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自作小説倶楽部 第1冊/2010年下半期(第1-6集)  作者: 自作小説倶楽部
第6集(2010年12月)/テーマ「雪・氷」&「鍋」
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NO.4 しゅーひ著 「鍋 『ちくわ鍋』」



12月24日まであと1時間と迫った時間にバイトから帰宅した。

バイトのシフトで明日はバイトは休みだ。何も予定が無いのが泣ける。


こうなりゃ、ケーキ売りの飛び込みバイトとか無いものかと思案していたら、安アパートの乾いたチャイムが鳴った。


『よ!バイトおつかれさん』


右手に酒ビン、左手にコンビニの袋をもったヤツがニヘヘと立っていた。


『なんだ、お前か。酒を持ってきたのに免じて入ってもいいぞ』

『せっかくキミの好きであろう焼酎をもってきてやったのに』

『芋か?』

『いや、麦。俺ってば芋焼酎ダメなんだよね』

『お前なぁ、焼酎っていったら芋だろ?』

『じゃぁ、いらねーの?』

『誰も、飲まないとは言ってない』


そういって、ウチの六畳一間で暖房器具はこたつのみ、という部屋にヤツを招き入れた。


言っておくが、焼酎はロックか水割りだぞ?


『知ってるよ。ちゃんと氷を買ってきた。あと、ちくわ』

『ちくわ?』

『鍋ある?ちくわ鍋してやるよ』


そう言って、ヤツは雪平鍋に水を張り、ラベルのはがれかけた粒状の出汁の元を入れてコンロに火を付け、その中にコンビニで買ってきた竹輪を豪快にぶちこんだ。


『後は醤油をたらせば完成だ』

『どうでもイイがほんだしを家から持ってきたのか?』

『おう、大丈夫!賞味期限は昭和じゃないぞ』

『当たり前だ!昭和だったら俺らよりも年上のほんだしじゃねーか。あー、しかもちくわが7本ってどういう事だ!2人で食ったら1本余るじゃねぇーか』

『じゃぁ、いらねーの?』

『誰も、食わないとは言ってない』


そんなこんなで、ちくわをダシで煮込んだ、とても鍋とは言えない一品と一緒に二人は酒を飲み始めた。

暖かい食べ物は、それだけで美味いのだと思った。


そして、大西洋はあるのに何故、大東洋は無いのかについての議論と大学の北校舎にある柳の木には冬でもマフラーした幽霊が出るといった、実に有意義で全く生産性の無い会話をした。


気が付けば、午前2時をとっくに回っていた。

ヤツも自分の時計を見て呟いた。


『おお、もう日付が変わったな。乾杯しよう!メリークリスマース』

『まだ、イブだけどな』


安グラスのカチンとした音が部屋に響いた。

ぐびぐびとヤツは麦焼酎のロックを飲み干し、少し強めにグラスをこたつの天板に置き、ふーっと大きく息を吐いた。


しばらく、じっとしてた。会話が止まる。


『リコは…今日、リコは違い男と会うんだってさ…』


リコというのはヤツの彼女。いや、もう彼女だった女という事だな。

何度か会ったことはある。くるくるっとした可愛らしい女性だった。好みじゃなかったのでヤツと女を取り合う事は無いなと思った。


ヤツはニヘヘと笑って、続けた。

『振られちゃったよ~。泣けるぜ』

『お前がガンダムの話ばっかりしてたからじゃないのか?』

『してねーよ!でも、ディステニーは泣ける!』

『知らねぇーよ』


それから、ポツポツと自嘲ぎみに彼女との思い出を話し出した。

こっちも一緒に出かけたりしてたから、あの時そうだったなーなんて、それなりに会話が盛り上がった。

気が付いたら午前4時だった。


『やべぇ、俺って女々しいな。思い出話でこんな時間だぜ。くー悲しさ倍増~』

『そろそろ寝よう。酒が回ってちとふらつく』

『そうか。いやー俺はあんまり酔えなかったな。うん、まぁでも寝よう。…今日はありがとうな。おやすみ』


ニヘヘと笑って、ヤツはこたつの中にもぐりこんだ。

こたつの上はヒドイ有様だが、片付けは起きてからにしよう。どうせ、やることは無いんだ。

そう思って、ベッドに向かった。


鍋の中には冷えた竹輪が1本だけ残っていた。

眼が覚めたらヤツに食わせよう。




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