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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
剣豪領主

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剣豪領主レオン2

 急遽、貴賓用の席が用意され、それから警備用の兵士も集められた。


 俺は手合わせの話は初耳だったのだが、明らかに人の集まりがよすぎる。どうやら通りがかる途中の領主たちに声をかけていたとしか思えない。


「こういうの、困るんですけどね……。いろんな土地の兵士が集まってますし、軍事機密的にどうなんだということになります」

 ラコはドニに苦情を言っていた。当然の権利ではある。


「ちょっと前にいろんな領主に攻め込まれて籠城したばかりだろ。その時点で地形も堀の深さもすべてバレてるぜ。そんなに居城の縄張りを隠したいなら山の上にでも築いて、誰も入ってこないようにするしかないな」


 ドニの言い分もわかる。ここほどほかの領主にバレている拠点もないだろう。


「秘密裏にやると、謀反を疑われるからな。いろんな領主に声をかけた。これならどっからどう見てもケンカ好きの手合わせだろ?」


 俺はドニのステータスを確認する。


===

ドニ

職業・立場 郡領主・子爵

体力106

魔力  5

運動 95

耐久 77

知力 14

幸運 19


魔法

なし


スキル

粉砕打・薙ぎ払い・武器破壊・ときの声

===


 多分だけど、前よりも強くなってるな。運動の数字が上がってる。以前と比べて破壊力が増えてるってことだろうな……。


 それと俺のほうは領主になってから道場破りみたいなことはできてないので、強者と一対一でぶつかる機会も少なかった。成長はしてるようだが、ドニを圧倒するにはまだまだ時間がかかる。


===

レオン

職業・立場 剣士

体力 86

魔力 25

運動 79

耐久 58

知力 44

幸運  1


魔法

回復魔法(小)・ホーリーライト


スキル

メッセージウィンドウ

一刀必殺・疾風剣・一点貫通・滅多打ち・薙ぎ払い・ヒグマの猛攻

===


 強いとは思う。でもドニの圧倒的な破壊力を前にすれば、あまり意味はない。仮にドニより運動の数字が高い奴でもドニに正面から一撃を喰らえば即死するかもしれない。


 運動の数字が70を超えたあたりから、力の見極めとかは意味がなくなってくる。


 貴賓席にはフィリもつんとすました顔で座っている。制度上は妻だ。何も知らない奴からしたら、不仲な妹にしか見えないだろう。婚約の際に手を握ったぐらいで、それ以降はお互い、髪にも触れてない。


 まあ、婚約したからって急にべたべたしたら、それはそれで嫌われるだろうし、こんなもんでいいだろう。大領主同士の政略結婚では顔すらろくに見てないなんてケースもあるらしいし。


「それじゃ、待ってる連中も多いし、やるか!」


 ドニは棍棒を握り締めて、俺の正面に立つ。

 周囲は観客でいっぱいだ。


 棍棒が振り下ろされる。

 いきなり地面をえぐる。


 直後に歓声というより、あきれたような声にならない声が聞こえてきた。

 まあ、わかる。おかしな攻撃力だよな。人間がやっているものとは思えない。小規模な爆発を起こす魔法も世界にはあるはずだが、そんな比ではない。


 久しぶりに見ても、破格の力だ。こんなのが突進してきたら悪夢だと思うが、矢でも受ければドニもちゃんと死ぬんだろうか? まったくイメージできないけど。


 ただし、俺に以前のような恐怖心はなかった。


 たんなる慣れではない。慣れるほどの回数、ドニと戦ってない。


 つまりこれはあくまでも手合わせであって、決闘じゃないってことだな。

 どこかでドニが力を押さえているのがわかる。


 力を押さえるぞとは言われていない。だから、これは俺が戦う中で理解しないといけない。それがわからないような奴とはそもそも手合わせをしないとドニも考えているだろう。


 棍棒と木剣が何度もぶつかる。


 俺が棍棒を細い剣で防ぐだけで歓声が上がる。

 ただ、そのへんの木の剣で折れないってことは、どこかドニが調整してるな。剣を折るような力のかけ方なんかはドニもわかってそうだから。


 こっちも剣を折られては締まらないから、自分から攻めていく。受けるより、受けてもらう。



 なんだかんだ、10分ほど戦ったところで――

「もう、これでいいだろ」

 とドニが棍棒を地面に置いた。

「そう言ってもらえると、こっちも助かる」


 俺とドニが周囲の観客に手を振って応えると、思った以上に大きな声が上がった。

 疲れたけど、先輩領主のためとあらば仕方がない。この先の行事は何も決まってないんだけど突発的にダンスでも誰かするんだろうか。これで解散というのも寂しいから、ほかの村の人間でもいいんでやってくれ。


 すると、誰かが人の波を押しのけて、前のほうに出てきた。少しざわつくが、殺気のようなものはとくにないので、そこまで心配することはないだろう。戦場に身を置くことが続いたせいで、そのあたりははっきりわかる。


「あの、お手合わせをお願いできませんでしょうか?」

 20歳前後の若い兵士が俺の前に進み出た。

「ベスナト村と下ベスナト村の領主プレイブ男爵に仕えるウォーマーと申します!」


 固有名詞が大量に出てきて混乱した。そういう村が少し北にあるのは知っている。とにかくノイク郡は小さな村が多い。元はもう少し大きかった村も領主が一族に土地を分けたりした時に村まで細分化されたケースが多いらしい。


「やってやれよ。何も遠慮なくいい格好できるんだからよ」

 ドニが他人事なのか元気に焚きつけてくる。


 まあ、相手のステータスを見ればどれぐらいの力かわかるし……。

 いや……。

 ここはステータスはいいや。何も知らない状態で戦うのが本来のあり方だしな。


 貴賓席のラコが『力があるのに使わないのはもったいないですよ』とメッセージウィンドウで言ってきたが、事前に相手の技を知って勝って尊敬されるのも悪い気がするし、勝負が終わるまでは相手のステータスは見ない。


「承った。かかってきてくれ」

 俺は木剣を構える。

 たとえ斬れない剣でも構え方は変わらない。


「ありがたき幸せ!」

 ウォーマーは極端に低い姿勢になる。

 まるで泥炭地に埋まったのかというぐらいに。


 そこから一気にこちらとの距離を詰めてくる。

 低い位置から敵の膝下を狙うか。あるいは剣で突き上げて、相手の重心を崩すか。そのあたりの戦法だな。


 この手の戦法の対策はいくつかあるが、その一つが――

 相手よりも低くなること!


 俺は大きく頭を沈める。当然、頭だけでなく、腰も落とす。木剣はおまじないのように少しだけ前に出す。これで、間合いを計る。


「あっ! 低いっ!」

 相手が驚いた声を出す。まさか似た戦い方をされるとは思ってなかったか。

 剣を出すのに迷いが生じているのがわかった。自分より低い敵に対応できないらしい。


 これで勝負あったな。

 俺は敵の剣に目掛けて、剣を力任せにぶつける。

 手から剣が円を描いて離れる。


 俺は剣をウォーマーの首筋に当てた。

「迷っただろ。場数を踏めてない証拠だ。意図しない流れになっても何食わぬ顔で戦い続けるぐらいでないとどうにもならないぞ」


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