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13話 食卓はみんなで囲もう

「いやぁ、イブリーズの件は大変申し訳ありませんでした」

「そう思ってるなら手伝ったらどう?」

 私は空謝りしてくるメフィストに家のほうを指差してみせる。

「いやいや、皆さんの思い出の土地にワタシが関わったらイヤでしょうー、この家を再建したヒトの中にワタシも思い浮かべないといけなくなるんすよ?」

「……ああ、それは確かに嫌だわ、手伝わないでいいからさっさと帰ってー」

 あの後目が覚めると身体の破損は直っており、聞いた話では私が倒れた後すぐにタイミングを見計らったように現れたメフィストが私の身体を修復したようだった。

 そして悪魔の七つ子の力を借りながら始めた家の修復は思ったよりも早く、完成も間近という状態まで既に進んでいた。

 これで掘っ立て小屋ともおさらばなのに家を見るたびに毎回メフィストの顔を思い出すのも癪である。

「ワタシへの当たりどんどん強くなる一方すねー、寂しいっすわー、ワタシが直さなければ壊れてたかもしれないんすよその身体」

「そこには、感謝してるけど、一応……でもあんな危険人物止められなかったそっちにも責任はあるわよね」

 元々軽薄な人間は嫌いだが、ここまでメフィストに拒絶反応を示す理由はなんとなく察しはついている。

「ま、そっすね、じゃあ今回はトントンってことでどうすか?」

「……まぁわ今回はそれでいいわ」

 そう、考えや行動がところどころ自分に似てるのだ。

 だから多分同族嫌悪とかそういうやつ。

「いやー、実はワタシあなたでは悪魔は育てられないんじゃないかって勝手ながら思ってたんすよねー」

「……理由は?」

 急に投げ込まれた爆弾に私はスルーすることなく聞き返す。

「黒い悪魔、なんて呼ばれてたわりには完全な悪でもないですし、そもそもアナタには彼らに悪の道を教える気が一切ないようでしたから」

「……」

「バレてないと思ってました?」

「……」

 本音を言えばバレてないと思ってた。

 確かに目に見えて何か悪事を教えたことはないしこれからも教える気はさらさらなかったけど。

 というのも多数決を取ったあの日メフィストに釘を刺されてから考えはしたものの、悪魔であろうとなんであろうと子供にそんなことを教えるのは間違えていると察したからだ。

 まぁ世紀の大犯罪者が言うことではないかもしれないけど。

 だからそのままなぁなぁにしてしまおうと思っていたが悪魔の観察眼は舐めてはいけないものらしい。

「ま、それは今さらどーでもいいですわ、とりあえず、そんな感じならとっとと頭をすげ替えちまえばいいかなーって考えてたんすけど、今回のことで彼らの成長度合いも計れまして、ずいぶん強い悪魔に育ってましたからこのまま行ってもらおうってことになったわけっす、七つ子様もみんなあなたに心を許してるようですし」

「……まさか、それを見るためにイブリーズを」

 そこまで言われれば嫌でも思い付くのはそういう策略で、先代の育ての親も殺しているメフィストなら全然あり得るから怖い。

「そこは、触れないほうがどちらの為とも言えますよ」

「……やっぱりあんたは胡散臭くて信用できないわ」

 否定するでも肯定するでもなくそうやって濁すメフィストに私は大きくため息を吐く。

 こいつとの付き合いも一年が経とうとしているのに今だ掴めないところが多すぎて困る。

「悪魔を信用なんてしたらダメっすよー」

「……それもそうね」

 悪魔に当然のことを指摘されて少しだけイラッとしたけど我慢する。

 やっぱり疲れてるのかもしれない、それなりに。

「ほら、呼ばれてますよ」

 メフィストに言われて一瞬下げていた視線を家のほうへ向ければ子供達がこちらに向かって手招きしているのが見て取れる。

「……それじゃあ私も休憩終了ということで」

 さすがにこれ以上再建を押し付けるわけにもいかない。

 私は早々に立ち上がるとそちらへ向かって歩き出す。

「また何か必要なものでもあればこのメフィストフェレスにお申し付けくださいね」

「はいはい」

 後ろから聞こえた軽薄そうな声にはただ適当に返事を返しておいた。


「さてと、少しだけ遅くなっちゃったけど、ルシファー、マモン、アスモデウス、サタン、ベルフェゴール、ベルゼブル、レヴィアタン、誕生日おめでとう」

 皆で再建した新しい家のなか、みんなのリクエストにそって作られた料理で彩られた机を囲んで私はみんなの名前を呼ぶ。

「肉だ肉!!」

「ありがとうございます」

「マムも一年アリガトー!」

「今日は最後まで起きてたい、かも」

「きっと町のやつら僕たちのこと羨ましがってるね……」

「みんなでお祝い、楽しいね!」

「……こういうのも、たまには悪くないかもね」

「……初めて会ったときとはみんな、変わったね」

 そうすればそれぞれの返事が返ってきて、少しだけ暖かい気持ちになって誰に言うでもなくごちる。

 最初のほうなんて無視か罵詈雑言、最悪攻撃が飛んできたのに今となってはそれのほうが少しだけ懐かしいくらい。

「ねぇ、唐突なんだけど、みんなは将来の夢とかある?」

 私はちょうどいいと思って少し前から聞いてみたかったことを口にする。

「え、だってウチ達みんなマオーになるんだよー?」

 マーの返答は至極当然といえばそれまでで

「……そうなんだけど、やってみたいこととか、なりたいものとか、そういうものがあるなら、そういうものを優先させてあげたくなっちゃうの、親だから」

 例え私が育ての親でしかないとしても、自分の道は自分で見つけて欲しいと願ってしまうのは、エゴだろうか。

 少なからず私は自分の選んだ道に後悔はしていない。

「あ、じゃあオレ様あれやりたい!」

「ちょっ、最初は私ですよ! 年功序列って言葉知ってますか?」

「それなら最初はオレだよね」

「……年下に譲るものだよねこういうのって」

「ウチはねー、ずっとマムと一緒がいいなー!」

「あ、マーがフライングした」

「うわー、最低、そういうところだよ、空気読めないって羨ましいね……」

 だけど子供達は怪訝を示すこともなく次々にいろいろな職業や仕事じゃないことまであげだして、一気に食卓が騒がしくなる。

「全部ちゃんと聞くから、順番にね」

 私はそんなみんなを見て話を聞きながら、ただただ笑うのだった。

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