No.4 狼皮のスイーツマン著 「紅葉狩り」
特別展があったので美術館に足を運んでみると「紅葉狩り」と題した絵があった。油彩ではあるのだが、和装の美女が、落ちた紅葉の上で、鼓を打つ図だ。
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「父様どうしたの」
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「いや、なんでもないよ」
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洋装でおめかしをした娘を抱き上げる。そう、同じように抱っこされたことがある。
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旅籠屋の倅が、部屋を覗き込むと、人好きのする顔のする侍がいた。刀を横に置いていつも考えごとをしているのだが、少年が来ると微笑んで、頭を撫でたり抱っこされたり、ときには飴やら小遣いまでもらったものだった。
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紅葉の季節、侍は奥方と親しい友人たちを引き連れて、東山の紅葉狩りにでかけた。奥方が鼓を打ち、宴席は大いに盛り上がっている。そこへ、少年は、「急ぎの手紙」だからといって、使い走りをした。もちろん、侍は微笑んで、肴を少年にわけてやった。
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美術館にいた父娘をみつけた新聞記者が近寄ってきて、短い鉛筆でメモをとりだした。
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「その侍が坂本竜馬で、奥方はお龍」
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「はい、そうです」
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明治維新から百五十年経つ。稀ではあったが昭和四十年代までは江戸時代生まれの人がいた。私が子供のころ、テレビ取材に応じていたのは、話をつたえ訊いた旅籠屋の倅の甥にあたる明治生まれの老人。些細な証言なのだけれども、今も、私の中では強烈なインパクトを放っている。
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(※少しだけ事実をおりませたフィクション。モデルの方の報道内容は以下の通りです)
竜馬と仲間たちが京都のある宿屋二階で宴席を行っていたところ、宿屋の子供のが、使いを頼まれてやってきた。竜馬は微笑んで頭を撫でられた。子供が長じてから甥にエピソードを伝え、甥が長じてから、取材に応じた。
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宿屋の子供の甥子さんがテレビにでたのは昭和50年代だったと記憶しております。かなりの高齢でしたけれど。事実はここまでで、あとは脚色ですよ。




