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7話 一人目の育ての親

 メフィストが帰った後は特に何もなくいつも通りに食事を続けていた。

 私は頭のなかで色々と考えてはいたけれど。

 だけど食事を終えたルーは立ち上がると不意に、こちらに視線を向ける。

 そして

「オレは納得したわけじゃないからな、別に人間なんて誰だって等しくただの世話係ってだけ、お前だろうと別の誰かだろうとオレには何の関係もない、だから口も出さなかった、それだけだ」

 啖呵を切るだけ切るとふんっと鼻を鳴らして自身の食器をそのままにその場を後にしてしまう。

「あ、待ってよルー!」

 そして勿論サッくんもまだ途中だった食事をそのままにルーの後を追っていく。

 日頃から食器は自分で運ぶようにと教えているがルーとベルの二人は未だ聞いてくれたことはない。

「自分もルーと同意見ー、マーもゼブルもアスも人間なんかに何期待してるのか知らないけど、どうせそいつも優しいのなんて今だけ、すぐに本性表すよ、あいつみたいに、はー、眠……」

 そしてそれに続くようにベルも早々に席を立って自室に引っ込んでしまった。

「あいつ、ねぇ……」

 たまに会話に出てくるあいつとはおそらく私の前の育ての親のことだろう。

 メフィストいわくとある事故で壊れたというそれ。

「あ、手伝います、ルーはともかく、ベルは人間が大嫌いですから距離を詰めるのもなかなか難しいでしょう」

 私が空になった食器を集めていればいつものようにアスが手を貸してくれる。

 確かに、七つ子の育ての親になってからまぁ、少し経ったけどベルとは未だにちゃんとした会話すら出来たことはない。

「サッくんは時間の問題? 的な?」

 それを見ていたマーも率先して食器を集めるのを手伝ってくれる。

 サッくんは、ずっとルーの後ろをついて歩いているけど別に話をしてくれないわけではない。

 まぁ、その会話の殆どに嘘が混じっているのは決して良いことではないだろうけど。

「オレ様も別に絆されたとかそういうわけじゃねーからな、まぁ、飯は旨いからお前でも良いだけだ」

 シンクで食器を洗い始めるとゼブルも自分の分の食器はちゃんと持ってきてシンクに入れながらそんなことを言ってのける。

 胃袋を掴んだもの勝ちとはまさにこういうことを言うのだろうか。

「ねぇねぇなんで僕のことだけ誰も触れないの? うわぁそういうの贔屓って言うんだよ、最低だね、羨ましい、僕は君みたいな全てを持ってるやつは嫌いなんだ、本当に近付かないで欲しい」

 会話に入ってこれなかったのが余程悔しかったのか珍しく自分の食器を持ってキッチンに現れたレヴィは食器をわざわざ私に手渡すとネチネチした台詞を残して去っていった。

「……レヴィは、いつも通りだな」

 そんなレヴィを見てゼブルはあきれたように笑う。

「ねぇアス、みんな方々に言うけど私の前の人ってそんなに嫌な人だったの?」

 私は食器を洗いながらふと気になったことをアスに聞いてみる。

 おそらくマーやゼブルに聞いても感覚的な返事しか返ってこないだろうからこういうときはアスに聞くのが一番いい。

「……そうですね、最初こそ当たり障りのない普通の人間という感じでしたが、途中から変わりましたね、私達の力を自分のために使おうとし始めたんです、悪魔は元来人の心をそういった方面に引きずってしまうきらいがありますから仕方ないといえば仕方ないのですが……一番懐いていたベルは、裏切られたと強く感じたようですよ」

「……そっか」

 大切な人に裏切られるというのは大人だってつらい。

 それなのにこの年でそれを体験してしまったのであれば人を嫌いになったりトラウマになってもおかしくはないだろう。

 ただそういった方向に引っ張られる云々は今の今まで自分では感じたことのない感覚だったからよく分からないが。

「そして、あの日……今日のように突然現れたメフィストは多数決を取りました、このまま続けるのか否か、そして誰からも票を得られなかった彼女はそのままメフィストに砕かれ土くれに戻った次第です、そのあとは特に特出することもなく、あなたが来てそれだけです」

「……あんの嘘つき悪魔」

 アスの説明を聞いて私は石鹸の泡がつくのも厭わず額に手を置く。

 何が不運な事故だ。

 自身で殺しておいてよくもまぁそんなことが言えたものだと逆に嘆息する。

 つまりはさっき私が票を集められなければその一人目の育ての親と同じ末路を辿ったということで、そういうのは最初に教えておいて欲しい。

「何か?」

「あ、ううん、アスのことじゃないから大丈夫」

 不思議そうにこちらを見たアスにはとりあえず笑って、誤魔化すしかなかった。

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