NO.9 奄美剣星 「雪・氷『翠瓷練上埦』《すいしねりあげわん》』」
姑と家内が、舅と私にむかって冷笑した。
「二人とも、どうせガラクタをつかまされるのがオチよ」
「古女房に氷の笑み。嫌だねえ」
「まったくだ。お義父さん、是が非にでも掘り出し物をみつけて、ぎゃふん、といわせましょう」
軍資金を上着のポケットに突っ込んだ男子どもは、婦女子たちに対抗して、苦笑を浮かべ、格子戸の玄関を開けて行った。細い坂の路地には、「琴・着付け教室」があり、そこをすり抜けて神社の鳥居前にゆく。
群馬県高崎市は城下町で、戦災により古い建物こそ少ないが、それなりの風情があった。赤坂町。高崎神社の裏手にあるボウリング場付近には、醤油醸造会社や鉄工所、病院、それに下町が昭和三十年代の趣を残している。赤坂町という場所だ。
赤坂町から坂道を上った城址近くが柳川町。そのあたりにある高崎神社を起点に、駅前通りである中山道にかけては、ひなびた商店街が立ち並んでいる。年の瀬ではあるが日中はまだ息を白くするということはない。恒例の骨董市が催されていた。
露店を冷かしながら歩く。火鉢に古時計、切子硝子といった骨董品が広げられた大風呂敷の上に並んでいる。
露店の一つに置いてあった値札に五万円と書かれた埦をみつけて手に取ってみた。
精緻な文様は雪の結晶のような藍があり、描いたというより切り出した大理石を研磨したかのような趣がある。
(凄い、観たこともない焼き方だ。窯でこれほどに冷厳な器をつくることが可能なのか)
私は打ちのめされるような衝撃を受けた。店主は私を推し量っている様子だ。
「若旦那、欲しいんかい」
「手持ち二万円しかないんだ。でも欲しい」
「まけるとして四万円を切るのはできないね。それなりの上ものだってことは、旦那方も判るだろ」
そこで舅が助太刀。
「判った俺の軍資金を足して四万。どうだ、親爺」
「毎度あり」
親爺が白い歯をみせて笑った。
「婦女子どもに笑われるな、こりゃ」
私たちは、独特の手法でつくられた氷のような柄をした埦を炬燵台の真ん中に置き、書斎から引っ張り出してきた図録を開き見比べた。けっして古い焼き物ではなく、案外新しいもの、昭和時代の作品のようだ。
「ほら、やっぱりガラクタだったじゃない」
「うるさい」
「お義父さん、でもなんだかんだと、女の人たちって、僕たち男のわがままを訊いてくれるのですから、ありがたいものじゃないですか」
舅は、私が間に入ったが、姑と家内にからかわれて怒りやまぬ様子。それでもまた一枚頁をめくる。
「この技法は練上げ技法。笠間に窯をもっていた陶芸家松井康成の作風だ」
「松井康成って誰よ」
舅のいう「婦女子ども」が怪訝そうな顔だ。
「人間国宝だ」
炬燵を囲んだ四人は言葉をなくした。




