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10 真亜弥 著 夏休み 『金属音、闇色』
グランドに歓声が響く
走っているバッター
それを目で・耳で・感動で楽しむ人々
目が見えなくとも 僕にはそれが分かった
セーフ!という声が響き渡る ボルテージはマックスに上り詰める
次の打者――打席からして6年生の尾田君――が打席に立つだろう
もう一度 あの場に立ちたい
太陽の眩しさに立ちくらみがしてきた
けど僕はこの場の空気を味わいたいから
そのまま そこに立ちつくした
いっそのことグランドになれたら楽しいのに
そう思ってると誰かが来た
君も目が見えんのか
―なぜ判ったんですか
ワシも目が見えんのじゃ
もう目が治らないと 絶望してるわけじゃなかった
その人は男の人で 僕と同じようになってて
もうこれが幾年か続いてる そう言ってた
目は治るよね そう聞いたとき
治るわよ と言った
母の声が泣きそうだった理由がわかった
僕は 一生このままなんだ
もう野球は出来ないのかな
尾田君がホームランを打った 心地よい金属音がした
(完)