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自分だけの名刀1

 そういや、木剣はドニの肩を突いた時にぐしゃぐしゃに裂けていた。

 現状の俺は武器がない状態である。一応、護身用のナイフぐらいはあるけど、これで剣士を名乗ったらバカだ。攻撃範囲があまりに狭すぎる。


「なあ、ラコ、これを機会に金属製のロングソード、買おうと思うんだけどどうかな?」

 ずっと、木剣でやってきてたけど、考えてみたら不格好だしな。子供っぽいというか。ここらでいい剣を買っても罰は当たらないだろう。商都ハクラに着いたら冒険者になる予定だし。


 しかし反論は外野から来た。

「別にお前の剣は木製のままでもいいと思うけどな」

 げっ……。ロングソードを買いづらくなるから地位のある領主は余計なこと言わないでくれよ。


「だって、お前、木製の剣でも敵に致命傷与えられるだけの力があるだろ。剣にとんでもねえ力を込めることができなきゃ、俺とあんなにやりあえねえ。敵を倒せるんだったら、軽い木製の剣のほうが有利じゃねえか?」

「えっ……?」

 想定外の視角からの意見だった。


「そうですね、どうせ鎧を着込んだ敵には金属製の剣も木製の剣も打撃武器になりますし、レオンの実力なら木製のものでも十分に威力は出せます。それに、刺突で鎧の隙間に一撃を加えるなら、どのみち致命傷ですし」

 げっ! ラコも説得されそうになっている。


「でも、ほら、森に出没する魔物とかは鎧なんて着てないし、そういう時は切れ味のいい剣のほうがいいだろ。軽装の盗賊だっているわけだし。鎧を着込んでたらどっちみち一緒ってのは暴論だろ」


「じゃあ、切れ味の鋭い木製の剣だったらどうだ?」

 ドニが思考実験みたいなことを言いだした。


「いや、そんな剣、ないでしょ。ないものの話をされても……」


 なぜかドニは真顔だ。なんか無礼なことを言ったかな。

「このエシロル郡は山里だからな。木に詳しい奴もいるんだ。お前ら、出発は明日にしろ。案内したいところがある」

 俺のスケジュール、周辺の人間がどんどん決めていくな。どうせ宿も決まってないからいいけど。



 ドニは供も連れずに俺たち二人を山のほうへと案内した。元々、屋敷が山の入り口みたいなところにあるので、山の奥深くに向かうのも楽ではある。


「あの、いくらなんでも護衛ぐらいは連れていったほうがよくないですか……? 俺たちは領主でも何でもない胡散臭い連中ですよ」

「その時はその時だよ。心配するな。人を見る目はある。これは本当だ」

 ドニはそう断言した。こう言われると、こっちは何も言えない。


「このエシロル郡はほかの州とも近いし、複数の州の太守を兼ねてるような大物の影響も及びやすい。そうなると、その時々で誰につくかを選ばないといけねえんだ。判断ミスはしねえよ」

 それを考えるとヴァーン州はあまり大領主の思惑の影響は受けづらいな。




 しばらく山の中の道を進んでいくと、視界に作業場みたいな木造家屋が現れた。場所だけなら隠者のいおりみたいだが、騒々しい音がするので、何人かで作業をしているらしい。

 その中にドニは無遠慮に入っていった。領主だから無礼にはならないのだろう。俺たちも続く。


 中ではひげもじゃの男たち数人が働いていた。

「あっ、もしかしてドワーフか?」

「そうだよ。山間部には昔からドワーフが住んでる。といっても、全員がドワーフじゃないぞ。あっちの奥の二人はドワーフの血は入ってない。ひげが濃いからよくわかんねえけどな」


「だって、剃るのも面倒だろ」

「ちげえねえや。それで子爵、今日はどういう用事ですかい?」

「差し入れの酒だったらうれしいんだけどな」


 まさに男社会だなというノリで作業場の連中が声を上げている。いかにもドニの領地の連中という感じだ。


「実はな、そこのレオンって男のためにロングソードをプレゼントしてやりたいんだ」

 ドワーフの一人がこっちを見た。絶対に内心でまだガキじゃねえかとか思っただろ。ドワーフのあんたよりは背が高いぞ。ドワーフは全体的に背が低いのだ。

「青二才に見えるかもしれねえけど、ここ最近、この州で道場破りを繰り返してる奴だぞ。俺も手合わせで負けた。中身はクマだ」


 その言葉でドワーフたちの目の色も変わった。

「おいおいおい! あの道場破りってお前さんか!」

「よくやってんじゃねえか! 言われてみればいい筋肉をしてんな。かなり鍛えてやがる」

「やっぱ、いるところには化け物みたいな奴がいるもんなんだな」


 男臭い! 別に汗臭いとかって意味じゃなくて、むさ苦しい空気って意味で!

「その道場破り、遠方の出身でな、木の剣じゃ何も切れないと思ってんだよ。てめえらの誇りにかけて最高の業物わざものを出してやってくれよ」


 そのドニの言葉に連中の顔つきが変わった。

 こっちが結果的に侮辱したみたいな表現になっていたので、ちょっと怖かった。別にドワーフの腕が悪いなんて言ってないぞ。ドワーフがいることすら知らなかったし。


「本物を知らねえ奴はどうしたって偏見あるからな。よっしゃ、文句のつけようのねえヤツを出すか!」

 ドワーフのボスらしき男は張り切って外に出ていった。





 それからしばらくして、ドワーフのボスは一本の剣を持ってきた。

「これはドワーフの中でも名刀と言われてるものです。子爵、どうぞ」

「ああ、俺じゃなくて道場破りに渡してやってくれ」


 ドワーフは俺のところにその剣を持ってきた。

「信用できないならとことん試してくれていいぞ。剣っていうのは自分が納得できるものを使わんと危ないからな」

 渡された剣を見た俺の第一声は――

「これ、本当に木の剣か……?」


 だって、それはあまりにも金属製のロングソードに酷似しているのだ。刃先も鋭利にとがっている。

 木剣というのは刃先なんて最初から用意してないものだ。完全な打撃用の武器で、それで何かを切り裂くことは前提になってない。

 その手の剣とは方向性からして違う。


「そのへんの木でも切ってくれんか? どうせ、薪にするのに何本かいるんだ」

「いや、ドワーフのおっちゃん、斧じゃないんだから剣で木なんて切れないだろ」

 そんなの、刃こぼれするに決まっている。

「普通はそうだろう。逆に言えばそれで切れるなら、切れ味のほうも本物だろ? さあ、やってみてくれ。失敗しても剣を用意したこっちが恥をかくだけだ」


 こう言われたら引き下がれない。俺は外に出て、薪に使えそうな木を一本選んだ。

 両手で剣を握る。握り心地は悪くない。自然と手になじむ。

 問題はこの木に刺さるかどうかだ。


 俺はひとおもいに剣を木に突き立てる。


 実は斧を握ってたのかと思った。

 それぐらいその剣は木に刺さって……木をゆっくりと森の中に倒していった。


 これ、本当に木製かよ……。



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