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12話 憤怒の暴走

 その日私は買い物に行く前に七つ子全員をリビングに集めていた。

 それはとあるリクエストを聞くため。

 それはそう

「今日の夜ご飯なんだけど、それぞれから一品ずつリクエスト受け付けまーす、何でもどうぞ」

 今日の夜ご飯のリクエストだ。

「肉! 肉がいい! 血の滴るような赤身!」

「ゼブルはステーキ、と、了解」

 真っ先に手をあげたのはやっぱりゼブル。

 私は手に持っていたメモ帳忘れないようにそれを書き付ける。

「私は、魚以外ならなんでも、と言いたいところですがせっかくなので甘いものが食べたいです」

「アスはデザートねー」

 そのつぎのアスは特段名前はあげなかったが甘いものとなればデザートだろう。

 アスは意外と甘党なようでケーキを焼いた日なんかは目がキラキラしていて喜びを隠しきれていない。

「……」

「ルー、なにか言いたそうね」

 他の子達のリクエストも書き付けていれば訝しそうにこちらを見るルーと目がかち合う。

「お前がそんなに優しいのは怪しい、どういう魂胆だ?」

「……私はいつだって優しいわよー、誰かさんがやんちゃして家を破壊しなければね」

 途端にかけられた容疑に私は徹底抗戦に出る。

 家の設備を壊すのは大体がゼブルかマーかルーだ。

 それを毎回直すこちらの身にもなって欲しい。

「……」

「そっぽ向かない、まぁ、別に深い意味はないけど、ほら、私が育ての親になってからもうすぐ一年でしょ、あなた達七歳の誕生日じゃないの」

 思い当たることがありすぎたのかそっぽを向いてしまったルーにも一応説明しておく。

 私がこの子達を育てることになってから、心を開いてもらうのにもたくさんの時間を要して、気づけば一年の時が経とうとしていた。

 今ではほとんどの子達がそれなりに心を開いてくれて、後本音を語ってくれていないのは一人だけだ。

「人間は誕生した日を祝うのー?」

「逆に悪魔は祝わないの?」

 マーの不思議そうな言葉に私は逆に聞き返す。

 悪魔が誕生日を祝う習慣がないのであれば確かにここまで無頓着なのも頷ける。

「普通は、祝わないんじゃないの、生まれただけで祝われるなんて人間は羨ましいな……」

「今年からは祝うんだからそんなしっとしないのー」

 またマイナスモードに入っていこうとするレヴィを止めながら

「サッくんは、なにが食べたい」

 私はサッくんに話を振る。

「……別にボクは食べたいものとかないけど、強いて言うなら辛いもの、かな」

「……サッくん辛いもの食べないでしょ、こういう時は嘘つくのはよくないよ」

 ルーの後ろから出していた顔をひょこりと隠していつものように嘘をつくサッくんを軽く咎める。

「……別に、嘘なんてついてないよ! ボクはいつもほんとのことしか言わないもん」

「サッくん……」

 だけどサッくんはそれを認めず、また嘘を重ねる。

 そう、最初からそこまで敵意を持たずに接してくれたうちの一人、サッくんだけが未だに私と距離を置こうとしているのだ。

 サッくんに関してはルーに付き合っているだけで、ルーがこちらに心を開けば自ずとサッくんも心を開いてくれると思っていただけに未だに本音を一言も聞き出せていないのは親として不甲斐ないばかりだ。

