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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
剣豪領主

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18歳の剣士領主

 18歳になった年、俺は去年獲得した所領や従属させた所領の支配の深化につとめた。


 支配の深化という表現はあまりにも抽象的だけど、つまるところ格好のつく組織をちゃんと作る時間に当てたということだ。


 たとえば、いろんな領主の土地を支配するようになったので、租税の徴収方法もまともに考えないといけなくなった。これまではルールも領主ごとにバラバラだったものを、そのまま継続して採用するわけにはいかない。どこかで統一しないと事務だけでパンクする。


 といっても、これは基本的にラコの発案をそのまま踏襲してるだけなので別に俺の作業ではないが。


「レオンはいろんな剣士に稽古をつけてあげてください。それが今後の飛躍につながります」

 ラコにはこう言われている。それぐらいのことはいくらでもできるから、俺も素直に従っている。


 その成果が出たのか、兵士たちの尊敬を集めることには成功していると思う。軍事面のほうも規模が大きくなったのでテコ入れをしないといけなかったのだけど、とくに反発などは起きていない。


 まず100人ほどの兵を指揮する部隊長クラスの人間を決定した。

 ノイク郡だけで2000人以上の兵を動員しようと思えば可能になった。


 いくつかの村の中で細々とやっていたようなやり方では通用しない。さほど親しくもない人間でも実力がありそうと思えば抜擢し、部隊長やその下の副隊長に置く必要が生じている。


 そんな時に俺が手合わせをするというのが有利に働いているらしい。

 つまり、俺が相手に力の差を見せつければ、配置された場所に不満を感じることも減るというわけらしい。


 商都ハクラなんかでは最強の剣士領主などと呼ばれているそうだが……ちょっと話が大きくなりすぎていると思う。同じ州ですらドニがいるしな。あいつの場合、剣を使わないから剣士では俺が一番なのは事実かもしれないが。


 それと政治のほうだと、クルトゥワ伯爵家には何度も顔を出したし、クルトゥワ伯爵家の居城のあるウォーインに駐在する家臣も正式に置いた。俺たちの勢力拡大を変なことではないと思わせないとこれからの作戦に影響が出る。


 あと、同じコルマール州の東側の有力領主にも頻繁に手紙のやりとりをして、無害であることをアピールした。ドニの近辺の領主なんかがそうだ。

 実際、コルマール州の東側に進出する意図は俺たちにはない。


 このエリアにはドニのように1郡規模の領主が複数いるが、こいつらとぶつかると、州をあげての騒動になるリスクが高い。そんなことをするぐらいなら、小さな領主が多いところにクルトゥワ伯爵家の許可を得たうえで進出するほうが賢い。


 あくまでも俺たちの目指す先は南側のヴァーン州なのだ。


 あとは……言わないのもおかしいから言っておくと、ナディアとは上手くやっている。夏の少し前に娘が生まれた。なお、あえて名前はまだつけていない。


 まったく戦ってないようだけど、西隣のタンヌ郡にもじわじじわと影響力を強めている。ただ、相手があっさり服属してしまうので、楽ではあるがいざ大きな戦いという時にどこまで使えるか怪しくもある。直接支配をしてる場所と比べると、どうしても「協力してもらっている」という形になってしまう。


 でも、子が生まれたことを考えれば所領が増えたとかいったことはそんな大きなことではないな。

 一度、規模が大きくなると、ほかの領主のほうからその傘下に加わりたがるし。村1つの領主だった頃とは何もかもが違う。





 ここまで堅苦しいことを書いてきたけど、実際はそんな四角四面に生きてたりはしないわけで――


「だ~だ~」

「おお、かわいいな! だ~だ~言ってるぞ」

「隣にいるんだから、聞こえてますわよ。はいはい、お父様はバカですわね」


 ナディアにあやされて、娘は今日は機嫌がいい。逆に言うと、よく泣く。俺が近づくと泣き顔になる時が多いので、乳母から「ナディア様から出入り禁止にするようにと言われていまして……」と言われたことがある。

 自分が領主だぞとか大人げないことを言っても、こっちが愚かに見えるだけなので、その時は引き下がった。


 子育ての実務は上流階級のしきたりの通り、大半は乳母が行う。ナディアは現在サーファ村ともう一つの村の計2村の領主権を持っているから、子育てに一日の時間の大半を費やしてもらう余裕はない。


 親と子の距離感というのは血がつながっていれば良好というものではなく、領主階級の場合、後年親子同士で血で血を洗う抗争になることも多いのだが、現状では多分大丈夫だろう。そもそも男子じゃないし。


 あと、ナディアの横でもう一人にこにこしている奴がいた。俺の妻、第一婦人のフィリである。

「ふふ、やっぱりこのぐらいの子供はかわいげがあっていいですね。おばさんとしても楽しいです」

 おばさんって自称してるけど、お前はまだ15歳だろと思った。おばと姪の年齢差がほぼないことぐらいは珍しくないから何も間違ってないが。


「それならフィリ様も、その……いかがです?」

 言葉を選んでナディアが言った。子作りなさってはとか直接的に言うのは無礼なことと言われている。がさつな人間は気にしないだろうが。ナディアもフィリもそういうことは気にする側だ。

「私はまだいいです。まさしく生みの苦しみを見てしまいましたし」


 とくにフィリと俺との関係は現状でも清純なものを保っている。元の結婚の経緯のもせいあもって、ずっと過度な接触をしないままでいる。


 俺としてもナディアの妊娠中に、フィリと夫婦の営みを始めたとなると、完全にがっついてるように見えて外聞が悪いので、余計に控えていた。

 正直なところ、ナディアが陣痛や出産で苦しんでるのを見た時は戦場より怖かった。阿鼻叫喚あびきょうかんの苦しみって感じだったし、それを知らないふりするのは不可能だ。


「本当に殿方に生みの苦しみを移し替える魔法でもあればいいんですけれど」

「ですわね」

 二人してこっちを見てきたので、俺は目をそらした。


「魔法ならこういうのしか使えないから」

 俺はホーリーライトを使った。日が陰ってきて暗くなっていた部屋がまたからっと明るくなる。

 少し娘の顔が明るくなった気がする。


 こういうわけで、18歳の俺は所領と家の安定につとめた。

 でも、これは翌年の飛躍のための布石だ。


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