16話 家に帰ろう
「あなた達……どうやってここまで……」
扉から我先にとなだれ込んできたみんなの顔を見ながら私はそう問いかける。
この場所は教えないようにメフィストには言ってあるしかなり辺境の地にあるから場所が分かってもそう簡単にはたどり着けないはずだ。
それだけ、私の強い意志が反映している。
だけど
「まずはオレの光帝で地獄の暗闇を照らした」
「それからウチの鴉鳴で地獄も世界もどっちも片っ端から探した」
「道中の悪魔や魔物は私の魅瞳で対応しました」
「狭い道はオレ様の喰王で風穴あけてやったぜ!」
この子達はそれぞれの固有魔法を駆使してここまで来た道すがらを嬉しそうに説明してくれる。
もう十六になったのにまるで満点のテストを見せてくる子供みたいで、こんな時でさえ笑ってしまいそうになって困ってしまう。
「そうして、ここまで来たんだ」
そして最後にサッくんがそう言って締める。
「……なんで、そこまでして」
だけど、それはとてつもない徒労で、私のために何故そこまでしてくれるのかは以前として分からないままだ。
だけど
「なんで? おかしなことを聞くんだな母ちゃんは、本当に分からない? 散々この十年間頼んでもないのに構っておいて、最後は手紙だけ残して独りでカッコつけて死ぬなんて傲慢は許さない」
前に進み出たルーは当たり前のようにそう言ってのける。
「……別に、カッコつけたわけじゃない、私はただ、未練を断ち切りたかっただけ、あなた達というこの世に残す最大の未練を」
その言葉だけで泣きそうになるけど、私はぐっとこらえて反論する。
ここで泣き出してしまえばもうきっと止まれないからだ。
私の一方的な愛ではないことを知ってしまえばそれはなおのこと。
「……お母さん、大丈夫だよ、ボク達だってこの数日何も考えなかったわけじゃない、だから、任して」
「サッくん……」
だけどそんな私に、いつだって自分に自信のなかったサッくんが率先してそう声をかけてくれて
「まずは自分の番ー、眠精で土の身体を眠らせてー」
ベルは言いながらそっと私の身体に触れる。
ひび割れた身体がこれ以上壊れないように。
「次は僕だね、水繋者で身体と魂を繋ぎ止める」
そしてレヴィは捻れたたくさんの鎖を私のなかめがけて放出し
「そしたら最後はボクだ、黒夜で増強させた悪魔の力を注ぎ込んで身体に浸透させることでより強い力を身体に持たせる……これで、うまくいけば身体の崩壊も止まるはず、だけど」
この十年間で完全に制御できるまでに育ったサッくんがその漆黒のオーラを私の空っぽになった中に注ぎ込んでいく。
「……ひび割れが、消えていく」
サッくんの言葉で身体に視線を落とした私はつい呆けたようにそう呟く。
あれ程までにざらざらとしていた肌が、ひび割れていた身体が、まるで本物の人間のような質感を取り戻していく様は見ていて爽快だった。
「よっしゃ!!」
真っ先にガッツポーズをしたのはこういう時感情を隠せないタイプのゼブルで、それに続いてみんながみんな手を取り合って自分のことのように喜んでくれている様をありありと目にして
「……こんな、夢みたいなこと、あっていいの、本当に……」
私はまた、涙を一粒溢してしまう。
でもこれは悲しみの涙ではない。
「さてと、これで母ちゃんの必要ない懸念も消えたわけだけど、あとはこれだけだ……」
『家に帰ろう』
「っ……うん、帰りたい、あの家に、帰ろう」
この涙は、これから先もまた、この子達の生きていく未来に私が一緒にいれることにたいする、嬉し涙だ。




