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修道院の生活4

 やたらと修道院と村との間を走っていたら、村の人によくしてもらえるようになった。


「アルクリア竜騎士家が滅ぼされたんだろう、ふびんだねえ。オレンジをお食べ」

「俺はありゃ太守の側の陰謀か勘違いだと思うぜ。竜騎士家が太守の地位を奪うなんて考えねえよ。走って腹減ってるだろ。牛乳でも飲みな」

「どうしていいかわからない時は走るしかないよねえ。青春だねえ。レオン様は昔はもっとなよなよしてたけど、今では体ががっちりしてきた気がするよ。負けるんじゃないよ」



 こんな感じだ。

 村で収穫されたものをやたらともらったりする。走ってる最中に牛乳飲むの、たまに気分悪くなるんだけどね……。


『これは単純接触効果というものですね。何度も何度もレオンの顔を見ることで、よりレオンを好意的に感じるようになるわけです。めったに会わない人よりよく会う人と仲良くなるほうが合理的ですから無意識にそういう感覚になるのでしょう』


【竜の眼】って、変なところで博識だな。

 走って修道院に戻る途中に心の中で語りかけた。いちいち声に出してしゃべらなくていいのは助かる。


『私は伝説的な存在ですからね。全世界のいろんな知識を持っていますよ』


「語りかけてくる時点で特別な存在なのは認めるけど、いったいどういう原理なんだ? 宝石本体は部屋に置いてるけど、それが語りかけてるのか?」


 本来、「竜のまなこ」の名で呼ばれていた超貴重な宝石(人格のほうも【竜の眼】を自称している)は自室に保管している。きっと町で売ったらすごい値段になるんだろうけど、さすがに一族の家宝を売り払うわけにもいかない。


『そう考えてもらってもけっこうです。まあ、厳密に言えばあれは依り代みたいなものです。もう力を託す対象としてレオンを選んだので、あれは不要です。本当に売ってもらってもかまいませんよ』


 マジで!? まあ、売らないけどね。今、多額のお金が必要じゃないし、うかつに売ったら俺の存在が悪目立ちしかねないし。

 お金を使って仇討ちを計画してると疑われるとシャレにならん。


『置いておいてもらうのが一番かと思います。一応ほかにも使い道はないことはないですし。ちょっと計画中です。いずれ活用する予定です』


 なんか思わせぶりだな。


『修道院に戻ったら、木剣をまた振りますよ。さすがに毎日振ってるとサマになってきています』


 それはどうも。


『ひとまず3年を目標に、15歳になるまでは鍛錬を行いましょう。その頃には聖職者以外の道を志す気になっているでしょう』


 3年先のことを言われても、正直なところ、全然想像できないけどな。

 15歳なら初陣を飾ってもおかしくない年齢だ。まあ、領主としての竜騎士家は消滅してしまったので、小さな領主同士の小競り合いを初陣の場にすることもできないし、戦場に出る機会はなさそうだが。


『風の噂だと、生き残った竜騎士家の分家などほかの州に士官を求めたり、逃亡してしまったり、聖職者になってしまったりしたそうです。現状では消滅したと言っていいです。レオンを変に担ぎ上げようとする奴がいない点ではかえって好都合です』


 それは、まあ、そうだな。


 生き残っていた幼い子供が御家再興のために担ぎ出されて、あっさり戦に敗北して処刑される――けっこうあることだ。

 それって本当に生き残った子供のことを考えてのことなのかと思う。復讐をしたい連中の自己満足に子供の命を使ってないか?


 もし竜騎士家に仕えていた郎党が十人も二十人もやってきて、俺を大将にして太守に一戦交えようとすれば、その時点で俺の人生は終わりだ。


 戦う意志はありませんでしたと言っても通らない。そんな担ぎ出されるかもしれない存在を生かしておこうと思う奴はいない。


 そういう意味では一族が消滅したぐらいのほうが俺にとっては安全だし、俺が力を蓄えるという意味で【竜の眼】にとってもありがたいらしい。


 ただ、今は剣を振って体力を作るだけでいいんだろうけど、どこかで実戦形式の練習も必要なんじゃないか。


 まあ、腕っぷしの強そうな聖職者は修道院にもいるのだけど、剣の使い手じゃないんだよな。かといって、近くの村には道場まではない。町の道場で練習を繰り返したらいずれ素性がバレる。


『考えはあります。まだ、一人で問題ないですよ。当分は一人だけの特訓で成長できるはずですから』

 そう言われたら信じるしかないよな。


 約半年後の俺のステータスはこんな感じ。



===

レオン

職業・立場 修道院見習い

体力 36

魔力 11

運動 25

耐久 19

知力 34

幸運  1


魔法

なし


スキル

メッセージウィンドウ

===


 修道院長いわく、「その年齢でそれだけ動ければたいしたものですよ。将来、冒険者としてやっていくことも可能かもしれませんね」とのこと。


 実際体力がついてきた自覚は自分にもあった。


 あと1年以上この生活を続けていたら、案外、冒険者の道を志してるかもな。





『少し腕試しに行きましょう』


 ある朝、【竜の眼】がそう言ってきた。


『ここから一時間ほど離れたところに小さな洞窟があります。洞窟といってもダンジョンと呼べるものではなくて、5分も進めば確実に終点にたどりつく横穴です』


 このへんはヴァーン州の中でも低地だが、さすがにちょっとした丘ぐらいはあるし、そういった丘の崖下に穴が開いていれば洞窟はできる。

 数百年前、丘に横穴を彫って神像を置いたりする信仰が広まった時代があった。立派な神殿を作るのはお金がかかるが横穴なら簡単だからな。小規模な領主などが領地の丘にそんなものを作ったりすることが流行した。


 その中には領主が廃絶して、穴だけが残ったケースもある。

 で、そういった穴にちょっとした魔物が住み着くこともある。


『ゴブリン2体が住み着いてるそうです。そのへんの村で馬にちょっかいをかけてるのが見つかって追い立てられて、そこに逃げ込んだとか』


 つまり、そのゴブリン2体を倒せってことだな。


 ゴブリンは低級な魔族で人里にもたまに出てくる。群れで現れると女性が誘拐されたり、馬や牛が殺される危険があるが、2体ぐらいならそこまで脅威ではない。



『はい。ゴブリンといっても数が多いと大変なことになりますが、2体なら大丈夫です。体格としても12歳のレオンと大差ありません。むしろ今でなければ意味がありません』


 どういうことだ?


『体格で大きくまさった相手を圧倒するのは当たり前だからで、訓練にならないからです』


 たしかに俺が幼児を投げ飛ばしても悪質なイジメにしからないよな。見た目のサイズってのは戦いで大事だ。


 わかった。行こう。

 一人だけでの特訓に限界はあるし、時には実戦経験もいいだろう。


お読みいただきありがとうございます! 次回は昼か夕方ごろに更新できればと思っています。

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