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6話 保護者としての評価

「もー、こんなに壊しちゃダメっすよ若、姫ー」

 屋台の屋根から下りてきたメフィストが笑いながら二人に小言を言う。

「……マーが悪い」

「ゼブルが悪いもん」

 見かねた私はあからさまにむすくれた様子の二人の肩に手を置いてぐるりと向き合わせる。

「どっちも悪い、先に手を出して相手の嫌がること言ったマモンも悪いしそれで癇癪起こして周り壊したベルゼブルも悪い、ちゃんとごめんなさい出来る?」

 それから幼い子供に言い聞かせるように出来る限り優しい声色でそう諭す。

 まぁ、悪魔だったり力が強かったりアスみたいに大人びている子もいるだけで子供であることに代わりはないのだが。

「……ベルゼブル、ハエの王って言ってゴメンネ」

「オレ様も、カッコよくない行動した、悪い」

 そしてさすが子供とでも言おうか、ちゃんとこうして場を整えてさえあげればちゃんと仲直りだって出来るのだ。

 やっぱり周りの言うように悪魔だからとそれだけで怖がる必要はない。 

「なーんか、すっかり保護者って感じっすねー」

「……メフィスト、そんなこと言ってる場合じゃ……ってこれは……」

 そんなやり取りをしていれば横から茶々をメフィストが入れてくる。

 それで今自分達が置かれている状況を思い出して周りを見渡すけど、何故か周りの人達はピタリと動きを止めて固まっていた。

 メフィストが現れたせいで急に静かになったそれにすぐには気付かなかった。

「絶賛時止め中っすねー、ここら一体の時間を止めて壊れた建物には修復魔法を、人間達には記憶の改竄を少しばかり、正体バレたなら別に他の場所に移っても良いっすけどここら辺は住み心地いいですから」

 メフィストは早々にこの現状の説明をして、周りを指差して見せる。

 メフィストの指先を追えばいましがた二人の喧嘩で壊れていた物もカタカタと巻き戻しでもするように直っていっている。

「……悪魔って何でもありなのね」

 子供でも癇癪ひとつで家を壊し、メフィストに至っては最早理解に苦しむことを顔色ひとつ変えずにやってのける。

 悪魔の力というのはこれほどまで強力なものなのか。

 確かに使い方をひとつ間違えればどんな悪事も出来るけど、それは何だってそう。

 野菜を切る包丁だって振りかざせばそれは凶器だ。

「まー、ワタシの力がそれなりに強いだけっすよー、とりあえず、諸々のご報告も受けたいんで帰りましょ、これで放っておいても次来たときにはここら辺も戻ってるんで」

 メフィストはへらへらと笑って言いながら早々に帰路につこうとする。

「あ、オレ様のアロスティチーニが……」

 そして癇癪の収まったゼブルはアロスティチーニを買うタイミングを失ったことを思い出したようで途端に絶望し始める。

 だから私は

「ゼブルー、これ持てる? 持ってくれたら多めに分けてあげようかなー」

 二人が揉め始めるくらいの時に既に買っておいたそれをゼブルの前にちらつかせる。

「は? 何でオレ様が荷物持ちなんてカッコ悪いことしないといけないんだよ、庇ったくらいで良い気に……って、これはアロスティチーニ!」

「そっか持てないなら取り分は同等ねー、それにさっと荷物持てちゃう男子ってカッコいいと思うけど、残念残念」

 最初こそ機嫌悪そうに吐き捨てていたゼブルも中身に気づいた瞬間キラキラと瞳を輝かせる。

 だけど私はあえてそのまま自分で持とうとする。

 カッコいい、を強調して。

 そうすれば

「ふっ、オレ様に任しとけ! 荷物の二つや三つ軽々だぜ!」

 ゼブルは奪い取るように私から買い物袋を引ったくるとメフィストの後を追いかけ始める。

「ゼブル単純ー、ま、今回だけは譲ってあげるー」

 そんなゼブルを見てマーは珍しく自分が一番じゃなきゃ嫌と駄々をこねることもなくそう言って笑うとゼブルの後ろについて歩きだした。


「さてとー、ご相伴に預かっているなか申し訳ないんすけど、ここでこの新しい保護者の評価、聞いてもいいっすか?」

 いつもは八人、今日は九人で食卓を囲んでいた。

 そんななかいつもより割合の多かった肉が粗方片付いた頃、メフィストが話題をふる。

「ということで、ちなみにこのまま彼女が保護者で依存ない人はどれくらいいますかね」

「はーい! ウチはマムがいいー!」

「私も特に異存はありません」

 メフィストが手をあげるように促せば真っ先に上げたのはマー、それから少ししてアスが手を上げる。

 それなりに頑張っているつもりではあるが二つしか票が入らないとはなかなか子育てというのも大変なものだ。

「マモン様と、アスモデウス様は賛成、と、二人っすかー、うーん、これは考えようっすねー」

「……れも、オレ様も別にこいつで良いと思ってる、ま、こいつでも良いってだけだけど」

 メフィストが困ったように考え出そうとするなか、次に手をあげたのはゼブルだった。

 勿論憎まれ口は忘れずにだったけど。

「ベルゼブル様も賛成、と、これで三人……後の四人は反対かまだどちらとも分からない感じっすね、じゃあこれなら継続で問題なさそうっすね、それではワタシは上に報告もあるのでこれで、これからもちゃんと悪の教示をお願いしますねー」

 このまま継続するという判断をしたメフィストは早々にそれだけ言って家を出ていってしまう。

 そして、メフィストの言葉で思い出した。

「……やべ」

 普通に子育てしてたけど、七大魔王としてふさわしい悪魔に育てろと言われていたことを。

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