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自作小説倶楽部 第1冊/2010年下半期(第1-6集)  作者: 自作小説倶楽部
第4集(2010年10月)/テーマ「秋」&「衣替え」
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No.13  Iazu330 著 「衣替え『男女』」



教室の中にチャイムが響く。ガランとした空間に整然と机が並ぶ。南リカは一人机に座り一枚の紙を眺めていた。


『10月より冬季制服着用のお知らせ(衣替えについて)』


「はぁ」


朝プリントが配られてからリカはずっとこの調子で深いため息を繰り返していた。


「はぁ」


この日何度目かのため息をついたリカの背中は普段の元気なリカからは想像もできないほどに暗く陰っている。


「あの、南さん?」


声をかけたのは俺。なかなか授業に現れないリカを担任の命令で探しに来たのだ。

リカは少しだけ驚いて、また机に向き直って俯いてしまった。


「あの」


「なに?」


「いやっ。先生が探して来いって」


「なんでアンタが?」


「なんでって…学級委員だから?」


「ふーん」


それきりリカは黙りこくってしまった。リカの視線はまた例のプリントに固定された。


「それって、朝配られた奴?」


リカはうんともすんとも言わない。代わりに少し体が強張った気がした。


「衣替えがどうかしたの?」


俺がそういうと、リカは勢いよく立ちあがって胸ぐらを掴み言った。


「アンタに何がわかんの?」


低い声で言い放ち、ドンと俺を押しのける。リカの瞳はまだ俺を睨みつけていた。


「アンタにわかるの?衣替えの度に虐められた私の気持ちが!」


「夏になればデカいだのキモいだの、冬は冬でデブだの関取だの!私がどんなに傷ついたか!この胸のせいで毎日どんなに苦労してるかアンタにわかるっていうの?」


おもむろにブラウスを脱いだリカの胸には、これでもと言うほどにさらしがぐるぐると巻いてあった。いかにも窮屈そうにさらしの下に納まっているお肉たちが哀れだ。


「アンタみたいな優等生にはわかんないでしょうね。こんな悩みなんてバカバカしいとでも思ってるんでしょ」


「思ってないよ」


「嘘よ。少し聞いただけで知った風な口きかないで」


「ううん。わかるよ。南さんの気持ち」


「うそ」


俺を睨みつけていたリカの瞳はいつの間にか床に張り付いていた。代わりにその胸似つかない細い肩が震えているのがわかる。


「ほらこれ」


ふわっとリカの肩にかけてあげたのは今まで自分が来ていた白いTシャツ。

ちょっとキザすぎかと思ったけど、でもこれで……


「リカは驚いたが、それがシャツの事ではないとすぐにわかった。

驚くのは必然だ。だって、誰もがそうだから。


リカの視線の先にはおそらく俺の右半身にあるのだろう。

誰もが見入る俺のその半身はおびただしい量の切り傷、火傷で覆われている。

傷はどれもこれも古いものばかりでケロイド状になっているものが大半だったが、それがまた肌の凹凸を引き立て質を変え、ヘタな粘土細工のように身体を変形させていた。


「わかるよ。リカさんの気持ち。俺もそうだったから」


はっとあげたリカの顔は悲しそうな苦しそうな顔をしていて少し心地よかった。


~~♪ッ


授業が終わったようだ。

各教室がざわめき、続々と廊下に繰出ていく気配を感じる。


あ、まずい。

この状況、どうやって説明すればいい?


まずいまずいまずい。


ぐいっ


いきなり引っ張られたかと思うと、薄暗い場所に詰め込まれた。ここは…。


「用具入れ?」


「しっ!うるさい!」


ここに俺を詰め込んだ張本人は息を殺して外の気配を気にかけていた。

背中にあたるモップの柄が痛い。少しでも足を動かすとバケツがあたって音が出てしまう。


「あと一時間で放課後だから。それまで我慢して」


「わかった」


と言うしかなかった。そのうちクラスの奴らが戻ってきて6限目が始まる。

時間の経つのが異様に遅く思えた。二人とも無言で放課後のその時が訪れるのをじっと待った。


ホームルームが終わりみんなわらわらと教室を出ていく。その最後の一人を気配で見送ると俺たちは恐る恐る外へ出た。


俺はデカいため息をついてその場にしゃがみ込む。

リカは慌てて俺のシャツの上から自分のブラウスを着ていた。こういう時の女子はとても器用だと思う。

テキパキと重ねて着ていた俺のシャツだけを脱ぎほいとこちらに投げてきた。


「明日からは巻かないで来る」


「あぁ。別に無理しなくていいんじゃない」


わざと無関心を装って冷たく言い放つ。


「絶対」


「え?」


「絶対巻かないで登校してやるから!!」


そういってリカは自分の席から鞄をひったくって走り去って行った。



「おはよー」


「あっ、おっはよー」


朝の挨拶が飛び交う中俺は一人で学校を目指しとぼとぼ歩く。


「おっ、おはよう」


後ろから聞こえたのはリカの声だった。


少し俯き恥ずかしそうに佇んでいる。

リカの胸は昨日よりほんの少しだけ大きくなっていた。流石にいきなり取るのはためらったらしい。でも、それが正解な気がした。


「じゃ、じゃあ先に行くから」


走り出したリカの背中を眺めながら俺は自分のネクタイを緩め一つだけシャツのボタンを外した。


(了)



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