 ピンポーン

 そんなおりにふと、家のチャイムが鳴った。

「あ、チャイム、誰だろ、メフィストかなー」

 この家を訪れてくるのは大概と言うかなんというか、メフィスト一択なのだけど

「マー! 勝手に開けたらダメだよって……本当にどちら様ですか?」

 警戒心もなく扉を開けようとするマーを声だけで窘めるもすでに遅く、そして開いた扉の先に立っていたのは見たこともない青年だった。

 赤い頭髪はどこかゼブルを彷彿ともさせるが目が、こう、決して良い目はしていなかった。

「イブリーズ……」

「ルシファー様、お久しぶりです、それから他の皆様も」

「一体何しに来たんだ?」

「様子を伺いに来たんです、長く地獄を空けていましたがこの度帰ってきたところ、皆様はすでに人間に預けられたと聞きまして……」

「……あなた、イブリーズさんは悪魔ですか?」

 だけどどうやら子供達は面識があるようで、ルーが率先して会話をするから私もイブリーズと呼ばれた彼に声をかける。

「……」

 だけど

「聞いてますか? 様子を見れて、それでどうされるんですか? お茶でも飲んで行きますか?」

「……」

「あの……」

 どれだけ話しかけても返事のひとつも返ってこず、やっと視線だけこちらに向けたかと思えば眉間にシワが寄せられて

「ああ、失礼しました、低俗な人間がこの私に声をかけているとは思わず気づきませんでした」

 そんなことを平然と言ってのける。

「……イブリーズは七大魔王を人間が育てるということに懐疑的な悪魔なんです」

「なるほど……」

 私の近くにいたアスがそっとそう教えてくれたお陰でこのイブリーズという悪魔の行動に納得がいく。

「アスモデウス様の言う通り、メフィストが作ったただの土人形ごときにこの大命がどれほど不釣り合いか、今ここにしめします、あなたを殺すことで」

 イブリーズは言うが早いか止める間もなく家の壁に触れ、触れられたとこから大きく火柱が上がる。

「あっ、家が……」

「てめぇなんてことしてくれんだ! せっかく明日は肉が食えたのに!」

「ゼブル! そんなこと言ってないで早く外に出なさい! 他の子達も早く!」

 イブリーズに噛みつくゼブルを止めながら私はみんなに外に出るように促す。

 放たれた炎の温度が高かったのか火の周りは早く、子供には煙も出来るだけ吸わせたくはない。

「……いや、このままだとそれどころじゃなくなる」

「ルー?」

 子供達がそれぞれ促されるままに避難するなかルーとサッくんだけが動こうとしない。

 それどころかルーは何か意味深なことを呟く。

 そしてそのままサッくんの肩に手を置いて

「サッくん落ち着け! 飲み込まれるな!」

 必死でサッくんに語りかけはじめる。

 だけど

「ボクたちの、家が……うわぁぁ!!」

「サッくん……!?」

 サッくんにはその声が聞こえていないようで叫びながら頭をかきむしりはじめる。

「全員家出たから早く君も家でないと……」

 すでに外に出ていたレヴィが私にそう声をかけてくれる。

「でもルーとサッくんが……」

 まだ出ていない二人がいる以上私もまだこの家から出ることは出来ない。

 だが

「これで全員だ! お前も早く出ろ!」

 レヴィの声掛けのすぐ後にルーがサッくんを抱えるように外に飛び出す。

 それを確認した私もそれに続く。

「ふむ、やはり木造はよく燃えますねー」

「……なんてこと、してくれたんだ」

 外に出ると他人事のように家を見るイブリーズとそれに憤慨するルシファーという構図が完成していて

「ルシファー様も少しはこの家に愛着が? それでしたら燃やさずに記念として取っておけばよかったですね、人間との嫌な記憶が残るくらいなら燃やしてしまえばと思ったのですが――ぐはっ……は?」

「……ボクの、家、家族の、家だったのに!!」

 ルーが食ってかかるようなら止めなければとちゃんと意識していたのに、ふと、陽炎のようにゆらりと動いたサッくんを止めることはできなかった。

 次の瞬間にはサッくんの腕はイブリーズの腹を貫通していた。

 いつも帽子で隠している角も今は丸見えで、いつもよりも大きくなっている。

 こういう状況を私は一度、見たことがある。

 そう、ゼブルが激昂したあのときだ。

「家のことじゃねえ、サッくんのことだよ! くそ、これ止められなかったら全員死ぬぞ……」

「え、待って、どういうこと……?」

 ルーの言葉に反応したのは私だけで、他の子達はルーがなんのことを言っているのかすでに理解しているようだった。

「……サッくんの固有魔法は黒夜(ブラックナイト)、元々七人のなかで一番強い悪魔の力をサッくんは持ってるけど、怒りが頂点まで達したときその蓄積された怒りが爆発して、より強力な悪魔の力を引き出せる、けど、サッくんはまだその力を操ることが出来ないから……っ」

