N0.7 レーグル著 「月 『月の影より不確かな』」
結婚式での『永遠の誓い』とは何だったのか。
夫の浮気の証拠写真を見つめながら心の中で嘆息する。
カップに入ったコーヒーに月が映る。
あの式では、幸せそうに笑う私たちと口々に祝いの言葉を言う友人と、神妙な面持ちの親族の顔があった。
ロミオとジュリエットだね。
と友人たちは言った。
とある有名お菓子メーカーの会長の孫娘である私と、そのライバルお菓子メーカーの社長の息子だった夫。
お互い、二つのお菓子メーカーとは全く関係無い会社に勤め、偶然出会った。
ロミオとジュリエットのような甘い台詞は無かったが、一目惚れ同士ではあった。
付き合い始めて、ようやくお互いの素性を詳しく知ると、親族の多くが私たちの付き合いに反対することが分かった。
だが、障害が多いほど恋は燃え上がるもの。
友人たちには何度も助けられた。
私に縁談が持ち上がった時、あの人は真っ先に駆けつけてくれた。
そして、付き合って三年、私たちが出会った日にプロポーズされたのだ。
「薔薇の名前が変わっても、その美しい香りは変わらない」
あなたの名前は変わらなかったはずなのに、気持ちはすっかり変わってしまったのね。
もしロミオとジュリエットがハッピーエンドを迎えられたとしても、いつかはこんな日が来るのだろうか。
「ごめん。待ったかい」
「少しだけ」
「どうしたんだい?機嫌が悪いみたいだけど」
「そんなことないわ。すみません、コーヒーをもう一つ」
「いいよ。すぐ出るんだろ」
「いいじゃない。たまにはゆっくりしましょうよ」
「君がそう言うなら…」
恋をし続けるのと、愛し続けるのは、全く別の行為だ。
恋は満たされてしまった瞬間に、どこからか流れ出して、消えていってしまう。
満ちた月が欠け始めるように。
彼が、運ばれてきたコーヒーに口をつける。
「そろそろ考えてくれたかい?」
「何の話だったかしら」
「おいおい。冗談はよしてくれよ。僕たちはお互い家庭のある身だが、僕は真剣なんだ」
「そう」
「君がうんと言ってくれるなら、妻とは離婚する。二人で一緒になろう」
「絶対?私が離婚したら、あなたも絶対離婚するの?」
「ああ。もちろん。絶対だ」
月は自ら光を放たない。
だから、たった一晩でその影が変わってしまう。
全て借り物の偽物だから、夜だけ輝くのだ。
「じゃあ、あの月に誓ってちょうだい」
「月に?」
「駄目かしら」
「いや、そんなことない。もちろん誓うよ」
もうすぐあの人が、あの自動ドアから入ってくるだろう。
そして、この人の奥さんも。
私のことを世間知らずのお姫様だと思っているようだけど、あなたがどこで誰と何をしているのかぐらいは知っているの。
きっと最後に残るのは、月の影より不確かな
(完)




