一話 「神は試練を望む」
ギャグを、ギャグ小説を書きたくなったんです……!
小説を書く息抜きに小説を書く……。
あれ、無限ループ?
朝、起きることを苦痛に思ったことはない。基本的には早寝早起きを心がけているし、夜更かししなきゃいけない用事も特にない。
目覚めも良い方だしここ数年は病気にならない至って普通の健康優良児だ。
だが、そんな俺にも朝苦痛に感じる事がある。
それは――
「ようちびっ子、今日も小さいな!」
「うるっせ!」
兄、高村 要の存在が大きいだろう。
高村家は長身家系だ。
父、高村 雄介は元バスケットボール選手で、大体身長は190㎝後半に届くくらい。
母、高村 紫苑はバレーボール日本代表に選ばれた事があり、身体は180より少し大きい。
他、俺を含まない三人の兄弟姉妹は軒並み180cmと言う世間一般で長身と言われるラインを超えている。
まだ小学生の弟と妹でさえ150いってるし、将来的には兄貴みたくおっきくなるんだろう。
そんな家系の中、2番目に生まれ、次男として妹や弟を導く立場で頑張っている俺、高村 長門は…。
「あれ〜? どこにも人が居ないはずなのに声が聞こえるぞ〜?」
「うがー! 要兄わかっててやってるだろ!」
「あれれ〜また声が〜。身長140cmの男子高校生の声が聞こえてくるぞ〜」
「要兄! この〜!!」
「わはは! この体格差で俺が負けるわけないだろう!」
身長140cm、お世辞にも高いと言えない身長。平均から考えても下の下が良いところの身長だ。
名前に長いってついてるのに…なんで俺だけこんなに小さいんだ……!
「ちっくしょー!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「よっす長門…ってその顔、まーた兄貴に馬鹿にされたのかよ?」
「ほっとけ!」
学校に着いた俺に声をかけてきた友人、大友 優雅が嘲笑を交えて肩を叩く。
馬鹿にされているのも無理はない、彼も身長高い組、170㎝後半の男なのだから…!
「ちっくしょー、神様ってのは理不尽だー!」
「ははっ、朝から元気だなぁ。小さいのにどこからそんな元気が出てんだよ」
「そーだな優雅、ほんとそうだよなー」
「てめぇこの野郎! お前も俺の恨みの対象だからな檜!」
中島 檜、俺の通っている桜の上下高校一のモテ男 (自称)。
普通ならこの肩書には (笑)が付き、イジリの対象になるはずなのだが……。
「なんでちゃっかりモテるんだよ! ギャグ枠としての自覚を持てよぉ!」
「あっはっは、そりゃ平均越えの身長とサッカー部次期部長ともなればモテるだろ。って、あーそうだったそうだった。平均に届いてないかわいそうな奴がここにいたわ」
「長門ならワンチャン小学生料金で行けたり……?」
「うっせ!」
「あー、それならおもろい話があるぜ! コイツ前電車一人で乗ってたら知らねぇおばあちゃんに「一人で乗れて偉いねぇ」って言われてたぜー」
「あっ! お前それは言わねぇ約束だっただろ! パピコ半分返せこの野郎!」
「口止め料は既に俺の腹の中から消えたので無理でーす」
実際の所、いじられ枠は低身長の俺だというのが悲しい現実だ。
どうしてか俺の周りにはデカめの奴が寄って来る。連れの中での最低身長 (自分を含めるとぶっちぎりで俺だが)は176㎝。当然のように平均越えを果たしている。
俺なんて厚底履いても150㎝台に届かねぇってのに……。
「やっぱ神様ってクソだー!」
「おうおう、小さいのに声だけはデカいのな。牛乳飲んでっか? イライラには牛乳カルシウムってどっかの歌で言ってただろ」
「毎日飲んでるわっ! ってかそんな地球侵略しに来た蛙の宇宙人アニメのネタなんて通じねぇだろが!」
「そう言いながらも毎回ツッコんでくれるのがお前なんだよなぁ……」
「というか毎日飲んでんのな。涙ぐましい努力にお涙ちょちょぎれるね。ほれ、施しをやろう」
「そう言いながら牛乳渡すな! 今朝も飲んできたわ! ──ってこれ飲みかけじゃねぇか!」
今日も何ら変わりない日常。でも俺からすると少し特別な一日。
今日の帰り、片思いしてる柳沢 香蓮に告白するのだ。
中学の頃から好きだった柳沢に今日こそ想いを伝えるんだ!
