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10話 嫉妬する

 その日も私は朝から家事に手を焼いていた。

「ベル、こんなところで寝たらだめよー、踏みそう」

 最近は机以外にも床に突っ伏して寝ていることも多いベルに慌てて声をかける。

 以前避けきれなくて踏んだ時は相当根に持たれた。

「でもママー、眠い……」

「ちゃんと部屋に戻るか最悪ソファー使って」

 あの一件以来気づいたらベルは私をママと呼ぶようになっていた。

 最初はマムと呼んできたのだがマーがマムって呼んで良いのは自分だけだと暴れた為そちらにシフトチェンジしたようだったけど。

「りょ」

 ベルは起き上がると自分の身体と同じくらいありそうな抱き枕をずるずる引きずってソファに移る。

「ねぇねぇ、なんか最近ベルまで懐柔されてるよ、また、なにか汚い策を使ったんだ、誰からも慕われるの羨ましいなぁ」

 そんな私のやり取りを見ていたゼブルと遊んでいるレヴィはまたぶつぶつと文句を言ってるけどこれも最早定番みたいなものになりつつあった。

「別に汚い手なんて使ってなかったぜ、真正面からぶつかって受け止めたんだ! カッコいいだろー」

 そしてゼブルはゼブルで何故か自分のことのように胸を張る。

「ゼブルもあいつの肩持つんだ、僕よりたくさん色々と持ってるから……妬ましいなぁ」

「ここまで来たらルーとサッくんも時間の問題でしょうね」

 近場にいたアスはレヴィにしれっと追い討ちをかける。

 あんまり挑発みたいなことしないで欲しいんだけどおそらく本人は気付いてないから達が悪い。

「……」

「あれ? レヴィ固まっちゃった! フリーズ? マムー、レヴィが大変」

 そのまま固まってしまったレヴィの前でマーがブンブンと手を振るけどレヴィは動く様子もなく

「レヴィ、どうしたの?」

 さすがに心配になった私はレヴィの前にかがみこんでそう問いかける。

水繋者(ウォーターコネクト)

「……え?」

 瞬間、レヴィの手のひらから現れた無数の水で出来たような鎖が私の身体に巻き付いて、鎖の終わりは床に吸い込まれカチリとなにかを施錠するような音と共に鎖は消えてなくなる。

 鎖は消えたし身体に変化があったわけでもなく何が起きたのか、今一理解できない。

「僕の固有魔法で君とこの家を水の鎖で繋いだんだ、だから君はもうここから出れないよ」

「……え?」

 レヴィから説明されても、やっぱりよく分からないというのが結末だった。


 アス曰く、レヴィの固有魔法水繋者(ウォーターコネクト)は目に見えるもの見えないもの関係なく水の鎖でつなぎ合わせることが出来るというもの。

 つまりは私はこの家に鎖で繋がれてしまったからこの家から出ることが出来ない。

 端から見たら不便極まりない状態のはずのこの状況。

 私は何故か

「お野菜の水やりおしまいー、次はなにする?」

「私は買い物に行きますからマーは庭の草むしりを」

「それぐらいオレ様が一掃してやるぜ!」

「ゼブルだけに任せると焼きのはらになりそうだから自分も行こっかなー、眠いけど……」

 とても楽をしていた。


「ねぇ、なんでこんなことになったと思う?」

「それは私が一番聞きたい」

 私のまとなりに座ってとても不服そうにそうぼやくレヴィに私はそう返すしかない。

「動けなくて自由に動ける僕に嫉妬させようと思ったのに、全然嫉妬しないしさぁ……」

「だって、動けなくてもみんな動いてくれるからね、全然不自由ではないし」

 むしろ私が動けないという状況により結束力が高まったようで普段ならこちらから言わなければいけないことも言わずともやってくれている状況なわけで困るどころか快適まである。

「……人望があるからこういうことになったんだ、羨ましいなぁ、妬ましい」

「……私は、動けることとかじゃないけどいつだってレヴィが羨ましいけどね」

 私は普段誰かに自分の内面をさらけ出すことなんてしないけど、今だけはそれを言う気になったのはみんながこうして動いてくれているのを間近で見ているお陰だろう。

「……え? なんで? なんで僕が羨ましいの? 嫌味?」

「私がそんな嫌味言えるように見える?」

 身を乗り出して私に顔を寄せるレヴィに苦笑いしながらそう問い返す。

「……見えない、君にはそういえ頭が足りないもん」

「よく分かってるじゃん」

 私の質問は的を獲ていたようでレヴィはすぐに身を引く。

 少しバカにされている気がしないでもないがこの際それは置いておこう。

「と、ここまでは冗談、実際のところはただ、そう、あんなに優しい兄弟が六人もいることが羨ましいってこと」

 私は言いながら今この場にいる四人に視線を向ける。

「あいつらがいることが?」

「私は一人っ子だったし、仲良く遊ぶ子供もいなかった、レヴィはよくゼブルと遊んでるよね、アスはよくお菓子分けてるし、他の子達もそう、みんな仲良く笑ってて、羨ましい、きっとレヴィが同じような状況に陥ったら今より率先して助けてくれるよ」

 分からないといった様子のレヴィに私は一から説明する。

 人間当たり前に持っているもののありがたみに気付けないことは多い。

 それはきっと悪魔も同じことだ。

 レヴィはよく羨ましいという言葉を使うけど、私からしたら私の持っていないものをたくさん持っていて羨ましいくらいだ。

「……その羨ましいを誰かにぶつけようとは思わないの?」

「思わないかなー、だって、見てて嬉しいから」

 そしてそれをしようと思わないのはまた、大切な子供達が喜んでいるのを見るのは羨ましい以上に嬉しいことだから。

「……ごめんなさい、鎖は外したから」

「せっかく楽できたのにー、なんて、ありがとね」

 ほら、やっぱりレヴィは私の持っていないものを持ってる。

 こうやって素直に謝れるところとかね。

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