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自作小説倶楽部 第1冊/2010年下半期(第1-6集)  作者: 自作小説倶楽部
第6集(2010年12月)/テーマ「雪・氷」&「鍋」
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NO.1 てんにゃ著 「雪・氷 『淡雪』」


今朝のニュースで、アナウンサーが言っていた。

車の窓から、白い雪がちらほらと右から左へ流れるのが見える。

1点のシミも無い、真っ白な雪。

暖かそうにも、冷たそうにも車に中からは見える・・・・・

大通りの交差点で信号が赤に変わった。

大勢の人が交差してゆく。

そして、いつもの通りに、淡い紫色のマフラーをしたあの人が渡って来るのが見えた。

名前も住んでいる所も知らない男性。

でも、私は彼に恋をしている。一目惚れだった。


恋をしたのは、晩秋の頃。

その時には、公園からの落ち葉が、この交差点を舞っていた。

信号が青になったので、車を発進させようとした瞬間、子供が飛び出して来た!

私は、急いでハンドルを右に切った。ゴツン、バキッと聞きたくない音がした。

一瞬の過ち。右隣に止まっていたチンピラ風の男のベンツにぶつかってしまったのだ。

「何してんだ!」

5分刈りにした強面の男が、車を降りて怒鳴りつけて来た。

私は、恐怖で固まってしまっていた。

男は、私の車の窓を、コンコンと叩いて、

「下りてこい」

と怒鳴っている。

私は辛うじて、運転席の窓を開けて、か細い声で、

「すいません」

と謝った。

交差点には人が大勢いたが、誰一人として、事故を遠目に見物して行くだけで、関わり合う事は無かった。

「はよ、出て来んか!!」

私は、観念して車から出て行き、男の言う事を項垂れて聞いていた。そして、示談金を迫られ、車を脇にあるコンビニへ移そうと乗り込もうとした時、

「どうしたんですか?」

と、私の腕を掴んで声をかけて来た男性がいた。

年は30歳ぐらい。声の方を向くと、その男性も仲間かと思い、私は思わず、

「すいません。ごめんなさい!」

と、謝ってしまった。

「いや、大丈夫ですか?手伝いましょうか?」

と、優しい口調で言ってくれたので、改めて彼を見て、その優しそうな表情に、助けようとしてくれているのを、やっと認識した。

私のすがるような顔を見た彼は、相手のベンツの方へ行き、何やら話をしていたが、やがて、携帯を取り出して警察を呼んでしまった。


警察はすぐに来て、20分ぐらい事情を聞かれ、相手と話をしている間中ずっと彼は付き合ってくれて、最後に私がお礼に缶コーヒーを買って渡すと、

「じゃあ、これで」

と、笑顔で足早に去ってしまったのだった。

私は、その時の笑顔が忘れられず、その日から彼に心の中を占領されてしまったのだ。


そして、その後、この交差点を注意するようになり、3日後の月曜の朝、彼を見つけてからは、大好きな場所に変わったのだった。

毎朝、彼が通る時間は決まっていて、交差点に止まれるのは運次第だったが、会えた日は、一日中幸福感が続いた。

遠い昔に、私は悲惨な恋愛をして、それ以来恋をした事は無かった。地獄を見た私は、誰も信じられなかったのだ。

その時は、両親さえ助けてはくれなかった。そして、私は誰も信じられなくなったのだ。

だから、あのチンピラから救ってくれた彼は、私の中で久しぶりに灯った暖かな想いだった。


人口100万以上で、雪が降ってもめったに積もる事の無い東北都市で、一人でひっそりと暮らしていた。

1月の最後の週に、2日間雪が断続的に降ったために、5cm積もってしまった。

なるべく車で移動したい私は、スタットレスを用意していた。そして、その事が幸運を運びこんで来た。

今朝は、彼が犬を連れて交差点を通り過ぎたのだ!

そして、そのミニチュア・ダックスが、私の車におしっこを掛けてしまったのだった。

彼が、慌てた様子で車に寄って来る。

「すいません」

私は急いで窓を全開にした。さーっと、冷たい風が入り込んできて、これが夢ではない事を実感させた。

「いいえ。構いません・・・・あの、先日は、お世話になりました」

突然お礼を言われて、彼はキョトンとしていた。

「あの・・・、ここで事故を起こした時、助けて頂いた者です。覚えていませんか?ベンツにぶつけた時なんですが」

彼は、しばらくしてから、

「ああ・・・・」

と、思い出したような表情をした。

「あの、コンビニでお話しできませんか?」

横断歩道の青信号が点滅し始めたので、私はそう言うと、返事も聞かずに車をコンビニの駐車場へ滑り込ませた。

普段の自分の性格からは、自分でも想像出来ないほど積極的だった。

困惑したような笑顔をしながら、彼は犬を抱いて、車から下りた私の方へ歩いて来た。

「3カ月ぐらい前でしたね」

「はい。あの時は、本当にありがとうございました。あの後、警察に届けたおかげで、変な風にならないで保険で済みました」

私は、深く頭を下げてお礼を言った。

「それは良かったですね」

彼は、淡雪のような優しい表情で答えた。

その後の会話が、やがて心に積り積って、臆病な恋から”愛”に変化して行く喜びを、私ははっきりと感じた。


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