一族の墓参り1
少しじめじめする雨の日が増えてきた頃のある日、エレオノーラさんがふらっとサーファ村にやってきた。
言うまでもなく、護衛の従者などをたくさん連れて、なおかつ聖職者の格好で。これで襲撃されるなら、相手は極悪人だからどうしようもない。
「わっ! どうして急にいらっしゃるんですか! 連絡入れてくださればよかったのに!」
俺は村の中心部でぺこぺこ頭を下げた。
ドニもそうだけど、偉い身分で突然やってくるのはやめてくれないかな。
「抜き打ち視察ですよ。報告は随時受けて聞いていましたが、自分のことを悪く書く人はいませんからね。統治ができているか確認に来ました」
それなら連絡がないのもしょうがないか。
そのあと、エレオノーラさんは村の方々を歩き回ったあと、俺の領主屋敷のほうに来た。
ちなみに領主屋敷には、通常、俺とラコ、それとナディアとナディアの従者の女性(ちょっと軍事をかじったメイドさんってところか)で暮らしている。
ナディアが同じ建物にいるのは、ナディアの立場が二割ぐらいは人質であるためだ。この村の兵士のほぼすべてがナディアに仕えていた立場だから、ナディアは手元に置いておかないといけない。
まかり間違っても下心とかではない。これは本当に本当。なので、身の潔白を証明するためにも従者の女性にもいてもらっている。
「思ったよりもしっかりしていますね。はっきり言って、見直しました。あなた方が謎の冒険者上がりでないということは本当のようですね」
自分の家臣になったからか、エレオノーラさんは遠慮なく言ってきた。個人的にもこのほうが気楽だ。
「それと、ミュー海神のための小さな拝所も維持されていました。海神に仕える身でもあることをよくわかっていてくださっていますね」
拝所というのは、人が二人入れるぐらいの海神を祀る小さな小屋のことだ。さすがにこの狭さで神殿は言い過ぎだし、かといって祠と呼ぶとそれはそれで建造物というより置き物という感じがするので、拝所と呼んでいる。
「これでも俺は修道院の出身ですし、祈りの大切さはよくわかってますよ」
もっとも、村の統治の細かいところはラコが決めてくれているのだが。
それと、拝所の掃除はラコが村のおっちゃんたちに笑いかけながらお願いしたら、みんな張り切って掃除してくれた。おかみさんがどう思ってるか知らないが、ラコがとんでもない美貌なのはここでも顕在というわけだ。
「そういえば、お世話になった修道院にごあいさつに行くぐらいはしてもいいんじゃありませんか?」
その言葉を聞いて、エレオノーラさんっていい人だなと思った。神殿の経営が大変でちょっとやつれたりした顔の時が多かったが、根はいい人なのだ。だって、俺が里帰りしても、神殿に何のメリットもないのだから。
「いいんですか? 数日は空けることになりますけど」
「領主という名前にあこがれただけじゃないことは村を見学してよくわかりましたから。いきなり海神神殿領の領主が無関係な修道院に行くのが不自然だとお思いなら、私からのあいさつの手紙を渡す使いという名目にしましょう」
何から何までありがたい。
俺はエレオノーラさんに丁重に礼を言った。
それと、数日空けるのは実験としてもちょうどいいなと思った。
「ラコの言っていた撒き餌、試してみるか」
「撒き餌?」
「この村がほどよく被害者になる方法です。発案はラコですけどね」