 ルーは説明しながら思い切り後ろに下がる。

「攻撃は無差別なんだ!」

 ルーが先程までいた場所にはサッくんが立っていて、地面はえぐり取られていた。

 あそこにまだルーがいたらと思うと、心臓がひゅっと鳴る。

「そ、れなら……とりあえず全員下がって」

 私はルーを腕で庇いながら皆後退するように声をかける。

「バカ! 人間に止められるわけないだろ! ここはオレ様達が止めるから! 聞いてるのかおい!」

 そこで一番に抗議の声をあげたのはゼブルだけど、私はそれをそのまま流す。

 だって

「……サッくんは優しいから、あなた達を傷付けたって知ったら絶対に悲しむ、それに、私はあなたたちの、親だから、誰かが傷付く前にここは私が止めてあげないとね」

 サッくんにも勿論、他の子達にだって私は傷付いて欲しくないのだ。

 子供が傷付くのは、昔から得意じゃない。

 まぁ今思うのはきっと、それだけが理由じゃないんだろうけど。

「……マム」

「もー、強情な親を持つと苦労するのは子供の僕たちなんだよ……それで自分が死んだらどうするの」

「……死なない、サッくんにそんなこと背負わせられないしね、だからイブリーズも殺されないようにしないと」

 レヴィに困ったようにそう言われて、私はそう言いきる。

 この程度のことで死ぬようなら生前黒い悪魔なんて呼ばれることもなかっただろう。

「でもどうやって……」

「こういう時は親子喧嘩の定石、ガチンコで受け止める!!」

 そして言うが早いか私はサッくんを受け止めるために両手を広げて待つ。

「思ってたよりもバカだこの人……」

「さあこいサッくん! 今までの全部をぶつけてこい!!」

 頭で考えてから動くタイプのアスには理解できない行動だったようだけど、私は無視してサッくんを待つ。

「うわぁぁぁ!!!」

「っ……よし! 受け止めた!! サタン、落ち着いて、大丈夫だから」

 そしてそのままサッくんの全力の突進を受けとめる。

 イブリーズの二の舞にならないように腕の攻撃は避けたけどそれでも身体にビリビリする程の衝撃が走る。

 それでも決して、痛いという言葉は口にしない。

「ママ! 血が出てっ……」

 私の口端から伝う血を見たのだろうベルが小さく息を飲む音が聞こえる。

 全く、土人形ならわざわざちゃんと血まで流れるように作らなくてもいいだろうに、こういう細かいところにメフィストのそういう部分が見えかくれして嫌になる。

 だけど今はそれに構っている場合ではない。

「……すべての現況はあの人間だ、あの人間がサタン様に変なことを仕込んで……今のうちにあいつだけでも!!」

 後ろからイブリーズの不穏な言葉が聞こえるけど、サッくんを押さえるのに必死でそちらまで相手にする余裕が私にはない。

 熱風が首を掠めた

 その時

「……固有魔法、光帝(レイマン)

「な、なななっ……」

 ルーの落ち着いた声と共に初めて会ったときの洗礼に近く、見てなくてもそれよりもより強い光が後ろで爆ぜるのがわかった。

「オレの固有魔法は収束した光を操れる、お前を焼き殺すのもわけない、今消えれば許してやるよ、だからとっとと消えて、お上の決定に従うんだな、オレらを人間が育てるのは古から決まっている理だ」

「この年でこのレベルの魔法をっ……くっ……!」

 六歳、じきに七歳になる子供とは思えない口振りでルーに威嚇されたイブリーズは悔しそうに声を漏らしながらもその気配を消した。

「アサギ、サッくんは!」

 その瞬間ルーや他の子達が私とサッくんの元に駆け寄ってくる。

 家は、もうここからではどうにもならないだろう。

「……大丈夫、ちゃんと意識はある」

「ご、ごめんなさっ……ボクっ……」

「大丈夫だから、サタン、私は簡単には死なないし、あなたの兄弟も弱くない、だから、ずっと心のうちに隠してた本音、話してみたら? この際なんだし」

 私の腕のなかでパニックを起こしそうになっているサタンをゆっくりと抱き締めながらそう、促す。

「……この人いつもけっこう強引ですよね」

「同感」

 私に強引に促された組が徒党を組んでいるがこの際その中にサッくんも入れてしまえばいい。

「……ボクは、自分の持ってる力がいずれ、みんなや人間、アサギさんを殺しちゃうんじゃないかって、ずっと怖くて、だから、近づけなかったんだ……」

「……初めてサタンの本音が聞けた、かな」

 ああ、そうか。

 やっぱり悪魔とか、そういうことは関係ない。

 みんなが優しいようにこの子もまた、ただ優しかっただけなのだ。

「マム!!」

「ママ!!」

「おい! 大丈夫なの! ねぇ!!」

 それに安堵した私はみんなが呼ぶ声を聞きながらその意識を手放した。

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