NO.10 Cheru 著 『電話』
十年前だった。
私は 生後六ヶ月の娘の顔を見せに 祖母の家に行った。
祖母は駄菓子屋を営んでいた。
店は小さいけれど 平日は放課後の小学生達で賑やかだった。
「あ、赤ちゃんや」
「ホンマや 赤ちゃんおる」
「めっちゃかわいい」
店の奥の座敷いた私達親子に
気づいた女の子達が
少し興奮しながらこちらを覗いていた。
日が暮れるのが早くなったなぁと思っていると
公民館から キーンコーンカーンコーン とチャイムが鳴り出した。
夕方五時になったのだ。
「りっちゃん、も少し おってもいい?」
祖母の名は律子といい、
この辺りでは 大人からも子どもからも“りっちゃん”と呼ばれていた。
「赤ちゃん もう少し見ときたいねん」
「あれ。五時の鐘鳴ったで。せやなぁ・・・お母さんに電話しとくか?」
「うん」
女の子は電話の前でもじもじしている。
「おねえちゃん・・・」
「ん? どないしたん?」
「これ・・・どやって使うん?」
「えっ」
冗談かと思った。
しかし少女は 本当にダイアル式電話の使い方が解らないらしい。
「こうやって電話番号を順番に 時計回りに回したらつながるよ」
「ありがとう」
どこまで回して良いかわからず、途中で指が抜ける。
「焦らんでもええよ。 ゆっくりやってごらん」
じーこ。 じーこ。
回しては元に戻る。プッシュより時間が掛かる。
それはほんの僅かな時間。
その時間の中に ドキドキや ワクワクがあったなぁと思い出した。
「お母さん、迎えに来てくれるって。
別にええのになぁ。小っさい子みたいや」
両の手のひらでスカートを上から下に撫でて
女の子は少し照れた様子だった。
照れくささを隠す様に 私のひざの上に座る娘をあやし始めた。
「“げんこつ山のたぬきさん”やったら喜ぶで この子」
「えっ ホンマ? もうわかるの?」
「人が踊ってるの見るのんが好きみたい。真似もするよ」
◇
十年ひと昔。
娘の同級生の中には すでに携帯電話を持っている子がいる。
「こんにちは。私は△△です。○○ちゃんいますか?」
お友達の親と 電話越しに挨拶を交わす事も無くなってきている。
ハード、ソフト、人工知能、夢の細胞・・・
急速な進化。
眩しい。
楽しい。
遠かったものが近く感じる。
世界は広がる。
私達の中の小さな何かが 隠れるように退化してゆく。
(完)




