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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
郡の有力領主に

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インターミッション ゼナ・ワキンの夜襲

 庶長子のほうが優秀だからこちらに継がせるべきではないか。

 正妻の子だからといって出来が悪い者に跡を継がせるべきではない。


 そんなありふれた意見は世界中で語られていたし、当然ワキン家の周辺も例外ではなかった。庶長子本人のゼナ・ワキンも何度もその話を聞かされることになった。


 庶長子のほうが優秀だからというのは、本人を気持ちよくさせる阿諛あゆのたぐいではない。事実、家臣団の勢力図も半々ぐらいになっていた。本来なら家臣団の8割は当主の弟についていなければおかしいのだ。


 カサリー村という、肥沃な農地から少し山のほうに入っていった土地だけが所領の割にはゼナは健闘していると言えた。


 そのワキン家の周囲ではこの一、二年で大きな変化が起きた。西の貧しい村を所領にしていたカーマ家が突如滅亡したのだ。

 エレヴァントゥス家の若い領主の機嫌を損ねたらしい。血の気の多い奴の取り扱いを間違えたのだろう。


 ただ、そのカーマ家の土地を継承したラコ・エレヴァントゥスは海神神殿の神官長であるエレヴァントゥス家の庶流というだけあって、博識で落ち着いた女性だった。すぐに家臣を殺す蛮族のような領主ではない。


 一族の中でも辺境の土地を所領にしているためか、ラコ・エレヴァントゥスとは話が合った。ちょくちょくゼナ・ワキンのカサリー村までやってきた。茶会や庭園の池のカモの親子を見に来たりした。

 ゼナには妻もいるので、変な気は起こさないが、子がいないので、いっそ後継者は彼女を養女にして継がせてやろうかとも思う。


 一方で、ラコ・エレヴァントゥスの親類のレオンのほうは凡庸な男だった。おそらく武勇だけで村の領主に選ばれたのだろう。自分よりはるかに土地の広いワキン家のことをしきりにうらやむことを言っていた。


 ワキン家の当主であるゼナの弟のこともやたらと褒めていた。大きな土地を領しているのはそれだけの実力があるからだと信じているような口ぶりだった。そんなわけはない。弟は嫡男だからその地位を継承しただけにすぎない。


 そんなふうにゼナが思っていることを、庭園を見ていたラコ・エレヴァントゥスがまさに口にしたのだった。

「私の親族は何もわかっていません。ワキン家のご当主様は、お世辞にも優れた方ではありません。家臣がご当主である弟様とゼナ様に大きく二分していることからでもわかります。所領の規模からすれば、家臣の大半が弟様のほうに割かれていなければおかしいのです。二分されているということは多くの家臣が弟様を見限っているということです」


「まさしくそうだ。この狭い村では抱えられないほどの家臣が私についてきている」

「今のワキン家の内情はゆがんでいます。いずれ大きな問題になりますよ」


 ラコ・エレヴァントゥスは反乱を起こせとは一言も言わなかった。ただ、ゼナの背中は確実に押し続けた。大きな問題というのは、いずれ弟はゼナを滅ぼすだろうということだ。


 家臣団が半分に分かれ、仲良くそのままワキン家が二つの家になって、長く続いていくとは考えられない。このゆがみを止めるためにはどちらかを消すしかないのは明白だった。というより、弟にゼナを滅ぼせと言っている家臣がいることも知っていた。ただ、弟が優柔不断なのでこのままにしているのだ。


 やるなら滅ぼされる前に動くべきだ。


 ゼナはラコに反乱を起こすつもりだと打ち明けた。無論、そんな危険な秘密をただ打ち明けるだけなわけはない。


「あなたの所領からも援軍を出してほしい。20人もいてくれれば十分だ。成功すればこちらから土地の一部をあなたに渡そう」

 ラコ・エレヴァントゥスはうなずいた。

「不意を突けば絶対にゼノ様が勝てる戦になります。いえ、戦にすらならないでしょう」





 曇り空で月明かりもない夜にゼナは弟の当主の屋敷を急襲した。

 多くの兵にも直前に伝えた。そもそも、弟の側にも通じている者などいくらでもいるだろうから、ゆっくりと準備などすれば必ず気づかれる。


 突然の招集にもかかわらず60人の兵が集まった。当主の屋敷は何度も出入りした場所だから、手薄な場所もわかる。十分すぎる数だった。


 合戦はゼナの優勢で進んだ。当主の弟の屋敷からは火の手が上がっているし、おそらく弟を討ち取ることもできるだろう。弟の子供も女子を除いて殺すよう命じてある。生かしておけば火種になる。

 やはり夜襲をしかけたのが効いたのだ。両陣営の兵力はほぼ同じだった。ならば先手をとったほうが当然有利に戦える。


 ただ、ラコ・エレヴァントゥスの軍が加勢に来てくれないのが気にはなった。このままいけば謀反の成功は変わらないだろうが。


 急使が連絡を告げに来た。

「奥カーマ村の領主ラコ・エレヴァントゥス殿は出兵の前にレオン・エレヴァントゥスに捕まり、兵を出せなくなりました。現在はレオンの屋敷に監禁されているとのことで……」

「あの凡愚の親類に捕まったか!」


 いつもどっちつかずのことしか言わない男でも察知できたか。いや、鈍かろうとラコの臣下が注進すれば事にはすぐに気づかれる。


 ラコの安否が少し気になったが、まずは自分が確実に当主である弟を消すことが先決だ。




 夜襲は成功し、本家と呼ばれていた弟の一族は消滅したと言ってよかった。

 ゼナ・ワキンはワキン家のめぼしい後継者候補を消滅させることで、強制的にワキン家の当主になり、元々領していた村を含め、合計4つの村の当主になり、南の村も自分に従属させた。


 ラコからは、レオン・エレヴァントゥスに警戒されて動けないという密書だけが届いた。かといってすぐにレオン・エレヴァントゥスを攻めるわけにはいかない。前当主派の者もまだまだ残っているのだから。





 当主になった3週間後、西隣のレオン・エレヴァントゥスという領主が死んだ前当主の弔いのためという名目で出兵してきた。


 どこまでも愚鈍な奴だとゼナは思った。いくら同士討ちをした後とはいえ、自分の軍事力と弱小領主の軍事力では差がありすぎる。

 敵が攻めきれず撤退したところを追撃して、サーファ村を焼き討ちにしてやる。ゼナはそう思った。




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