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冒険者になる2

 俺とラコは何とも言えない気持ちになりつつ、とりあえず冒険者の登録はした。どうせ登録は無料だ。


 帰る前に冒険者ギルドの壁に貼られた仕事の一覧を確認する。

 土地柄、大半が港湾での業務だった。荷物運びは武功とは関係ないから領主が興味を持つこともないんだよな。引きぬかれる可能性は皆無だ。


 用心棒の仕事もちょくちょくある。毎日誰かがケンカを売りに来るとは思えないので、これも実力を評価される場面は少なそうだが、荷物運びよりはまだマシだろう。数人の強盗でもとっちめれば名前も知られるようになるかもしれない。


 ほかにあるものはというと、逃げた犬を探してほしいというもの、うっとうしい元カレの鎮圧、所領の完全回復……。ん……?


「『所領の完全回復』って、これは何だ?」

 受付のおっちゃんがわざわざカウンターからこっちに出てきた。

「坊主、博識だな。ここは文字読めねえから、内容を口頭で教えてくれって奴が多いのによ」

「修道院に預けられてたことがあるんです。それで、この内容は?」


「ハクラの郊外の農地を賊に占拠されちまった腰抜け領主がいるんだよ。戦争で没落する奴も出てくるからな。それでいいように所領を占拠されても、自分の武力で追い返すこともできなくなってんのさ。割とあるぜ。当主が死んで未亡人が名目上の領主になって、舐められるとかな」

 これなら活躍できるんじゃないか?


「目を輝かせてるけど、ちゃんと読めよ。『完全回復』だぞ。追い払った翌日にどこからか賊が現れたら依頼達成にはならねえ。賊ってのはそもそも勝負なんてしてくれねえぞ。退治もできねえ」

 たしかにそれであれば用心棒を一日やりましたとかのほうが、依頼をクリアしたかどうかはわかりやすい。


「過去にも一日や二日追い払った冒険者がいたけど、直後に賊が来ちゃって、ボディガードもねえ徴税請負人が裸足で逃げ帰ったんだ。当然、任務を果たしたことにはならなかった。どうにもなんねえよ」


 所領に張り付いて暮らすわけにもいかないし、たしかに手がなさそうだ。

 じゃあ、簡単にできる仕事からやるか。

 あと、あまり長居するとラコが尻をさわってきた奴を本当に殴り殺したりしそうだった。



 というわけで、俺たちは用心棒の仕事を入れることにした。





 俺たちは治安の良さそうな、それなりの値段のする宿を定宿に決めて、冒険者としての生活をスタートさせた。


 業務の大半は用心棒的なものだ。

 たとえば、裏通りの居酒屋数軒のトラブルを対処する。1軒だけなら無事な日もあるが、5軒も6軒も担当すればどこかでケンカが起きる。そもそもガラの悪い奴が集まる通りなら、毎日ケンカしてるような奴も客としてくるから需要は割とある。


 よく切れるようになった木剣で惨殺死体を作らないように慎重に峰打ちや側面を使った平打ちで酔っ払いを仕留めた。なお、木剣ヴァーミリオンは片刃の剣だ。


「ガキはすっこんでろ! こいつが俺のことをバカにしやがっ――ぐえぇっ……」

 酔ってるせいで動きも鈍重だ。こんなのに負けるわけがない。ただ、腕を磨くことはまったくできないな……。


 あとは、博打の現場から現金を移動させる時の用心棒。強盗でも襲ってくるのかと思ってたが、話は途中からおかしな方向に動いていった。というのも、冒険者ギルドで見た顔がやたらとお金を輸送する荷車目指して突っ込んできたのだ。


