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一族皆殺しにされた没落領主、メッセージウィンドウの指導法で最強剣士に成り上がる  作者: 森田季節
従姉の剣士~レオン14歳~

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最強の従姉と剣士4

 中腰になって茂みの中をがさごそと前に進む。

 とくに盗賊団は気にしてないらしい。


「なんか、いるな。イタチか何かか?」

「大きめのトカゲかもしれねえぞ」


 自分たちを追ってきた者が来たとはまったく考えてないな。

 たしかに宝石の地点から逃げ場所が判明するという反則が起きてるからな。完璧に逃げ切ったと思ってる分、かえって油断が生じてるんだろう。


 正々堂々と戦う必要はない。そもそも相手は賊だ。

 一度、移動を止める。音がやんで、ますます相手が油断したところで――


 飛び出すっ!


「うえっ!? お前、何――ぐえっ!」


 一刀必殺! 無防備な盗賊の脳天に木剣を叩きつける!

 人間は驚くと、次の動きの判断ができず、わずかに硬直する。その間に攻撃を決める。


 これで一人は仕留めた! 横にいた次の敵に移る。

 だが、こいつはもうナイフを出していて、俺の剣を一回防いだ。それぐらいなら、勢いで押していけるはずだが――


「ほう、ガキが追ってきたか。わざわざ修道院からご苦労なこった」

 俺の前にもうカシラのバジルが割り込んできた。日に焼けた肌の中で、目だけがやけに白く目立つ。


「悪いけど、いきがってるガキは大嫌いなんでな。かかってこいよ」

 バジルは左手にショートソードを握っている。右手でくいくいと手招きした。


 間合いはそこまで広くないし、いける。まずこのバジルという男から片付けられる。

 すり足で少しずつ距離を縮める。踏み込めるところまで進めば――


 バジルの足が変に動いた気がした。


 直後、俺の目に砂が入った。


「なっ!」


 靴で地面を蹴って、砂をかけられた。ミスだ。敵の武器やステータスだけに意識をしていた。ステータスは別に未来予測じゃない。


「やっぱガキだな。甘ちゃんすぎんだよ!」

 闇の中で意気軒昂なバジルの声がする。


 バジルが突っ込んでくる靴の音が聞こえた。

 いやあ、敵の言うとおり甘かった。まだまだ実戦経験が少ないっていう弱点が出た。


 だけど、これぐらいのピンチならどうってことないな。


 あわてずに、力強く木剣を振り下ろす。


「ちぃっ! 運のいい奴だな!」

 ショートソードが地面に落ちる音がした。


 薄目を開ける。うん、確実にバジルの手を叩けたな。


「別に運じゃないぞ。実力だ」

 悪いけど、いつも厳しい師匠にボコボコにされてるからな。これぐらいの窮地は味わい慣れている。その都度、どうやって窮地を脱出するか考えてきた。


 だから、お前のばたついた靴の音が聞こえれば十分なんだよ。視界を奪われる程度じゃどうってことはない。そもそもじっくりラコの動きを見てたら、防御も攻撃も何も間に合わない。視界に頼りきって戦う余裕なんて最初からない。


「盗賊なんだから、足音も忍ばせろよ。バカ正直に正面から来るなら、そりゃ腕を狙えるだろ」

「こいつ、舐めやがって……!」


 バジルがほかのショートソートを鞘から抜こうとするところに接近。

 薄目で十分だ。一撃で仕留めるには少し狙いを定めづらいから――

 高速で剣を打ちまくる!

 頭から首、肩まで片っ端から殴りつけた。


「ぎえええぇっ! やめろ、やめろっ!」

 戦意を失ったバジルが崩れ落ちる。


 おそらくこれがスキルの「滅多打ち」に該当するんだろうな。ラコを攻撃できる時間なんてほとんどないから、一撃一撃の時間を圧縮していったうちにできた技だ。通常は威力の弱い踏み込まない攻撃に、わずかな体重移動で力を持たせる。


 ノルマはもう一人だな。バジルが倒れたことでそいつが怯えているのはわかった。

「おい、なんてガキだよ……。来るな、俺は戦闘はあんま得意じゃな――ぶえっ!」


 額に一撃を加えた。

 今度はとことん重い一撃だ。

 怯えて、重心が後ろに向いてる奴は怖くない。


「よかったですよ! 本当にお見事です!」

 ラコが茂みから出てきて、ぱちぱち手を叩いている。いや、まだまだ盗賊は残ってるんだけど……。


「目つぶしをされてもあわてずに対処できましたね。あわてないことが何より大切です。戦場で動揺すれば致命傷になりますから。気配と音で敵の場所も把握したところも見事です。視界だけに頼れば、汗でも目に入った時に大変なことになります」

「総評はありがたいんだけど、まだ戦闘中だぞ」

 むしろ、敵が残っているのに、こんなに堂々とないがしろにできるのはすごい。生物の本能から外れてる。


 その時、何かがしなってラコのほうに飛んできた。

 それはムチだった。鞭がラコの剣の柄に絡んで――


 剣を奪い取ってしまった。

 ラコの側には鞘だけが残った格好だ。


「これでどうする? 舐めてるからそういうことになんだよ!」

 奥にいた盗賊の一人がにやにや笑っている。場所柄、ステータスを確認できてなかったが、もしかすると鞭関係のスキルでもあったのかもしれない。


「お前ら、カシラは倒れちまったけど、まだ勝負はついてねえ。あの女を縛り上げるぞ!」

「おう! 武器もねえ女なんて楽勝だぜ!」


 残りの連中が調子づいている。これに関しては完全にラコのミスだ。愚かにもほどがある。

 俺はラコの前に立った。

「ノルマが3人って言ってる場合じゃないよな」


 これでお前の自業自得だからどうにかしろよなんて言えるわけがない。

 本来は人間じゃないのかもしれないが、俺には従姉にしか見えない。それなりに長くやってきたし、本能がラコを守れと言っている。


「レオン……本当に立派に成長しましたね……」

 従姉というよりは育ての親みたいな反応をされてる気がするけど……叱られてるんじゃないし、いいや。


「ただ、3人がノルマだと言いましたからね。残りは私がやります。約束をたがえるのはよくないですから」

「だからって、お前、丸腰だろ。どうやって戦うんだよ?」


「そんなの決まってるじゃないですか」

 俺の頭に大きな影が差した。


 頭上高くにラコの姿があった。

 そして、とんでもない高さからのかかと落としが盗賊団一人の背中を直撃した!


 悲鳴も上がらなかった。一撃で敵の一人が脱落した。すでにラコはほかの盗賊の真ん前に移動して、右の拳をひゅんと振った。


 次の瞬間、盗賊の顔が大きくゆがんでいた。


「ぶえぇっ……いでえええっ!」


 戦意喪失の盗賊を蹴り飛ばすと、またほかの盗賊の前に移動する。敵がナイフを動かす前に、また拳を振る。顔を殴られたらしい盗賊が豪快に吹き飛ばされる。


 拳の動きが目では追えなかった。

 速度を異常に速くすることで、体重が乗ってもないのに威力を劇的に上昇させている、それぐらいしか原理が想像つかない。


「武器を奪われてしまったら、そりゃ、自分の手や足で戦うしかないでしょう。それだけのことです。別に私、こっちも苦手ってわけではないですから」

 わずかに振り向いて、ラコは楽しそうに笑った。あまりに楽しそうなので盗賊の集団に乗り込んでるとは思えないぐらいだった。


 そのまま、すたすたと修道院の廊下でも歩くように、残った盗賊のほうに向かっていく。

 目的地は鞭で剣を奪った盗賊だ。


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