道場破りの旅1
年が明けて早々、15歳の誕生日を迎えた俺のステータスはこんな形で落ち着いた。
===
レオン
職業・立場 剣士
体力 83
魔力 24
運動 73
耐久 54
知力 41
幸運 1
魔法
回復魔法(小)・ホーリーライト
スキル
メッセージウィンドウ
一刀必殺・疾風剣・一点貫通・滅多打ち・薙ぎ払い
===
ラコと戦ってる回数が多すぎるせいで、実感は湧きづらいのだけど、まず対人(とくに一対一)の戦闘で負けることはないらしい。ラコが言ってるのだから本当だろう。メッセージウィンドウの言葉だと考えれば信じるに足るだろう。
まあ、この数字がウソばっかりか、真実かはどうせすぐわかる。
このステータスを武器にして外に出るんだからな。
荷造りがちょうど終わったなという時にドアがノックされた。
ドアを開けると、ラコが立っていた。
「用意できたようですね」
「ああ、そんなに荷物もないしな。ってか、お前、荷物多いな!」
ラコが背負ってるリュックは俺の3倍ぐらいにはふくれている。本当に何が入ってるんだ。
「女子ですから、何かと入り用なんです。着替えもたくさんいりますし。それと、レオンが本当に必要最低限のものしか持っていかない可能性があるので予備にいろいろ入れたんですよ」
「俺のことを引き合いに出されると文句言いづらいな」
「メッセージウィンドウだけの立場だと、口うるさく必要なものを列挙するしかなかったでしょうけど、体があると直接自分で持っていけるから楽ですね。こっちのほうが確実です」
おっしゃるとおりなので、ここはラコに任せようと思う。
少し上目遣いにラコは俺を見た。
「にしても、よく背が伸びましたね」
「そういえばそうかもな」
ラコの顔の位置が変わった気がするけど、俺の目の位置が変わった影響だ。
「ラコは成長とかはしないのか。まあ、しなそうだけど」
「身長的には女子の中では割と高いほうですけどね。レオンのほうが握り拳二つ分は高いですね」
手を使っていちいち具体的に計測しようとしてきたので、止めた。本当にどうでもいい。
「じゃ、名残惜しくなってもよくないし、行くか」
俺の15歳の誕生日のタイミングで修道院を出ていくことはすでに伝えている。
物寂しい気持ちはあるけど、一方で修道院に迷惑をかけることがなくなってほっとしている自分もいる。
太守の手の者が踏み込んでくるということもないはずだ。仮に踏み込んできたとしても俺が放浪の旅に出たというんじゃ捜索のしようもないし、修道院長を人質にするという手段だって意味がないからやらないだろう。
俺たちは早朝の修道院の正門に向かう。門は夜明けとともに開かれている。当番の人間が朝から開けるのだ。修道院の朝は早い。
と、門の奥(俺たちは内側から見ているので、この場合、門の外側)からぞろぞろと修道院の人たちが出てきた。
「達者でな!」
「立派になってくださいね!」
「いろいろあったけど、君は幸せになれる!」
うんうん、こんなふうに声をかけてもらえるのはうれしいことだ。まんざらでもない。
「みんな、ありがと――」
「ラコちゃん、ケガしないでね。きつくなったらいつでも戻ってきてね!」
「毎日、神にラコちゃんの平和を祈りますから!」
「住所がわかれば仕送りしますから、何かあったら遠慮なく連絡ください!」
「これ少ないですけど、銀貨10枚入ってるので、何かおいしいものでも食べてください!」
俺より圧倒的にラコの扱いがいい!
気持ちはわからなくもないけど、現金すぎるだろう。別れのあいさつなんてそんなにないことなんだから、もうちょっとこっちの扱いもをよくしても罰は当たらないと思う。まあ実家が太いとか細いとか以前に、実家が消滅してるから修道院に援助とかできないが……。
「しんみりするのよりは楽しげなほうがよいですからねえ」
集まりの中には修道院長も加わっていた。修道院長は今日も鷹揚としている。そういえば、修道院長の怒った顔を見たことがない。
「この清苑修道院のおかげで俺は死なずにすみました。このご恩は一生忘れません」
「そしたら、レオン君がヴァーン州の太守になって、どかっと土地を寄進してくださいませんかねえ」
「え、それって……」
なかなか思い切ったことを修道院長は言った。それって、今の太守が俺に地位を乗っ取られるということを意味している。
「ジョークです、ジョーク。どんな道を歩むのもレオン君次第です。別に正式に出家して僧侶になってもらってもいいですから。レオン君は僧侶の素質もありますからねえ。その年でホーリーライトが使える人は滅多にいないんですよ」
「そうですね。未来のことはわかりませんけど、太守になれそうだったら目指します」
太守になる関門は多いからな。おそらく俺だけの努力では足りない。歴史や運命が俺に微笑んでくれた時しか訪れない。
「それと、旅をするのであれば、竜騎士家の生き残りと再会することもあるかもしれまんしねえ」
「生き残り……? 屋敷が襲撃された時に生き延びた人がいるってことですか?」
「ああ、そういう意味ではなくてですね、ほら、遠い分家や家臣の中には罪に問われることはなかった一族もいますから。ヴァーン州に残るのはやりづらいから都市部へ出ていった一族もいるはずですし、女子ということで生かされた人もいるはずなんです」
同じような境遇の奴となら話も合うかもしれないな。
「とにかく、独立するんですから楽しんできてください」
ぼんと修道院長に背中を叩かれた。
「はい、これまでありがとうございました!」
俺とラコは手を振って、修道院を後にした。
修道院が見えなくなったあたりで、ちょっと目頭が熱くなってきた。
もう後戻りはできないんだな。
このまま進むしかないんだな。
「はい、ハンカチです」
さっとラコに横から手渡された。
「ありがとな。こんな時に泣くのは別に恥ずかしくないはずだから、とことん泣く」
「こうやって用意周到に何でも出そうとすると、荷物がたくさん必要になるんですよ。アイテムボックスみたいなものです」
俺にはよくわからない言葉だったけど、ラコなりの冗談だということはわかった。
「これから北のほうに向かうんだよな」
「そうです。ヴァーン州の北のコルマール州は商都とも称されるハクラという都市があります。根無し草の人間が目指すべきは大きな都市です」
ハクラは海に面した大都市でほかの大陸からの文物もよく入ってくる。よそ者を見慣れている土地柄のほうが俺たちも住みやすいとは思う。
「なにより、冒険者のような存在も多いはずです。レオンという名前を売るにはちょうどいい場所です」
「そうだな。お金も稼がないといけないし、一族の苗字は別として、俺の名前は目立ったほうがいいか」
レオンって名前自体はありふれているものだし、これで身元がバレることはまずないはずだ。
「なので、商都ハクラに着くまでにも下準備をしていきましょう」
「下準備?」
「ちょっと、道場に寄っていきますよ」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
本作を応援してくださる方、続きが気になると思ってくださった方は、
ブックマークの登録や、
ポイントの投入(↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えて評価)をして下さると嬉しいです。