれるだけではうっとおしいからな。


 幸いな事に武器は増え続けているので、剣が振れるようになったら短刀でも下げさせておこうと思っている。


 鍛えれば小さなガキでもそれなりに振れるようになる。

 俺は何年も竹刀を振り続けているから鉛筆よりも剣は軽く感じる。

 本当だよ。

 一定レベル以上の経験者なら俺の言っていることがわかるだろう。


 ちなみに、この聖流沿いで奴隷狩りに一回遭遇したが、前回と同じ囮作戦で難なく退けた。

 それでわかったことは、前回の奴隷狩りはかなりの腕だったという事だ。

 まぁ、ある程度の腕がないと、カリスティルを捕縛することはできないよなぁ、あいつ結構なカルマだったもん。




 今回のザコ奴隷狩りは、奴隷にする予定の人間を捕獲していたから、俺は気前よく開放してやった、子供だったからな、女の子二人、男の子一人だった。

 名前を聞いてみたんだが名乗らないので、俺が名前を、マイク、キャンディー、ジュンコと命名してやった。


 ちなみに今この場にはいない、檻から出して名前をつけて手枷と鎖を外してやったら、一目散に逃亡していったからだ、まぁがんばって生きていって欲しいね。

 俺が恩知らずなガキ共に腹を立てもせずにいれたのは、奴隷狩りが残した生活物資、特に衣類が充実していたからだろう、いや~刀傷のない服が欲しかったんだよホント。




 そんな事を思い返しているとヨモギが膝をついて蹲っていた、額を伝う汗は顎の先からポトポトと滴り落ち、あ、涎もちっと垂れてる。

 

「もう限界か?」

「タイサ……もう腕が、上がらないです……」

 ゼェゼェと肩で息を切らせながら俺の顔を見上げるヨモギは目の光も怪しくなっていた、ふむふむ体力の限界らしい。


「じゃあ、あと五十回の素振りで止めよう、がんばれ!」

「うぅ……」


 そんな感じでこの数日、基礎トレーニングと素振りをひたすら反復練習させている、やさしさは一切ない、剣の軌道はもちろん姿勢や足捌きにも妥協は認めない。


「……ァー、……ァー」

 もう声も出ないほど疲労困憊の様相だ、手に汗握るシーンだ、胸が熱くなる、試練に負けずにがんばるんだ! 彼女の境遇の不憫さは9割方俺のせいだが俺についてくる以上は必要な試練だと思って頂きたい。


 まだ上下素振りしかさせていないが、剣を振る事になれてきたら前後左右面素振りや、斜め素振りも増やしていく、上下素振りを減らすことなく増やし続けるのが俺の優しさだ。


「お~い、軸足がブレてるぞ~しっかりしろ~」

「…ハ……ィ」


 なお俺もヨモギの隣で素振りをしている、手本を見せながらの方が上達も早いし……口だけだと思われたらムカツクからな。


 まぁ実際のところ、一人では稽古する気力があんまり沸かないから、ヨモギを巻き込んでいるだけかもしれない。

 しかし俺の気持ちは俺にしかわからない、その俺にもわからないんだから誰にもわからないだろう。

 一人では被害者の会も作れまい。




 俺の怪我が完治してからは、白い太陽が登ると起きて干し肉を齧り、その後は剣の稽古を赤の太陽が登るまで続けて、それから川沿いを移動して適当な雑木林が見える場所に野営場を設けると、俺が薪拾いなどをしたりしている間に、ヨモギが食事を作り、赤い太陽が沈んだら晩御飯を食べる、という生活サイクルになっていった、おれもサバイバルに随分と適応してきたもんだよ。




 夜になり食事を終えた俺とヨモギは、焚き火を挟み、向かい合って座りながらとても身のある話に興じていた。

「なぁヨモギ、お前の緑の髪って珍しいよな」

「そうですね」


「他のやつは、金髪とか茶髪とか銀髪だし、カルスティルは白に赤が混じったような髪だった。おそらく若気の至りってやつだろうけど、お前の緑髪って地毛なんだろ? 」


 黒髪が珍しいって状況が俺にはむしろ分からんのだがなぁ……あれだけいる中国人は何処へ消えた? 


「私は、エルフの血が混ざってる混じり物ですから」

「そんな面白族が存在すんの? 」


「ルーキフェアにはいませんが、他の地域にはいるらしいです」

「らしい?」


「会った事がないので、わからないです」

「へ~なるほどねぇ」

「……」

「まぁ、パンクな性格に育てば、パンクな髪色も違和感なくなるから……がんばれ? 」

「はぁ……」


 ヨモギも俺の性格に慣れてきたようだが、好感度が上がっているかは不明だ、思い返してみても下落ポイントが目白押しだからな。


 子供相手にどう思われても問題ないけど、あまり嫌われると、寝ている間に命の危険も考えられる事から、憎しみに変化する前に悪感情の芽をつんでおかなければならない。


 しかし、無意識の意地悪が不作為に発動してしまう故、俺に対する不快感がヨモギの心に降り積もっている気がする。

 まぁ、このルーキフェア帝国から脱出するまではヨモギも我慢するだろう、俺の黒髪はもちろんヨモギの緑髪も住み辛い国だからな。


「なぁ、ヨモギはこのクソッタレな国を出たら行きたいところとかあるか?」

「……外の国は知らないです」

「……ふむ」

「……」


 そんな、好感度狙いのハートフルな言葉のキャッチボールをしながら、何度目かの夜も更けていった……




 

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