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4話 ウチが一番

 最近

「アス、この後畑に水やりに行くけど一緒に来る? この間作物の本読んでたよね、そろそろ実が採れるかも」

「是非見たいです!」

 アスと話をしていると何故か

「あー! またアサギチャンがアスと話してる! ウチが一番なのにっ! ねーアサギチャン! 七つ子の中でウチが一番だよねっ?」

「特に順序はないけど、マーも見たいなら来る?」

「……ウチが一番じゃないなら行かない」

「あらそう、残念」

 マーが過激に反応する。

 

「アスー、ごめんなんだけどそれ取ってくれる?」

「はいどうぞ」

「ありがとー」

 そしてこの日も七つ子が暴れて壊したドアを直していたときだった。

「またアサギチャンがアスのこと贔屓してる! ズルい!!」

 それを見ていたマーが私のことを指差して癇癪を起こし始める。

「じゃあマーも手伝ってくれる?」

 だけどそう声をかければ

「ウチはそんな小間使いみたいなことしないもんー」

 マーはいつものようにそう断るだけ。

「じゃあ気が向いたら声かけてねー」

 もはや恒例みたいになったそのやり取りを早々に終わらせて私はドアの修理を再開するけど

「……」

 珍しくより噛みついてくることもなく家を出ていってしまったマーが気になって、私は修理を中断するとマーの後を追った。


「ねー、カラス、ひどいよね、ウチが一番なのにねー」

「マー、誰と話してるの?」

 外に出ると家から少しだけ離れたところで何かと会話するマーを見つけて声をかける。

「ゲッ……アサギチャン」

「カラス?」

 あからさまに見られたくなかったって反応のマーの手元を覗き込めばそこには数羽のカラスと沢山の光る石とかコインとかそういうものが転がっていた。

「……ウチの固有魔法は鴉鳴(レイヴンリング)、カラスと意志疎通が出来るの」

「良い固有魔法ね」

 私が固有魔法を褒めたのに特に他意はなかった。

 実際にすごいことだと思ったし。

 でも

「……良くない、一番じゃないといけないのに、兄弟で一番ダメな魔法だもん」

 マーはいつもの自信はどこへやら、むすっとしてそれだけ言うとそっぽを向いてしまう。

 きっと、いつもの一番だっていう言動はこういう本当は自信がないところから来るものもあるのだろう。

「でもでもでも! キラキラピカピカ探すのには一番だし! 今日もこんなにキラキラピカピカ集まったしー」

 だけどマーはすぐに自信を持ち直すとそう言って手元の石を私に見せてくる。

「マーは光ってるものが好きなの?」

「キラキラピカピカが一番! キレイだしー、つやつやだしー、でもどうせバカにするんでしょ、みんなみたいにー」

 私が聞けば素直に答えてくれるけど、すぐに何かを思い出したようにむすくれてしまう。

 マーの周りには男兄弟が多いからきっとこの趣味を分かってくれる子も少ないのだろう。

 でも私は

「まさか、バカになんてしないに決まってる」

 面と向かってそれを否定する。

「……なんで?」

「私も生きてる頃はキラキラしたもの好きだったもの、宝石とか、よくそういうものを盗んでた」

 不思議そうに聞き返してくるマーに私は昔の話をする。

 生前盗んだお宝の数なんて数えきれないくらいだ。

「……」

「聞きたい?」

「ん!」

 興味津々という目でこちらを見てくるマーにそう聞けば嬉しそうにこくりと頷くから、私は思い出しながら話し出した。

「あれは、そうね、悪魔の涙って呼ばれてる真っ黒なダイヤモンドを盗む為に美術館に忍び込んだ時、その国でも一番の美術館だったから勿論警備も固くて、張り巡らされたレーザー型の感知センサーに触れたら最後の感厚式のトラップとか、それこそ命がけの盗みだったわね」

 盗みの仕事で命を賭けることはよくあったけど、あそこまで追い詰められたのは後にも先にもあれが最初で最後だろう。 

「……それで、盗めたの?」

 ごくりと唾を飲み込みながら話を急かしてくるマーにふっと笑むと続きを話す。

「勿論、盗んだそれはまぁ、今まで見たことないくらいに綺麗な、吸い込まれそうな漆黒をしてた、こっちの世界まで持ってこれたらマーにあげたのに」

 まぁ、私は盗めたそれ自体よりもそれを盗まれたことで顔をぐしゃぐしゃにしかめていた悪徳な大金持ちの顔を見れた時が一番高揚したのだけど。

「えー! ウチも悪魔の涙欲しかったー! ズルい!」

「実は、その悪魔の涙に負けず劣らずの綺麗なキラキラ石が手に入るところが家の近くにもあるんだけど、マーに教えてあげる、行ってみる?」

 早々に駄々をこね始めたマーに私はこっそりと耳打ちする。

 このほうが秘密感があってきっとマーの気もひけるだろう。

「マジ!? うん!!」

 そして、やはりというようにマーは頷くとすくりと立ち上がった。


 私がマーを連れてきたのは家から少し下降したところにある小川だった。

「えー、ただの川じゃん!」

「まぁまぁ、ほら、よく見て」

 不服そうにむくれるマーに私は川のなかを指差して見せる。

「……えっ! なにこれキラキラ! 緑色ー! ベルの瞳みたい!」

 そうすれば太陽の光を反射するそれをマーはすぐに見つけて小川の中から拾い上げる。

「これは翡翠、特定の条件を満たした川で取れる宝石、探せばもっとキラキラしたのも見つかるかもね」

 以前この辺りを探索した時に小川の中に沢山の翡翠を見つけた。

 おそらく翡翠を生成するのに適している土地なのだろう。

「アサギチャンすごい! 物知りなんだねー!」

「だけど、川に一人で来るのは危ないから来るときは私に声かけてからね」

 濡れることも厭わずざぶざぶと川に入っていくマーに私は一応忠告しておく。

 いくら悪魔とはいえ六つの子供を一人で川遊びなんてさせられない。

「……マム! ねぇねぇ! ウチをマムの中で七つ子の一番にして! ねぇねぇ!」

 マム、マーは急にそんなことを言いながら私の足元をちょこちょこと動き回る。

「えー、それは出来ないかなー」

「なんでマム!」

「みんなに同じだけの気持ちを持って育てるって、決めてるから、みんな一番、ごめんね」

 七つ子の一番にする、私がそんな申し出を笑顔で断ればまたマーから文句が上がる。

 だから私は説明しながらマーと一緒に翡翠を探すためにかがみこむ。

「ちぇー、マムのけちー、いいもんいつか一番って言わせるからっ」

 しばらくはプンプンしていたマーも私が折れないと分かると早々に翡翠探しに戻って瞳をキラキラさせ始めた。

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