最強の従姉と剣士3
ラコからふわっとした計画を聞かされた俺は地面から起き上がった。
「じゃ、次は修道院長のところで特訓するから」
「はいはい。行ってらっしゃい。私は町に買い物にでも行ってきますね」
と、そこに修道院の僧侶や俺のような聖職者見習いの若手が走ってきた。
やけに焦った顔をしている。というか、ここは修道院の外側だからわざわざやってくる時点で尋常なことじゃない。
「どうかしましたか?」
「盗賊団が修道院に入ったんだよ!」
「ケガ人はいないけど、金属製の法具だとか諸々が盗まれまして……」
そりゃ大変だ!
なんで自分たちは気づかなかったのだろうと思ったけど、わざわざ修道院の外で特訓をしているのだからしょうがない。自分たちで騒動が気づきづらい場所にいたのだ。
まあ、盗みに遭っただけで命を奪われなくてよかったなと言いたいところだが――
「それで盗賊団はレオン君の部屋も開けたみたいでね。もし、金目のものを置いてあったら盗まれていると思うよ」
げっ! 「竜の眼」も盗まれてる!
宝物の価値がわからない奴でも、これは売れば金になると思う宝石だ。確実に持っていかれてる……。
俺はそうっと、ラコのほうを見た。
だが、ラコは心底どうでもよさそうな顔をしていた。
「それは残念でしたね。修道院の経営が傾く次元であれば、食客として住まわせてもらっている手前、盗賊団を探しに行きますけど」
修道院で厄介になってる者としては百点の解答だが、他人事すぎないか?
俺はラコを肘で小突いた。それから小声で言った。
「あの宝石、盗まれていいのか?」
「よくなかったら、こんなに平然としていませんよ」
そう言われるとそうだよなとは思う。
「あれが遠く離れたからといって私が具現化できないとかではないです。いや、でも……。そうか……。アリですね……」
ラコはやたらとうなずいた。
「あの、その盗賊団ですが、私たちが捕まえます」
ラコが俺の肩に手を置いていた。
えっ? えええっ?
「たしかにラコちゃんは剣の腕が立つのは知ってるけど……」
「敵は10人近くいましたよ」
「ラコちゃんにもしものことがあったら神を永久に恨んでしまいそうです……。無理はしないでください」
「ラコ様の言葉にすべて従います」
なんか、ラコの信者みたいになっている奴がいるな。
「ご心配はありがたいですが、負けるつもりはありません。冒険者の道で生きていくつもりなんですから盗賊退治ぐらいはできなければ」
ラコの実力は知られているので、なんとしても止めるというような聖職者はいなかった。
「じゃあ、レオンもついてきてくださいね。従弟としていいところを見せてください」
無責任なことを言われた。あと、俺が盗賊団退治に行くことは誰も止めないのか。止められても困るけどさ。
修道院のメンバーたちは荒らされた場所の掃除をするために戻っていった。
「あのさ、盗賊団を退治するって言っても場所はわかるのか?」
そもそも論だけど、そこが一番大事だ。堂々と町の目抜き通りを歩いてるなんてことはないだろうし。どこかに潜伏してるだろう。
「すぐわかりますよ。おそらく、少し離れた川のほとりにでも行って、夜営するんでしょう。あのへんは人もほぼ来ませんしね」
「自信たっぷりだけど、はずれたらどうするんだ?」
「夜営の場所が変わる可能性とかはありますけど、居場所がわからなくなることはありえませんよ。私が移動しているようなものですから」
あっ、そうか、そういえば!
「あの宝石がラコの本体か」
「本体は今のこの私ですから、厳密に言うとちょっと違うのですが、唯物論的にはそれで正解です」
●
少し悔しいが、ラコの予想は当たっていて、細い川の近くで盗賊団は休息をとっていた。人里離れた川で、荒くれ者が逃げてくる場所としては理にかなっている。
俺たちはしゃがみながら草をかき分け、その場所に近づいていく。
敷かれた布の上に、キラキラ輝くものが並んでいる。宝石を埋め込んだ法具や金属器の類だろう。売れば確実にいい値になる。
その中に「竜の眼」も置かれていた。
「カシラ、これはいい宝石ですね。すごい額になりますよ」
「このへんで売るとすぐに足がつくしな。外国の商人も多い商都ハクラまで運ぶぞ。でも、値切られる前にこれの正確な価値を知りたいところだけどな」
ハクラというのはヴァーン州の北に隣接するコルマール州の州都だ。貿易都市として栄えていて商都と呼ばれている。
「貴重品の目利きがいるとなると、王都ですかね。でも、王都まで行って確認する意義はあるんじゃないですか」
そんな話をデカい声で連中はしている。
ここまでつけてきた奴はいないという判断だろう。実際、俺たちも場所がわかってるから来られただけだからな。
「お前、遠くに運ばれそうになってるぞ」
「それはそれで楽しそうですけどね。過去に話したと思いますが、あれは依り代なんで、どこに持っていっても私に問題はないです。依り代を消滅させようって奴がいたら問題ですが、むしろ大切に扱うでしょう」
そこは否定しないけどさ。
「さて、ここからがレオンの課題です。あの連中のうち、3人を倒してください。残りは私のほうで倒します」
「3人でいいのか?」
「気を抜かないでくださいよ。高名な剣士でも敵の数が多いと危ないものですよ」
敵はこっちに気づいてないし、隙は十分にある。よし、ここで出る!
だが――ラコに服を引っ張られたので、出ていくのは失敗した。
首をちょっと痛めかけた。
「おい、何するんだよ!」
「自分の能力をちゃんと使ってください。レオンは相手のステータスを確認できるでしょうが!」
「あっ、たしかに……」
俺には敵の実力を把握する力がある。それを使わない理由は一切ない。
これは遊びではなくて、純粋な命の取り合いだ。使えるものはすべて使って挑むべきだ。
「ラコの言うとおりだ。ちょっと離れてるし、目で追いづらいけど、なんとか確認する」
全員を視界に入れることはできなかったが、やれるだけのことはした。
相手のステータスはどんぐりの背比べだが、ちょっとだけ強いのはカシラと呼ばれている奴だった。
===
バジル
職業・立場 盗賊団カシラ
体力 40
魔力 6
運動 43
耐久 29
知力 14
幸運 56
魔法
なし
スキル
隠密行・鑑定(中)・毒知識(初)・鍵開け(中)
===
「なかなか運動能力が高いな。これなら盗賊やらなくてもやっていけそうだけど」
「人生いろいろあるんでしょう。それにまっとうに大成功するには微妙な力です」
想像もできないスキルや魔法を持ってる奴は近場にいる中にはいなかった。これだけでも助かる。
「じゃあ、3人を倒してください」
俺は愛用の木剣を握った。
木製だけど、これで事足りる。
次回は夜更新予定です。
===
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
本作を応援してくださる方、続きが気になると思ってくださった方は、
ブックマークの登録や、
ポイントの投入(↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に変えて評価)をして下さると嬉しいです。