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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
剣豪領主

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2度目の結婚2

 自分こそが主君だという顔でエレオノーラさんはこう続けた。

「レオン君、二人目の妻を迎えなさい。これは命令です」


「二人目の妻……? フィリと結婚してるのではダメですか……?」

 とりあえず事情をエレオノーラさんに聞くことにした。


「結婚っていっても、二人の間には何も起きてないでしょう。家臣の事情については私も知っています」

 なんでそんなこと知ってるんだよと思うが、こういう噂こそ広がるのかもしれない。


「それ自体は何も悪くありません。若すぎる年齢での出産は母体の危険も多いので、愛し合ってるならばこそ、相手を思いやるべきです。ですが……」


 エレオノーラさんも少し言いづらいらしい。それはそうだ。別に俺が言わせてるわけではないぞ。


「あなたは17歳ですけど、相当な規模の領主に成り上がってしまいました。もはや継承する人間を真剣に考えないといけない立場なんです。かといって弟がいるわけでもないですし。となると、跡継ぎは誰かと作るべきではあるんです。あなた、今は聖職者ではないんですし」


 跡継ぎを作ることも領主の仕事、というのは好色な男の言葉みたいだが、家が断絶するとそこの領地を狙って攻めてくる人間も現れるし、後継ぎが不在の場合は必ずしも間違いではない。


「理屈はわかりますけど、どこの誰と結婚するんですか」

 肝心の相手の話を聞いていない。普通に考えればエレヴァントゥス家の親戚とでも引き合わせるのだろう。俺の力が短期間で強くなりすぎたので手綱を握ろうとする連中がエレヴァントゥス家にいてもおかしくない。


 エレオノーラさん自身は俺たちに野放図にやらせるつもりらしいが、それが海神神殿側の総意ではないだろう。


「あれ、まさか……」

 年齢差としてもありうる範囲ではあるよな。

「おや、察しがつきましたか……」


「エレオノーラさんと結婚しろということですか……?」

「ち、ち、違います! 主君に対して失礼ですよ!」

 顔を赤くしてエレオノーラさんが否定した。本当に失礼なことを言ってしまった。


「そ、そうでしたか……。いや、エレオノーラさんって4、5歳上だと思ってたのでもしやと……」

「た、たしかに私はもうすぐ21歳ですが……こほん、神官長をやめるまでは結婚はありえませんよ」


 あ、そういうものなのか。


 でも、だとすると、一体誰との婚約を俺は勧められようとしてるんだ?


「ナディアさんと結婚しなさい。一応、あなたの家臣という扱いだし、地位はフィリさんより下になるかもしれないけど、そこはしょうがないでしょう」

「え、え?」


「別にふざけてはいませんよ。ナディアさんもあなたのことを嫌ってはいないようだし、ちょうどいいと思ったわけです」

 嫌われていると思ったことはないが、好意を抱かれているとも考えたことはなかった。


「それに、このままだとラコさんがあなたがより強大な領主になることを見越して、縁談なども考えそうだし……きっとナディアさんも大領主の重臣という立場での縁談をさせられることになるでしょう」


「いかにもありそうな話ですね」

 身分が近しいところで結婚は行われるのが普通だからな。


「ラコさんの洞察力のようなものはすごいと思いますが、その……好きな人と結ばれる可能性があるならそこは素直になるべきと思うんです。何もかも政治のためにやらなくてもいいかなと。あなたがナディアさんと結婚して領民が苦しむこともないでしょう?」


 エレオノーラさんはどこか姉のような立場でそう俺に諭した。

「心からのお言葉、ありがとうございます。ただ、なにぶん……自分だけで決めていいことでもないので、少なくともナディアには説明いたします」

 ここでラコと相談すると言うとエレオノーラさんに何もわかってないと言われそうだし、ナディアに直接尋ねると伝えた。


「ええ、それでいいです。ただ、あなたの言葉だけでは完全には信頼できないというか、ラコさんが邪魔をするかもしれないので、直接ナディアさんにも結婚の打診をしました。今頃使いがいってると思います」


「いや、それはやりすぎですよ! それにフィリが怒ったら、それこそ政治問題に発展します!」

「これはフィリさんからのご提案なんです」


 そんなバカな……。

 と思ったが、確認すればすぐわかるウソをつくメリットがエレオノーラさんにはない……。


「わかりました……。ナディアがいいというなら。ただ、あくまでもナディアの意志を確認できた場合の話ですからね……」

 あまりいい話ではないが、結婚において家格はどうしても問題視される。ナディアが俺の家臣という立場で結婚するなら、外部からは妾のように思われるリスクはある。少なくともフィリより上にはなれない。フィリは婚約時に崩壊していたとはいえワキン家という俺より格上の領主の立場だった。


 今のナディアもいくつかの村の領主という立場ではあるが、家臣は家臣で、フィリの家格よりは劣る。それを屈辱と思う人間はいて当然だ。


「あとはあなたたちでやってください。私もこういうお願いをされて、あなたに伝えると言ってしまったので。これで自分の役目は果たせました」


 じゃあ、フィリが言いだしたのは本当なんだろうか。

 正式な妻とはいえ、フィリに直接聞くのは憚られるな……。





 そのあと、俺はコルケ屋敷に戻ると、周辺の領主を威圧して戻ってきたナディアと、フィリ、それからラコの四人で応接室に入った。


「ラコはちょっと離れたところに座っててくれ」

「別にいいですけど、なんでですか……?」

 すぐわかるから黙っててくれ。


「ナディア、エレオノーラさんから命令を受けた」

「はい……何のことかわかりますわ」


 ナディアも神妙な面持ちになっている。

「お前に問題がないなら、俺はお前と婚約する」

「はい……お願いいたしますわ……」


 ラコが「えっ? そんな話にいつのまになってたんですか!?」と言った。

「いつのまにかなってたんだよ。それで、フィリ、不服があるならすべて言ってくれ。俺はフィリの承諾もとられているとエレオノーラさんから聞いた」


 いつもどおりの仏頂面だったが、フィリはゆっくりとうなずいた。

「ええ。ナディアさんのお気持ちは知っていましたから」


「じゃ、じゃあ……ナディア、そういうことでよろしく頼む……」

「はい、これからもあなたのために戦いますから」


 17歳の夏から秋に変わる頃、こうして、ずいぶん唐突に俺に第二夫人ができた。





 そのあとの数か月は公私ともにばたばたしたが、俺の支配領域は年末には郡の中の40近くの村になった。そこまで来ると、ほかの村もなんだかんだ俺の影響を受けるようになっていて、ほぼ俺はノイク郡全体の領主と見られるようになっていた。


 ドニからもおめでとうを伝える書状が来た。

 ノイク郡の村の数を考えれば2郡分の価値がある。もう少し力が増えれば州の太守を名乗れるぐらいだと書状には書いてあった。


 それはおおげさだろうと思いそうになったけど、あまり謙遜していられる段階でもなくなってきたな。

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