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自作小説倶楽部 第1冊/2010年下半期(第1-6集)  作者: 自作小説倶楽部
第4集(2010年10月)/テーマ「秋」&「衣替え」
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N0.12 ジャム著 「衣替え 『煙草の火』」



 秋風が身体に刺さる夕暮れ時、牧野秋は中心街の中でふと足を止めた。今は秋、それを思い出す。そろそろ衣替えの時期である。

 入り口に立つと、ガラスのドアが滑らかに開き、彼女を迎え入れる。「いらっしゃいませ」の声が飛び交う中、牧野は冬物の所に向かった。

 彼女は特にファッションというものに拘った事はなかった。流行というのもどうでもよかったし、見知らぬ人間にお洒落な自分を見せ付けるという行為が、理解できなかった。ただ、人並みに夏は涼しい格好を、冬は暖かい格好をしたいだけだ。

 黒いコートを見つけて手に取る。

 身体に当ててみると少し大きかった。

 そういえば毎年コートを着ているような気がした。人を寄せ付けないように、外見までも防御していると見せたいからだろうか。つくづく自分は、人間と言う生物として生きていく事には、向いていないなと牧野は自己分析をした。

 ゆっくりとため息をする。

 しかしもう衣替えの時期、数年に一度は違うのを着てみようと思った。

 コートがある場所を離れジャケットの所に行く。

 適当な物を取って身体に当てる。サイズはまぁまぁだ。

 他にも色々見て歩く。

 不意にお客様、と聞こえた。振り返ると店員が立っていた。さっきのお客様に追加して、「どのようなものをお探しでしょうか?」と言った。

「えーっと、特にこれといったものは……」予想だにしなかったので、少し声がびっくりした。

「今年の流行はこちらです」店員は笑顔で言いながら、近くにあったジャケットを持ってきた。「これなんてどうでしょう?」

「あ、良いですね……」社交辞令として答えた。それからできれば、と続けた。「流行というより温かくて、できるだけ軽い物がいいです」

「それでしたら、あちらになります」

 店員の後を追う。

 面倒な事になったと聞こえないように舌打ちをした。

 正直な所、牧野は自分には話しかけないで欲しいと思った。いちいち相手をするのも面倒だし、何も得るものがないからだ。時間の無駄以外の何ものでもない。あれがいい、これがいいと言われた所で、結局決めるのは本人ではないか。しかし、自分で決めれない人間もいるのも否めない。ある程度のガイドラインがないと、動けない人間はある意味で幸せだ。

 それはそれで仕方ないと理解できる部分もある。

 少しイライラしたせいで、煙草が吸いたくなったが、我慢する。




 結局ジャケットとマフラーを買って店を出た。もう空は矛盾を孕んだ黒に染まりつつあった。

 ある程度歩いてから、自動販売機を見つけた。熱いブラックコーヒーのボタンを押す。すると、LEDで出来た釣竿に魚が掛かった。そして釣れた。どうやら「当たり」というやつらしく、もう一本選ぶことができた。5秒考えてコーラを押した。

 人混みに立ち向かった自分へのご褒美だろうと牧野は思った。

 それから近くのベンチまで行き、休憩をすることにした。人混みで精神的にも体力的にも疲れたからだ。

 ポケットから煙草を取り出して、火を点ける。

 さっきはよく我慢したと思った。

 いつもなら頭に来て、さっさと店から出て行くはず。少しだけ大人になったのか、それとも外見だけでなく、内側まで衣替えをしたのだろうか。

 どうせ答えは出ないだろうという予感にしたがって、牧野は思考を中止した。

 彼女は煙草を咥えながら夜空を見上げた。

 所々に星が輝いている。

 視界の煙草の火も燃えていた。まるで燃え尽きる星のように。

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