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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
剣豪領主

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戦の前の下準備4

「一つ、確認させていただきたい」

「確認? 何をどうすれば確認できるんです?」


「レオン・エレヴァントゥス殿、あなたが籠城の後にじわじわと勢力を広げていったのは、間違いなくその武勇が広まったからです。あなたはドニ・オトルナ子爵と一対一で長時間渡り合って、そのあとの手合わせに来た剣士たちに圧勝し続けた。つまり、ドニ・オトルナと同格クラスの実力と、このノイク郡で認められた。それは武人としてはノイク郡の中で最強ということと同義です」

 長々とシリル・バールが言う。


「ほかにも隠れた剣士がいてもおかしくないですが、最強とイメージしている人はいるかもしれませんね」

 ぶっちゃけ、ラコのほうが強いと思うので、本当にイメージされてる中での話だが。


「それはそのとおりです。なので、こちらから腕に自信のある者を連れてきますので、手合わせをしていただけませんか? 繰り返しますが手合わせです。命を奪える武器を使うことは禁止とします」


「まさか忍んでいた暗殺者ですの?」

 ナディアが少し煽るように言った。


 その言葉にシリル・バールが笑った。


「まさにそのとおりです! 私が手ゴマとして使っている者たちがはたしてどれだけの力なのか、一度確かめたいと思いましてね。かといって力を試させる場などない。ならば今がちょうどいいなと思ったわけです」


「手合わせもタダというわけにはいきませんよ。対価は決めていただきたい」

「一人にだけでも勝てば、キンティー村の件では手出しをしないと誓いましょう。信用できないなら人質に家族でも差し出しましょう。それ以上の条件はあなた方の力量次第ということで」


「受けましょう」

 とラコが言った。


「レオン、エレヴァントゥス家最強の腕を見せてください!」

 こいつ、わざわざエレヴァントゥス家なのを強調したな。こざかしい真似を。

 しかし、そういう細かいことの積み重ねが大切ではある。


「レオン・エレヴァントゥス、受けて立ちますよ。それで場所は?」

「邸宅の奥にも庭はありますので。家族と重臣しか立ち入れない場所です」





 贅を尽くした邸宅の裏手にはたしかにレンガ敷きの小径で画されたバラ園があった。ちょうどバラの見ごろで、ずいぶんと派手な勝負の場所だった。


 その先のちょっとした広場に線の細い20代なかばぐらいの黒髪の男が立っている。今、来たはずなのにさっきからずっと立っていたような感覚にさせる。


「その男はワスカという名前でしてね、ナイフが極めて上手なんです」


 俺は習慣になっているステータスを確認した。本来は暗殺に来るつもりだったわけだから、こっちもスキルを使わせてもらうぞ。


===

ワスカ

職業・立場 暗殺者

体力 47

魔力  0

運動 52

耐久 35

知力 17

幸運 76


魔法

なし


スキル

一点貫通・毒知識(高)・毒耐性・隠密行・鍵開け(中)

===


 ステータスとしてはたいしたことないな。でも、それだけで名うての暗殺者はできないだろうし――

『おそらく、敏捷度が極端に高いのだと思います』

 ラコの説明が来る。ただなあ……ぶっちゃけ最初からステータスにどれぐらい素早いかとか入れてくれよ。


 ラコのステータスを見る能力は便利なんだけど、明らかに欠陥がある。身体能力にも種類があるし、そこが低くてもナディアのように弓の技術がすごかったりする。


『それはそうですね……。まあ、その……いろんな幅があって、とらえにくいんですよ』


 ラコの実力だと素早いかどうかなんてどうでもいいから気にならなかったんだろうな。実際には人間同士の戦いだとものすごく重要なんだが。


 まあ、いいや。この程度の敵ならどうってことないと思うし。しかし、剣だとちょっとよくないな。

「あればでいいんですが、棒術用の棒をいただけないですか?」

 俺はシリル・バールに提案した。


「棒? あなたも剣は持っているでしょう」

「これは手合わせ用のものではなくて、あくまでも殺傷用なんです。手合わせでそちらの兵を殺してしまってはまとまる話もまとまらなくなる。事故だから遺恨に思わないと口では言われても、内心までは人はコントロールできませんから」


 少しシリル・バールの眉間にしわが寄った。

 若造がずいぶんと生意気な口をきくと思っただろう。


「あなたが出してきた暗殺者を侮っているのではありません。むしろ逆で、実力が高ければ手を抜くことなどできない、不幸な事故も起きやすいということです。先端がとがってない剣でもよいですが、棒のほうがより安全です」

 これは正論だ。腕がありすぎる者同士での手合わせは武器にかげんをしておかないと危ない。


「兵士の練習用のがありましたな。それを取ってこさせましょう」



 もらった棒は手にもよくなじむもので、練習用にちゃんと使い込まれていることがわかった。少なくともシリル・バールの兵は手を抜いてない。


「よい臣下を持たれていますね。サボり癖のある私兵だともっと棒の表面がざらついているものです。手のあぶらがしみ込んでいますよ」

「お褒めいただき、光栄至極に存じます。では、そろそろワスカが待ちくたびれていますので」


「ええ、いつでもかかってきてください」


 俺がそう言った瞬間、ワスカが動いた。

 構えてからなどというルールは設けてない。だから、これはルール違反ではない。

 敵の得物は刃のついてない手合わせ用のナイフ。樹上にひそんだり。室内での戦闘に向いた武器だ。


 それと案の定、速度に特化してることはよくわかった。

 でも、動きが直線的で、小回りがきかない。一撃必殺が前提の攻撃だ。


 だから、攻撃可能な線から半身ズレて――

 突っ込む!


「はあああぁぁぁぁっ!」

 敵の右肩を思いきり棒で突いた。


 敵のナイフのほうは空を切る。

 こっちの棒のほうがリーチが長い。


「ぐっ! 肩が外れっ……た……」

 敵が落としたナイフを俺は庭の奥に蹴った。左手のナイフは残っているが、これ以上は戦えないだろう。


「たいしたダメージじゃないからすぐ戻せると思います。そこまで力は入れてません。まあ、こんなところです。自分が離れた距離から攻撃されることになれていませんね。こっちは安全なところから攻撃したので、こういう結果になります。前に飛び出しすぎましたね。どこかで一度止まらないと対応はできませんが、暗殺には不要な発想か」


 ぺらぺらと、わざとしゃべってみせた。こっちが軽薄に見えたほうが向こうも動きやすいだろう。


「さて、次の相手はどなたですか」

 シリル・バールは天を見上げた。

「いや、もういいです。やるだけ無駄なようです。ちょっと格が違いすぎた」


「御用商人の件、どうでしょうか?」

「本格的に検討したいと思いますので、別室にご案内いたします……」

 シリル・バールも腹を決めてくれたようだ。


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