15話 終の棲家
それからの私の行動は早かった。
あの子達には気づかれないように秘密裏にメフィストと連絡を取り、誰も訪れることの出来ないような地獄の果てに終の棲家を用意してもらってあの子達にはそれぞれ置き手紙を残して挨拶をすることすらせずに家を出た。
声を聞けば、顔を見ればきっとこの決心は揺らいでしまうから。
まだ生きたいと願ってしまうから。
本当に身勝手な母親だけど許して欲しい。
母が崩れ行く瞬間など、見せたくはない。
「……もうそろそろ、か」
時計を見ればもう少しで二十四時を指そうとしていた。
これで日付が変わればあの子達の誕生日だ。
そして、私の死ぬ日だ。
既に身体のひび割れは全身から顔にまで及んでいる。
早めにここに移り住んで正解だった。
あの子達はみんな優しいからきっとこんな姿を見れば心配させてしまう。
「……独りは、こんなに寂しいものだったっけ」
時計の針が進むなか、私はルッキングチェアで揺れるだけ。
この十年周りにはずっとあの子達がいたから忘れていた感覚だ。
あの人が死んでからはずっと独りだったのに。
今になってこうして分からせられるとは思わなかった。
カチッ
そんなことを考えていればふと、小さな音がして短針が十二を示した。
これで、この世界ともお別れだ。
「……さよなら、私の可愛い子達」
少しずつ崩れていく身体を見ながら誰に言うでもなくそう呟いたその時
「マム!」
「母ちゃん!」
「ママ!」
「お袋!」
「お母さん!」
「お母様!」
「母ちゃん!」
扉が開いて、一緒に育ってきたはずなのにそれぞれの個性を示すようにバラバラになっていった私のそれぞれの呼び名が一斉に響いた。
「……なんで、ここに」
それはあまりにも出来すぎていて、夢を見てるのか、それとももう死んでいて勝手にそんな想像をしているのかのどちらかだと思ったのに、みんなのこちらを見る瞳が、これが現実であると言い示しているようなものだった。