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自分だけの名刀2

「本当に刺さった……」

 ドワーフのおっちゃんはいい顔で笑っていた。職人冥利に尽きるという表情をしている。


「さすがにただの木ってわけじゃねえ。これは魔法処理も施してある。でも、魔法だけでどんな木の剣でもこんなふうにはできねえからな。寺院や神殿だとかに奉納するクラスの最高品質の業物だよ」

「もらっていいんですね?」


「子爵がいいのをやってくれと言ったんだ。ここでナマクラの剣を渡したら、ここの連中全員赤っ恥だ。剣で戦う職業じゃなくてもプライドってもんはあるんだぜ」

 これ以上の確認は無粋だ。俺はその剣を丁重にもらいうけることにした。


「あの、これの銘はあるんですか?」

「『ヴァーミリオン』と呼んでたな。ほら、木肌のつやが黄色がかった赤だろ。このへんでたまに採れる外国原産のパーシモンって果物の色にも似てるからちょうどいい」


 武骨な割に粋な名前を紹介してくれるじゃないか。

「これをずっと使い続けますよ」

 俺は丁重に礼を言った。


「まっ、俺の肩を攻撃したらまた粉砕されるかもしれねえけどな♪」

 ドニが余計なことを言った。

「本当になったらシャレにならないからやめてください! 空気読むところですよ!」

「お前のほうこそ、敬語で応対するの、堅苦しいからやめろ。あれだけ全力で戦った相手なんだから、タメ口でいい。どうせ内心じゃドニって呼んでんだろ」


 こいつ、心、読めるのか……? まさにそうだった。

「年上の子爵を呼び捨てにするのはだいぶ抵抗あるけどな……」

「別に礼をなくせって言ってるわけじゃねえぞ。でも、ガチで戦った相手同士ならもっと根本のところで尊敬の念も生まれるだろ。それで代替できっだろ」


 たしかにいきなり全力で戦って、今更細かい礼儀作法を詰めても無駄ではある。そんなことにこだわる奴はすぐに勝負を挑んできたりもしない。


「それに、表面上は丁寧でも全然信用できねえ奴がこの世界にゃうじゃうじゃいるからな。礼節はそういう奴との交渉の時に使うんだよ。相手に余計なカードを渡さねえためにな」

 ドニの支配するエシロル郡は様々な州との結節点のような場所だ。そもそもの交渉事にはドニも慣れている。




 そういえば、ラコの姿が見えないな。男臭い場所だから距離を置いているんだろうか。


 ラコは切り株に腰かけて、ドワーフのいれたお茶を飲んでいた。


「ドワーフさん、いい渋みですね。このあたりの茶葉を使っているんですね」

「そうだろ。これで一息つけばいくらだって働けるぜ」

 ドワーフと楽しそうに話してるからとくに問題なさそうだ。


「レオン、武器も無事に手に入ったようですね」

「ああ、むしろ大幅にパワーアップした。次はどこに道場破りに行くんだ?」

 ここはコルマール州でも南の奥だから、もっと南下してルメール州のほうまで行くという選択もある。


「いえ、もう成果は得られました。ここから先は商都ハクラを一直線に目指します。そうだ、今のステータスはどんな感じですかね?」


 そういや、ドニとも激闘をやったよな。


===

レオン

職業・立場 剣士

体力 85

魔力 24

運動 76

耐久 56

知力 41

幸運  1


魔法

回復魔法(小)・ホーリーライト


スキル

メッセージウィンドウ

一刀必殺・疾風剣・一点貫通・滅多打ち・薙ぎ払い・ヒグマの猛攻

===



 運動の数字が上がってる! 激闘のおかげか、確実に強くなっている――はずなんだけどな……ラコもドニも異常な強さなので、この数字のすごさがあまり実感できない。


「15歳でこの実力ならたいしたものですよ。堂々と一軍の将の任を果たせますよ」

 お茶でなごんだ顔をしながら、ラコは言った。





 翌朝、エシロル郡から商都ハクラへ向けて俺とラコは移動した。

 一度南側の街道まで出て、あとは平坦地を黙々と北西に歩く。距離は長いが、アップダウンも小さいので、かなり歩きやすい。


 このルートはとにかく荷馬車や牛が引く荷車が多い。ヴァーン州でもそれぐらいは見るが、交通量が桁違いだ。その時点でこの先に大都市があるということがわかる。


 途中、いくつかの領主の土地を通過するが、金儲け目的の悪質な関所のようなものもない。街道の通行を妨げることは多くの人間の恨みを買うから、うかつにできないのだろう。


 俺たちの足取りは軽い。というのも――

「ドニ、やたらと路銀をくれたな。ものすごくありがたい」

 ちょっと重いぐらいの銀貨をもらった。ハクラについたらけっこういい宿に泊まっても問題なさそうだ。

「いかにも豪傑といった方ですね。最初、絡まれた時はどうしようかと思いましたが、何もかも結果オーライでした」


「だよな。本当によかった。いい武器も手に入ったし。これ、実は俺の運ってもっと高いんじゃないのか」

 あるいはあそこで全力でやってないと今頃死んでたんだろうか。たしかに不運にどうにか立ち向かった気はするんだよな。

「本当は結果オーライじゃなくて、堅実に結果を積み重ねたかったんですがね……」

 ラコの言葉は少し覇気がないなと思ったが、理由はすぐわかった。


「これでわかったでしょう? 私は二手先や三手先を考えることはできても、ちょっと予想外のことが起きれば計画は大きく変わるんです。やむをえないことではありますが……少しショックです」

 ああ、ドニと戦うことになったことを気にしてるのか。


「落ち込む必要はないだろ」

 俺はラコの肩をぽんぽん叩いた。俺がフォローする側に回るのって珍しいな。


 ラコは冷静沈着でデータでいろいろ判断するタイプだが、それで何もかも上手くいくわけじゃない。別に未来がすべて見えてるわけではないからだ。

 それが世の中というものだし、別にいいだろうと思うんだが、得意分野での失態と考えてるのかな。


「以後、こんなことはないように善処します。ハクラに着いたら着実にレオンが偉くなれるように策を進めますから……。竜騎士家の家宝として相伝されていた私も実績を見せないと!」

 やけにやる気になっている。ずっと落ち込むよりはいいか。

「ハクラは大都市なのでイレギュラーはこれまで以上に起こりやすいですが、それでも私がどうにかしてみせます。イレギュラーも乗り越えてみせます」

「余計なことまで言うな。また本当になる!」


 そもそもイレギュラーも何も、ハクラでの生活がふわっとしたままなんだよな。定住する場所も決まってないし。


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