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自作小説倶楽部 第1冊/2010年下半期(第1-6集)  作者: 自作小説倶楽部
第3集(2010年9月)/テーマ 「月」&「電話」
24/67

No.1 村井紅斗 著 「電話 『留守番遺書』」


 別れよう、と美鈴が言った。

 俺は無言を押し通したけれど、内心動揺していた。今日だって、昨日だって、美鈴はずっと楽しそうに笑っていたし、手もつないでくれた、なのに。

 何で、と聞くと、美鈴はさっきと同じような口調で、他に好きな人が出来た、と答えた。

 不意に襲ってくる悲しみと、憎しみと。俺は何も言わず、下を向いて、持っていた空き缶に力を込めた。空き缶が鈍い音を立ててへこむ。 

 美鈴が立ち上がったような気配がした。重ねていた手が、離れていく。

 さよなら、と美鈴が言った。声が少し、震えているように思えた。

 俺は最後まで無言のまま、下を向いていた。


 それが最後だった。


                           


 高井美鈴という彼女がいた。付き合いのなれそめは全然覚えていないけれど、大学で知り合って、大学でどちらからともなく惹かれあって、付き合い始めた。

 美鈴は俺とは釣り合わないような上品な品性の持ち主である反面、好奇心旺盛なお嬢様だった。どこにでも行くし、なんでもする。それでも最低限のマナーは守る。俺はそんな美鈴に続いて、彼女を守る騎士のように後ろから付いて行った。


 全部過去形で、俺は昨日美鈴に振られ、一人身になったんだけども。

 正直なところ、本当に信じられなかった。

 どこで、余所見させたんだろうなぁ…。


 俺は、自室で、大学にもいかずにそんな物思いに耽っていた。

 卓袱台に肘をつき、顎に手をあてて、真剣に考える。もう終わったことだ、と奥のほうの俺が言う。そんな自分を殴り、また考える。

 自慢じゃないけど、美鈴が俺以外の男の話をしたのを、俺は聞いたことがなかった。大学の中でもずっと一緒にいたし、外に出ても一緒だった。

 余所見する暇なんて、ありゃあしないはずなのだ。

 自分が美鈴スペシャリストと自称していたところで、それはあくまで自称であって、現実は違うかもしれない。本当は、美鈴は俺以外の誰かをずっと見ていたのかもしれない。

 もう終わったことじゃないか、元気だせよ俺、とさっき鎮圧したはずの俺が復活して叫んだ。思考が、萎えた。

 そうだ、もう終わったことだ。今更考えたって、なにも起こらない。美鈴は、もう俺の彼女には、ならない。




 固定電話が鳴った。立ち上がり、受話器を取る。


「はいもしもし」

『温海君!?温海君よね!?』

 聞いたことのある声だった、誰の声だっただろうか。

「はい、そうですが、あの」

『美鈴がっ、美鈴がぁっ…』

思い出した。美鈴のお母さんの声だ。何度か美鈴の家へ行ったときに聞いたことがある。

 おばさんは、泣いていた。

『美鈴が、事故に…』

「…え?」

おばさんは、しゃくり上げながら語った。美鈴が大学に行く途中に事故に会ったこと。美鈴は全身が車にあたって、即死だったこと。

『真っ先に美鈴の携帯を覗いて、温海君にかけたけどっ、繋がらなかったからっ、家電に、かけたっ、ごめんなさいっ…』

俺は鞄の中を探った。携帯が、無い。大学に忘れてきたのか…。


 その後りは、よく覚えていない。俺は適当に相槌を打って、電話を切って、大学に向かった。

 研究室に、俺の携帯は忘れられていた。

 携帯が、光っていた。メールでも着ているんだろうか。

 携帯を開く。留守番電話、一件。送り主は、高井美鈴。

 すぐに再生ボタンを押す。


『温海君へ。これを聞いている時、私はもう死んでいると思います。昔から知ってた。なんでかって言うと、ほら、昔占い商店街に行ったじゃない。あの時にね、実は予言されたの。死の予言。不吉だけど、スルーできなかった。

 昨日温海君と別れたのは、恋人のまま私が死んだら、色々後味が悪いと思ったからです。温海君も、私も。恋人が死んだなんて、トラウマになっちゃうしね。私は温海君が大好きなので、昨日のうちに別れようと前々から計画していました。もしあの予言が外れて、私がまだ生きていたら、昨日のは冗談だよ、ともう一度告白してると思います。

 だから、私は君にひとつ嘘をつきました。他に好きな人なんて、出来るわけないよ。私は、温海君しか見ていませんでした。恥ずかしい台詞だけど、四六時中温海君のことを考えてた。

 もし、あの予言が外れていたら、大学に来てからこのメッセージは削除するつもりでした。君が携帯を置き忘れたのは偶然じゃないよ。君がトイレに行っている間に、君の鞄から取って、隠しておきました。ごめんなさい。

 温海君。私は温海君が大好きでした。この世で一番大好きで、大切な存在でした。ずっとずっと、一緒にいたかった。君も同じことを思っていてくれたのなら、本当にごめんなさい。一緒にいれなくて、悲しませて、ごめんなさい。

 言いたいことはもっとたくさんあるけれど、時間がないのでこれくらいにしておきます。

 さよなら、温海君。愛してます。』




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