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神殿所領奪還計画3

 サーファ村はハクラから南に3時間と少し行ったノイク郡の南にある。やけに田舎臭い土地だった。

 地図で確認したが、川に沿った谷筋の土地から、さらに細い川に沿って進んだ谷筋の小さなエリアがサーファ村だ。おそらく、入り口から村の奥まで徒歩十分もいらないだろう。


「海神の所領にしては山っぽすぎるな。ドニの土地のほうがよっぽど開けてるぞ」

「税を納めてもらうための場所ですからね。神殿もあらゆる所領から海の幸を届けられても困るでしょう」


 村の入り口にあたる場所にはいかにも目つきの悪い男が二人立って見張っている。冒険者ギルドでも用心棒をしていた夜の町の通りでもよく目にした。つまり、カタギじゃない奴の顔だ。


 顔の美醜というのはある程度生まれた時に決まっている。醜い見た目に生まれてしまって親を憎んでいる奴もいるはずだ。化粧で印象は変えられるが、骨格までは変型できない。


 でも、性格のほうでも、かなり顔の雰囲気は変わる。危なっかしい生活をしている奴、常に緊張を強いられてる奴、そういう手合いはそれが顔に現れる。


 エレオノーラさんは神殿の経営などで苦しんでいたかもしれないが、なんとしても人を出し抜いてやろうというような表情はしていなかった。優しい人だなというのはすぐわかった。まあ、神官長が邪悪だったら嫌だけど……。


 その点、目の前の連中はいかにも悪人顔だ。ろくでもないことが身に起きてもしょうがないような任務についている証拠だ。たとえば、不法に土地を奪っているとかな。


「あん? お前ら、見ない顔だな。何者だ?」

 目つきの悪い男の一人が話しかけてきた。

 俺はすたすた小走りでそっちに向かっていく。どことなく、間抜けっぽい感じで。


「すみませ~ん、ここって海神神殿の所領でしたかね~? ちょっと用事がありまして」

「はあ? お前ら、もしかして何も知らずに遠方から来たのか? この村は独立したんだよ。神殿の指図は受けねえ。とっとと帰りな」


 帰るわけないだろ。

 俺は男の顔をヴァーミリオンで殴りつけた。

 ちゃんと切れない角度でな。極力殺人はしない。賊を殺傷して、住人を見せしめに殺されたりするとまずい。


 俺たちとしては賊の命を奪う必要はない。それこそ交渉をしてどっかに行ってもらえるのが一番理想だ。

「おい、こいつ! 何しやが――ぐえっ!」

 もう一人も簡単に薙ぎ払った。悪いけど、眠っておいてくれ。軽く、あくまで軽く剣で脳を揺らした。

 とくに敵は強くもないな。問題はまだ数が把握できないことだ。


「レオン、どんどん谷筋を奥へと向かいますよ。奥へ行くほど高地になっていますから、賊の頭目は一番奥にいるはずです」

「だな、厄介なのは、この村、メインの道のほかに細い谷筋がいっぱいあって、それぞれに畑があるみたいなんだよ」

「山から出た直後の川は細い分流だらけになりますね」

「そういうこと。どれが当たりかはわからん」


 俺たちは坂道を上がっていく。

「全部試せばいいんです。間違ってもすぐに次の谷筋を上がれば同じです」

「けっこう、脳筋な考え方するな」

 俺は笑った。ラコも笑っている。


 さあ、次の敵はどこだ?

 視界の先、小屋の前から男が二人、それと女も一人飛び出してきた。武器はありふれた剣だ。

 男一人のステータスを確認する。

 運動が48か。とくに強者ってことはない。


 女性はラコに任せようと思ったわけではないが、先にラコが同性の賊を柄のほうであごを殴りつけて失神させていた。

 俺は力任せに男二人を押していく。二人いるといっても、実力差が違いすぎるから脅威じゃない。


「なんだ、こいつ……。ガキの強さじゃないぞ……」

「なんで二人なのに押されてるんだ……?」

 男たちは後退していく。恐怖に負けてる証拠だ。


 ただ、少し違和感があった。

 剣の質が思ったよりもいいのだ。型も足の使い方も恐怖で崩れてるとはいえ、サマになっている。どこかで修練を積んだ相手らしい。


「お前らの首領の場所を教えろ。別に殺す気はない。そっちが謝罪して村を明け渡してくれるなら追いかけもしない」

 剣で圧力をかけながら話し合えないか試してみる。

「できるわけないだろ。狭い土地でもこれが未来の第一歩なんだよ」

「そうだ、不法占拠でも何年もたてば、他人はここの領主だと認めてくれる!」


 思ったよりも結束が固いな。首領を信じてついてきているらしい。

「本当に首領を傷つける気はない。だから連れてきてくれ。その証拠に入り口の奴二人も気絶させただけで殺してない」

 交渉を続ける。この練度だと数人倒したところで、敵がパニックになって自壊するとは思えない。


「レオン、矢が来ます! 左奥から!」

 ラコが叫ぶ。


 たしかに弓兵がこちらに矢を構えているのが見えた。

 大きく避けるよりは、ここは敵にぴったりくっつくか。

 剣で対峙している敵とほぼ重なるような位置に動いた。

 案の定、敵は矢を撃ってこない。味方を巻き添えにしてもいいってぐらい卑劣な連中ではない。何かの目的で結束している。


 その間にラコが走っているのが見えた。

「げっ、何だ? お前、何者――」

 その言葉を最後に弓兵からの声が途切れた。ラコが殴りつけたんだろう。


「悪いけど、お前らも沈んでおいてくれ」

 俺は敵二人の剣を二本とも吹き飛ばした。

 運動が70を超えてると、剣を相手の手から離させるぐらいは簡単なんだ。

 二人とも順番に気絶させた。



 その先に進んだが、敵はいなかった。途中、高い笛の音が響いた。攻められていることを示す警報らしい。


「逃げられると一番面倒だな。ただ、ここの首領は一回山にこもることを選びそうなんだよな……」

 村の奥はどの谷筋も山に入っていく。もし、山道を熟知されると新参者の俺たちが追いつけるとは思えない。それで、俺たちがハクラに帰るとまた村に降りてくるだろう。


「その時はその時です。それより、弓には気をつけてくださいね。樹上から撃たれることもありえます」

「了解」

 たしかに飛び道具は怖い。ただでさえ、谷筋は高低差がある場所が多いので、坂を上がる際には狙い撃ちされやすい。


 けっこう制圧は面倒かもしれないな。

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