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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
従姉の剣士~レオン14歳~

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最強の従姉と剣士5

「お、お前、何者だよ……。高額の報酬で雇われる傭兵か何かか……?」

 鞭の盗賊は呆然としていた。

 剣士だと思っていた女子が武道家顔負けの打撃で男を一撃で仕留めているのだ。意味がわからないだろう。


「違います。別に金目当てではないですので。ところで、ついでなので、あなたたちの素性も少し知りたいんですが」


 向かっていく横から盗賊二人が剣で斬りかかる。

 ラコが深くその場に沈むと、盗賊二人の剣は互いに味方に刺さった。血とともに生々しい悲鳴が上がる。


 驚いて背を向けて逃げようとしている奴の頭を真後ろから殴りつけた。最初から逃げ出す判断ができていなかったから殴られる時間をラコに与えてしまった。これでまた一人脱落した。


 ペースも落とさずにラコは鞭の男に近づいていく。

「あなた、完全に野良の盗賊団ですか? それとも背後に誰か顔役でもいたりします? 大差はないですが確認はしておきたいので。しゃべったなら、あなた一人だけなら逃がしてあげますよ。私はウソはつきません」


「背後に大きな組織があるってわけじゃねえ……。ただ、一定の取り分を上納すればこの州のトップである太守様は黙認してくれるんだ。狙いやすい、備えの甘い教会や商人の屋敷も教えてくれる……。州の支配者を正面から敵に回さずに仕事ができるんで、俺たちも助かってたんだ……」


 ゴロツキをなかば子飼いにしてるような太守は全国にちょくちょくいるらしいが、このヴァーン州もそうか。

 そりゃ、重臣の一族を皆殺しにしようとする奴が善人なわけがないし、盗賊から上納金をもらってるような奴が州を公正に統治できるわけがない。住んでる人間にとったらやりきれない話だ。


「とくに清苑せいえん修道院を狙えといったことは言われてませんか?」

「そんな話はないな。ただ、太守とのつながりもなさそうだったから問題なく狙えると思っただけだ」


「そうですか。じゃあ、約束したので、あなた一人は逃げてもいいですよ。その剣は安物ですけど、一応置いてってください。ああ、教会から盗んだものを持って逃げるのは論外ですからね」

「あ、ああ……」

 鞭の男は震える手で剣を地面に投げ捨てた。


 ラコはかがんで剣を拾う。警戒すらしてないような大胆な態度だ。


 それが鞭の男の余計な誘惑を生んだのか、最初からその気だったのかわからないが――


「首ががら空きだぜ!」

 鞭をラコの首目がけて伸ばした。


 もっとも、ここまでの力の差を見てきた俺は、さすがに恐怖は感じなかった。


 ラコは蛇のような鞭を左手でつかんで、グイッと力強く引っ張る。

 男の体が前のほうに傾いていく。そのまま、一歩、二歩、前へと進む。


 そして、ラコとの距離が迫ったところで――

 ラコが起き上がって、拳を男に叩き込んだ。


 顔の骨が砕ける鈍い音が俺のところまで響いた。


「これで全部倒しましたかね。遠くに出張って不在の方もいるかもしれませんが、確認のすべがないのでひとまずこれで解決ということでいいでしょう」


 ぱんぱんとラコは手のほこりを払った。


「お前、本当に強いんだな。剣士だと思ってたけど武道家なのか」

 むしろ顔の骨を破壊しまくってたから、切れない剣で戦ったほうが敵の傷は浅かった気がする。


「レオンに教えられないこともないですが、剣より覚えるのが大変なので、おすすめはしません。身一つでやるのでケガを負う危険も高いです。それに竜騎士家はあくまでも剣で認められた家ですし。まあ、それより――」


 ラコは俺のところまで来ると、俺の頭に手を置いた。


「私を守ろうとしてくださったのは嬉しかったですよ。淑女を守ろうとするのは騎士として正しい振る舞いです。ラコは立派な騎士道精神を手に入れましたね」


 やけに気恥ずかしい……。


「身長だけなら俺のほうが高いんだから……あまり子供扱いするなよな」

「そういえば、出会った頃はまだ私のほうが高かったはずですが、一気に背が伸びましたね。男子はこの時期に一気に身長が伸びるというデータがありますが本当でした」

「そういう言葉も子供扱いなんだよ」


「なるほど、嫌がることはやめておきましょう」

 甘くなるなら、特訓の時に甘くなってくれと思うんだよな。





 修道院から盗まれたものは無事に全部取り返すことができた。当然「竜の眼」も俺の手元に戻った。

 盗賊団の処遇についてだが、修道院の領主権で裁くことになった。さすがに同情の余地はないので、刑に服してくれ。


 それと、盗賊団退治の影響がラコのほうに出た。

 今日の朝も修道院の僧侶の前で頭を下げている剣士っぽい見た目の男がいた。

「盗賊団を一人で壊滅させた方がいるということで、ぜひ特訓をお願いしたく!」

「いえ、あの方は弟子などをとっていません。それに年齢的にもまだ若いので弟子をとるような立場ではありません!」

「そこをなんとか!」


 ラコに弟子入り志願をする奴が現れるようになったのだ。

 どこでどう話が広まったかわからないが、ヴァーン州の冒険者の界隈で謎の女子冒険者が出たぞということになっている。さすがに拳ですべて殴って解決したというところは広まってない。ウソっぽすぎて誰も信じなかったのだろう。


「相手が年下の女性であろうと強い者から学びたいと思うのは自然なことではありませんか? あなたも高名な僧侶が自分より若いからといって侮ったりはしないでしょう?」

「それとこれとは話が違います!」

「それに年頃の女子剣士に手鳥足取り指導されるなんて最高ではないですか!」


 あっ、変な性癖の奴だった。

「帰れ、帰れ! そんな変態を会わせられるかっ!」


 おっ、無事に追い返せたようだ。

 ちなみに修道院の二階の窓からラコが様子を見ていた。弟子入り志願者が去って、ほっとした顔をしている。本人も迷惑しているらしい。自分の事じゃないからか、ちょっと面白い。


 面白いので二階にからかいに行ってみよう。


次回は夜に更新予定です。

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