No.9 ルティマ 著 / 衣替え『秋恋』
俺の大学には百合の花に例えられるほどの美人が居る。
「くっそーっ!」
押入れからドスンと落とすように衣装ケースを降ろす。
心の隅で階下の住人に申し訳ないと呟いても、ベクトルは怒りや悔しさに向いたまま動かない。
「俺の憧れだっつーの!」
息を切らせて叫んだところでただの近所迷惑にしかならないのは分かっている。
今日の昼。いつもの場所に和紀が居なかった。
約束をしていたにも関わらず、どこをふらついているのかと少しムッとしたが、どうせ授業の終了時間が延びているのだろうと気にしなかった。
彼の選択科目の教授はそれで有名だったから。
その為、昼飯抜きで次の講義を受ける生徒もいるのだ。
様子を見に教室へと向かった。
「あれ?終わってんじゃん」
ドアのガラス窓から中を覗き見ると、黒板は綺麗にされていて静まりかえっていた。
そこに二人の姿を認める。
一人は和紀。
そしてもう一人は・・・。
(真由美さん?!)
優夜の憧れの人が頬を染め何かを言っている。
(まさか、和紀に告白?)
ショックを受け、確かめもしないまま授業を欠席しアパートへ帰ってきてしまった。
彼女の顔と和紀の顔が交互に浮かび消える。
(・・・俺よりも和紀だろうな。アイツ男から見てもカッコイイし)
腹を立てて散々大声を出して自己解決する。
熱しやすく冷めやすい。これが彼の怒りパターン。
「衣替えの続きでもやるか・・・」
そして掃除をするという変なところがある。
衣装ケースを開けて冬物を出し始めると、押入れの奥にしまいっぱなしだった本を見つけ読みはじめてしまう。
「ほう。それで、衣替えは終わったのかな?」
「・・・はい。なんとか」
寝不足で重たい瞼のまま大学へ行き授業を受けたのはいいが、睡魔に負けてしまい爆睡しているのを教授に咎められ、呼び出しをくらってしまった。
あれから衣替えはなかなか進まず、終えたのは夜中の二時。
朝七時にアパートを出れば平気と考えていたのだが、布団に入った途端に二人のことを思い出し、眠れなかったのだ。
「失礼します」
「どうぞ」
お説教中にドアを叩き、入ってきたのは和紀と憧れの人、真由美さんだった。
「こんにちは。あら?すごいクマが出来てるけど大丈夫?」
急に話しかけられ、緊張のあまり声が出ずコクコクと首を縦に振った。
「教授、文化祭の件なんですが・・・」
「あぁ!今年は君らが運営になったのか」
「はい」
この時優夜は悟った。
教室で二人が話をしていた理由を。
「昨年より派手にしようかと思いまして」
教授含め三人で楽しそうに話しているのを見て、この場にいるのが恥ずかしくなる。
(勘違いだったのか・・・)
そして、ふつふつと込み上げる自分への怒りは、何処へぶつけたらいいのか悶々としていた。
(了)




