NO.11 lily著 「月『不器用者の言い訳』」
僕は不器用な人間だ。常に微笑を絶やさない人間で居たいのに、笑みを作るのが苦手で無愛想に見えてしまう。
人の意見を取り入れることも大切だと分かっているのに、どうしても意地を張ってしまう。
だから頑固だといわれる。そんな僕のことを彼女は「古き良き日本男児」と呼び、褒めてくれる。
彼女は、どちらかといえば古風な女性だ。
大和撫子・・・というよりも懐古主義者と言ったほうが良いのかもしれない。
彼女の価値観や趣味嗜好は、現代においては古臭いものである。
そんな彼女の眼に映る僕は、男尊女卑時代の典型的な男性そのものらしい。
なんとも複雑な気分だ。
日本男児と大和撫子のカップルは、デートも少しばかり古風である。
普通は遊園地ではしゃぐとか、カラオケで盛り上がるとか・・・そんな所なのだろうが、僕たちは違う。
僕たちが選ぶのは決まって、静かであまり人がいないところだ。
手すら繋がず、二人並んでぶらぶらと歩いたり、池の鯉を眺めながら特に話もせずに沈黙を楽しんだりと、傍から見たら決して楽しそうではないこと飽きもせずに繰り返している。
これが正しい「古き良き日本人カップルのデート」なのか僕には分からない。
ともかく今日も僕らは古風なデートを楽しんでいる。
今回は満点の夜空が近くに見える丘でのお月見だ。
彼女はこういう風流なことを好む。
僕たちは長いこと沈黙したまま、満月を眺めていた。
別に喧嘩をしたわけでもない。これが僕らの普通なのだ。
ちらりと横目で彼女を盗み見る。
黄金に輝く満月をじっとみつめる彼女を、本当に美しいと思った。
そして、こんなに美しい彼女から真剣に見つめて貰える満月を妬ましくも思った。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
月という物は、人の心を惑わすのかもしれない。
そういえば、水面に浮かぶ月を取ろうとして溺れたという詩人がいたな。
月は人間を陶酔させる何かを持っているのだろうか。
ふと僕は思いついた。
もし月が人を惑わせる魔力を持つのならば、僕は甘んじてそれに掛かってしまっても良いのではないかと。
それならば、僕は柄にも無いことが出来る。
例えばこんな風に嫉妬してみたり。それから・・・彼女に愛を囁いてみたり。
僕も月に陶酔してしまえば良い、あの詩人のように。
けれどもやはり僕は不器用だ。
彼女に向かって、愛してるの一言がいえない。
彼女は、僕を「日本男児」という。
ならばそれすらも言い訳にしてやろう。
「日本男児は“愛している”等と言わない」
そう言ったのは誰だったかな。
ああ、たしか文豪の夏目漱石だ。
そうだ、僕は日本男児だ。
愛しているなどと気障なことは言わない。
今は己の不器用さを、こんな風に言い訳しよう。
すべては月の所為にしてしまえば良いさ。
さて、こういうときはなんと言えば良いんだったかな。
たしか夏目漱石は・・・・・。
・・・ああ、思い出した。
しかし、この言葉で彼女は僕の言わんとすることを理解してくれるだろうか。
否、多分大丈夫だ。
彼女は文学が好きだから。
「ねえ」
手短に呼びかけるとすぐに、彼女は月から僕へと目線を移した。
口元に微笑を湛えながら小首を傾げる彼女に、僕は真心を込めてこういった。
「月が綺麗だね」




