14話 約束の期日
「ねぇマムー、なんで今年の誕生会は少し早いの?」
「母さんも何かと忙しいのでしょう、仕方ないことです、というよりゼブル、私のおかずを取らないでくださいね」
「忙しいって、お袋別になんもしてねーだろ、家にいるか菜園にいるかでよ、いいだろ一つくらいー、ケチになったなお前」
「ママは、きっと秘密で何か準備してるんだってー、自分には分かる」
「それ分かっても言ったらダメなやつじゃないの? お母さん困っちゃうよ」
「僕には分からなかった、お母様の意図が読めなかった、鬱だ……」
「母ちゃんそこまで考えてないと思うけど……」
私がこの子達と出会ってから早いものでもうすぐ十回目の誕生日を迎える。
十年という歳月は、永いようであっという間の日々だった。
今年のバースデーを少し早めにしようと私が夕食の場で提案すれば途端に騒がしくなる食卓は昔と変わっていなかった。
そして今日、私は最後の誕生日会をいつもの椅子に座ってゆっくりと眺めていた。
頬杖をつく腕には既に少しずつだがヒビが入ってきている。
そう、私とメフィストの契約はこの子達が十六になるまで育てるというもの。
その代わりに対価として私はひとつの願いを叶えてもらえる。
でももしそれがなかったとしても、私はこの提案を受けたことを後悔なんてしなかっただろう。
それ程までに充実した日々だった。
役目を終えた身体は土に還るだけ。
だけど私はそんな自分をこの子達に見せたくないと思ってしまった。
大切な誕生日の席で崩れ去るところなんて見せたくないと、思ってしまった。
だから、今年は少し早めの誕生会にしたのだ。
元々死んだ身体で、未練はない
はずだったのに。
「ま、マム!? なんで泣いてるのー」
「すみません母さん! 勝手な憶測をして……」
「お、お袋だって別に暇な訳じゃねーよなー!」
「ごめん、自分がばらしちゃったから……」
「泣かないで、お母さん……ボクまで泣きそうになる……」
「お母様が泣いてるのに他の家のやつらは笑ってるんだ、妬ましい……」
「落ち着きなよ皆、で、母ちゃんなんで泣いてるんだよ、祝いの日なのに」
次々と周りから入れられるフォローに余計目頭は熱くなるけど、これ以上この子達に迷惑はかけたくない。
「なんでもないよ、ただ、みんなの大人になった姿が見られたのが、嬉しかっただけ」
私は代表して聞いてきたルーにそう言って笑いかける。
ああ本当に、こうして皆で話せば話すほどにまだ、この場所にいたいと思ってしまう。
この子達のこれからを一緒に見て笑いあいたいと願ってしまう。
だからこそ、早くここから離れなければいけない。