「お前ら、強盗までやるのかよ! 落ちるところまで落ちすぎだろ!」

「てめえ、いい女と一緒に入ってきたガキか! 無許可の違法賭博だから収益を差し押さえてくれって依頼が出てんだよ! てめえらこそ、なんで違法賭博の肩持ってんだよ!」


「は、はあ!? こっちもまっとうに冒険者ギルドで出てた仕事してんだぞ!」

「悪人だって依頼は出すだろ!」


 それはなかなかカルチャーショックだった。犯罪者のほうが犯罪を成功させるために依頼を出すのか。

 結局、その件は現金輸送の荷車を止めたうえで、冒険者ギルドの職員を連れてきて内容を確認した。違法賭博の収益だったことが発覚した。


 依頼者側が依頼時に一定額を冒険者ギルド渡すシステムのおかげで、依頼者が明確に違法だったケースでも多少は俺達にお金が出た。






 そうやって用心棒を中心に冒険者ギルドの仕事を2か月ほど続けた。だんだん冬が春になってきたなという期間だ。

 その日はいい仕事がなかったので、昼になっても宿でぼうっとしていた。用心棒の仕事は夜に動くことが多くて寝不足気味だったというのもある。

 修道院の生活から激変したな。やたら早朝から起こされたからな。


 お俺はベッドの上で仰向けに寝転がっている。

 修道院時代はやることがない時でも本ぐらい読んでたのに、そういう意欲もない。読むような本も手元にないけど。


 いつかは大領主になる、その目的を持ってはいるが、現状だと一族が没落した家の子供が冒険者の立場にまで落ちぶれただけだ。生きてるだけよかったとも言えるけど、領主階級に戻るとっかかりも見えない。


 いっそ、本格的に聖職者を目指すべきだろうか。それはそれでいいところまでいけそうなんだよな。危険もはるかに少ないだろうし……。


「あの、いくらやることがないからといって、怠惰がすぎますよ。剣の特訓ぐらいなら少し外に出ればできます」

 視線の上にラコの顔が来た。怠けているとやっぱり怒られるな。


「一日ぐらい何もしなくてもいいだろ。ずっとサボるとは言ってない」

 ラコはまだ何か言いたそうだったが、「二日続いたら強制的に特訓だけでもしますからね」と折れてくれた。ただ、まだ不満はあるらしい。


 ラコはベッドに腰かけて、ノートを開いた。計画書みたいなものらしい。それと帳簿も兼ねている。


「あのさ、二か月冒険者ギルドで冒険者をやってきたけどさ」

「はい、何でしょう」

「思ったよりもお金たまらないよな」

「それは……そうですね。生活はできますが、軍資金のようなものにはなりません」


 どうやら帳簿のページを見て、ラコは固まっているらしい。背中を見ても力が入ってないのはわかる。


 たまに道場破りもやっているが、寝不足のコンディションのために延期することも多い。

 道場に行ってレオンと言うとさすがに反応があるのだけど、冒険者ギルドのほうではとくに名前は浸透してない。道場で剣を習う層と、冒険者層は本当に全然別らしい。

 まして、冒険者ギルドの依頼側は道場破りのレオンなど聞いたこともないので、レオンだから料金上乗せなんてこともしてくれない。


「なあ、冒険者の実績で領主になるのって、やっぱり難しいんじゃないか?」

 用心棒の仕事には危険が伴う。だが、それは危険な目に遭うこともあるというだけで、毎日戦っているわけではない。警備が主な場合は、剣を一切振るうこともないまま「無事」に終わってしまう時だって多い。


 そんな仕事で大金が稼げるわけはない。それは百歩譲って妥協するとして、問題は……活躍のしようがないということだ。


「実力を見せつけられるような仕事がなさすぎる。これだと、仮に実績ある冒険者を自分の配下に加えようと思う奇特な領主がいても、仕官しようがないぞ」


 冒険者ギルドに入った初日の話が思い出される。

 冒険者からの人生一発逆転はほぼないのだと。


「う、ううん……。わたしも私は読み誤ってしまいましたかね。私は知識は豊富なのですが、人間として活動してきたわけではないので実情というものには詳しくないのです」


【竜の眼】は知識はいろいろ持ってるけど、建前と実情を区別できていなかったらしい。


 冒険者から立身出世した領主がいる⇒冒険者として活躍したら領主を目指せる。と考えたのだろう。それで成功した人間がいることと、それが成功の一般的なルートであることはまた別なのだ。


 ただ、本音を言うと、そんなラコを見るほうがほっとする気もする。

 おおいなる存在にただ動かされているだけというのも気味悪いしな。それだったら先行き不透明でも従姉と旅をしていると思ったほうが楽しい。


「俺の腕が立つのは事実のはずだし、道場でも開くか。若すぎて舐められるかもしれないけど、レオンの名前は広がってるはずだし」


 冒険者での成り上がりが無理ならルートを変えるべきだ。


「まあ、まだ冒険者は二か月やってるだけだし、一年ぐらい続けて様子を見てもいいけどな」


「そうですね……。道場を開くか……。しかし、それはちょっと……。あ~! 気晴らしに散歩します! 冒険者ギルドにいい依頼もあるかもしれませんし!」

「だな。俺もついてく」





 冒険者ギルドの依頼の貼り紙に変わり映えはなかった。

 ただ、やけにラコはとある貼り紙に顔を近づけていた。


「ん。どうかしたか?」

「これ、もしかしたら、もしかするんじゃないですかね」


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