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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
領主復帰

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小領主レオン・エレヴァントゥス2

 俺が書類上で領主になって最初の仕事は――あいさつまわりだった。


「このたび、サーファ村の領主となりましたレオン・エレヴァントゥスです。よろしくお願いいたします。後ろにいるのが家臣に当たるラコ・エレヴァントゥスとナディア・パストゥールです。はい、神官長の遠縁で、このたび村を解放できたのでそこの領主ということに。ご指導・ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします」


 ほぼまったく同じことをミュー海神神殿にいた人たちに片っ端から言いまくった。


 ものすごく地味な作業だが、ラコいわく意味はあるらしい。

『こういったことの積み重ねで領主として認められるようになるのです。誰も領主と思わなかったら、領主の仕事なんてやっていけませんからね』

 メッセージウィンドウでいちいちお達しが来た。言いたいことはわかる。


 大半の人間はいきなり領主になると言ってきた若造にけげんな顔をしていた。それはそうだろう。自分も逆の立場ならそう思う。しかも、エレヴァントゥスの家名を借用してるし、何なんだと思うほうが普通だ。


 でもけげんな顔の理由はどうもほかにあったらしい。

 神殿業務を行っているエレヴァントゥス家の親類にこう言われたのだ。

「領主にしては、服が質素すぎるし、何かほかにないの?」


 あっ……。

 ラコのほうを見たら、明後日のほうを向いていた。いや、メッセージウィンドウが見ないふりをして責任回避するな。

『冒険者的なそのへんの服でしたね。庶民基準では何も問題ないんですが、領主ならもうちょっといいものを着るべきですね』


 そのあと、エレオノーラさんに言って、余ってる服をもらった。エレヴァントゥス家の人間になるのだから、適切な対処法と言える。神官長からもらった服ですと言えば、いかにも親戚っぽいだろう。


 神殿での業務も終えて、俺たちは自分たち用の控室に戻った。

「最低限のあいさつまわりも終わりましたし、これでいよいよサーファ村に下向げこうですわね」

「ナディアは早く村に戻りたいんだな」

 わかりやすくナディアは村に戻れることを喜んでいるようだった。


「だって、村に残してきた方々はわたくしの処遇もご存じありませんから」

 ほんとだ、俺のデリカシーがなかった。これは早馬でも飛ばしてもらうか。早めに情報は伝達しておくべきだよな。でも、俺たちが馬に乗って向かっても――


 エレオノーラさんが控室に入ってきた。

「皆さん、あいさつまわりお疲れ様でした」

「エレオノーラさん、それじゃ僕らはこれにて村に――」

「いえ、海神への礼儀作法、ひととおり学んでいってもらうまでは帰せませんよ」

 ん? 礼儀作法?


 エレオノーラさんは指導用らしい紐製の鞭を出した。

「エレヴァントゥス家の家名を用いるからには、基本的な立ち居振る舞いは覚えてもらいますよ。ここは妥協できませんので、よ・ろ・し・く・お願いいたします。覚え込むまでは領地には行かせませんからね?」

 エレオノーラさんがとても楽しそうに笑った。

 あっ、こんなところでこの人の素が出るんだ……。



 結局、領主に認められた日を含めて丸三日間、作法を学ばされた。


 疲れたので、馬車でサーファ村まで戻る。俺が正式に領主に任命されたことはすでに早馬で伝えている。ナディアとその仲間の地位が保証されたことを伝えるほうがメインだが。


「こんなことなら、修道院時代にミュー海神を祀る方法も学んでおくんだったな」

「違う教えだから、ミュハンさんもご存じありませんよ。まあ、エレオノーラさんからしたら、そこは譲れないんでしょうね」


 神官兼領主の家臣になったせいで面倒事が増えた。海神への祈りをあんまり忘れるようだと容赦なくクビにするとエレオノーラさんはおっしゃっていた。


 ぽんぽんと横の席に座っていたラコが俺の肩を叩いた。

「領主としての振る舞いに関しては、私がみっちり教えますから覚悟しておいてくださいね? 名君と呼ばれるまで鍛えますから」

「冒険者に戻ろうかな……」

 覚えないといけないことがこの数日で急増してるぞ。


「そんなもったいないこと、冗談でも言ってはいけませんわ」

 後ろの席に座っているナディアがむっとした顔をしていた。

「その地位につこうとして、そうなれない方がたくさんいるのですもの。レオン様だって領主を目指して切磋琢磨したのでしょう?」


「ナディアさんのおっしゃるとおりです。レオン、謝りなさい」

「冗談もろくに言えないんだな。…………あっ、そうか」


「おや、何かわかったようですね」

「領主の言葉で人が動くんだもんな。領主の言葉って冗談では済まないんだ」

 たとえば、そのへんの人間があの一族を滅ぼせと言っても何も関係はない。せいぜい不敬と思われるだけだが、従う者が大量にいる太守が言えばそれが本当になってしまうことがある。


「ですよ。ちゃんと領主の責任、果たしてくださいね」





 サーファ村に着いたら、村民とナディアの配下である郎党たちがずらりと集まっていた。

「いくらなんでも、おおげさだな。ああ、戻ってきたナディアの歓迎か」

「違いますわ。村の領主が初めて入ってきたことになるんだから、饗応するのがマナーなんですわよ」


 ナディアに訂正された。

 そっか、俺はもう領主なんだよな。

 竜騎士家を名乗ることがあるかはわからないが、その時に竜騎士家の恥にならないようにしなければ。


「新領主様、万歳!」「レオン様!」「ナディア様をお救いいただきありがとうございます!」


 いろんな声が聞こえてくる。

 弱小だけど、自分は領主になったんだ!

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