「ごめんなさい」
「────」
放課後、ついてくるなと言った友人に見守られ想いを伝えたのだが、結果はごめんの一言で片づけられた。
後ろでクラッカーを構えていた優雅もどこかやりきれない様子だ。
最後に、一つ聞いておきたい。
「俺の、どこが駄目だったのか。それだけ教えてくれないか?」
声を絞り出して質問する。きっと質問の答えを聞いたら後悔する。でも聞かなくても後悔する。それなら俺は前者を選ぶ。やらない後悔よりもやる後悔だ。
「私、長門君のこと嫌いじゃないの。女子の間でもかっこいいって話がよく出るもの。気遣いも出来て優しくて──」
耳触りのいい言葉が鼓膜を揺らす。好きな人にそんな事を言われて嬉しくない男はいない。
でも、それがとある理由の前置きだと、なんとなくわかってる。
「でも私、身長が高い人が好きなの」
だろうと思った。自分で言うのもあれだけどロマンチストの俺は身長が高い男が好きという女性の気持ちがわかる。妹に勧められて見た恋愛系の漫画にでてくる男は整った顔立ちに高い身長というテンプレ。
女性の求める男性像を具現化している。それと対極に位置する自分は、こうなって当然か。
「うん。わかった。ありがと、それとごめんな。多分気まずいだろ」
「そんなことないって言いたいけど、正直ね……」
仕方ない。態度やら言葉遣いは治せるが、身長はどうやっても変わらないからな。
叶わない恋だったってだけだ。すっぱり諦めよう。
「おいっ長門!」
「あー、お前ら。期待通りの結果を出せなくてわるかっ──」
「そんなんじゃねぇ! 逃げろ──!」
は? と声を出す前に理解した。すぐ横、トラックがガードレールすら突き破って向かってきている。
これは、間に合わないな。仕方ない。
「──えっ?」
ドン、と彼女を突き飛ばした。付き合ってもないしフラれたばっかりで彼女という敬称を使うのはおかしいか。でも、これで彼女は助かるな。突き飛ばしちゃったから怪我したかもしないけどそこは許してくれるとありがたいな。
にしても走馬灯ってこんな感覚なんだな。世界が遅い。って、このトラックの運ちゃん居眠り運転かよ。ツイてないなぁ。
……俺、死にそうになってるのに冷静すぎか? ……死にたくねぇな。朱莉も慎介もまだ小学生になったばっかりだぞ。大きくなったあいつら見たかったよ。俺の身長を越しまくって「にいちゃんどこー」ってからかわれるんだ。そんな未来もあったかも知れないのに。
「はぁ、クソ───」
その先に続く言葉があっただろうけど、その先を聞いた者、言った者はいない。小さいからだが跳ね飛ばされて、高村長門の人生はそこで終わった。
白い空間に居た。目の前にはトップ女優かと思うほどの美貌と男を引き寄せるような魔性の身体付きをしている、言うなれば女神のような存在がそこにいた。
「まぁ! そんな風に言ってくれるなんて嬉しいわね」
ん? 俺、口に出てたか?
「いえいえ、貴方の想像通り、私が女神ですから思考が読めるのです」
女神、女神ねぇ……。胡散臭くはない。寧ろ否応なしに信じさせてくるような、引き込まれるような雰囲気を感じる。
「神は信仰されてなんぼですから、そういう権能を持っているんです」
ふーん。で、その女神様が一体なんの用事で? 確か俺トラックに轢かれたはずなんだけど、もしかして死んでなくて夢見てるだけとか?
「いえ、死んでいますよ。間違いなく」
間違いなく、か。はーぁ、やりたいこと沢山あったのになぁ。妹と弟、全員が成人するまでは生きるつもりだったのに。
「そのやりたいこと、できますよ」
え……マジすか?
「はい。わざわざ女神が死者に声をかけたのには理由がありますから」
あー、成る程。もしかしなくても異世界転生ってやつ?
「はい! あっちの世界で第二の生を楽しんでください。貴方にはその権利があります」
……いくつか質問しても?
「どうぞ」
一つ、記憶はどうなるのか。テンプレ通りなら無くならないはずだけど一応聞いておきたいです。
二つ、元の世界には帰れるんですか? 実際のところ未練タラタラなんですよ。
「えー一つ目の答えは『はい。』が答えです。二つ目は『条件次第。』が答えです」
そうか、じゃあその条件を教えて貰えますか。
「はい。ですがそれにも条件があります。その条件を忘れることです」
あー、ただでは帰さないってことっすね。理由は……面白くないからとかが相場ですけど……。
「その通りです。簡単に帰られては苦労と見合ってないですもの」
チャンスを貰えるだけありがたいか……。
その条件、呑みます。
「よろしい。では────」
そうして俺、高村長門は転生した。
高村家家族構成
父 高村 雄介 共働き中。妻である紫苑とジムの経営をしている。今でも現役で活躍できなくもない。
母 高村 紫苑 共働き中。夫である雄介とジムを切り盛りしている。ジムで補助をする関係上お腹が減っているので夕飯は特盛が日常。なお、子供たちも特盛がデフォなのですくすく育つ模様。
長男 高村 要 大学三年生で現在就活中。長門のために毎日牛乳を買ってくれる一面あり。
次男 高村 長門 高校二年生で本作主人公。女子からは「あいつの魅力は私だけ理解している」的な隠れファンの女子が一定数いるとかいないとか
長女 高村 琴音 高校一年生で現在女子バスケットボール部で活躍中
三男 高村 慎介 小学一年生で朱莉との兄弟関係は一応兄
次女 高村 朱莉 小学一年生で慎介とは双子




