最強の従姉と剣士2
ラコは「やはり、私の見る目は間違っていませんでした。レオンは竜騎士家の中でもまたとない逸材でしたね」としばらく威張りまくっていた。
俺がいないところでも機嫌がよかったので、修道院の人からも「ラコちゃん、何かいいことあったのかな」と噂しているぐらいだった。
いや、あくまでも俺が努力した結果だろうと言いたくはあるのだけど、これが努力だけの賜物ではないだろうことは間違いないので言わないでいた。
まず、俺に剣士の素質があったことは事実だ。
運動能力や魔法に関する素質はない者にはまったくない。たとえば魔法をまったく使えない奴だっている。
しかもスタートダッシュがダメというか、最初のうちの成長が遅い奴は素質があることが見抜かれにくい。事実、俺も一族から「こいつは素質ないな。勉強させたほうがいいんじゃないか」と思われて修道院に入れられていた。
俺は成長過程に入るまでに高負荷をかけないといけないタイプだったらしく、それは誰もわからなかったので「呪われてるぐらい成長しない子供」と思われていた。
おそらくこういう事例は世界中で起きていて、もっとその道を努力すればもうすぐ開花するのにその手前で努力をやめてしまった奴が大量にいるのだろう。
俺の場合は異常に運がよかった。ラコにその素質を見抜いてもらえたのだ。
でも、俺のところに「竜の眼」を置いて亡くなったマイスさんはダメ元で俺のところに派遣されたわけではなくて、決め打ちでやってきたはずだ。
となると、おそらく使者の場所を指定したマディスンじい様の観察眼がすごいということになるのか。竜騎士家の長老として君臨していた男は伊達じゃないな。もしかしたらこの子供は伸びるのではないかと思っていたのか。
もっとも、普通に特訓をしたぐらいなら、いくら後から伸びるタイプでももっとゆるやかな成長だったはずだ。せいぜい軍人の手前あたりの実力で、そのまま数年鍛錬を続ければいつかは冒険者としては名前が売れる程度になるっていうのが関の山だろう。
ラコはどうすれば俺のステータスが伸びるか予測がついていたようだし、そもそもラコが師匠としてはこれ以上ないほどの凄腕の存在だった。強い師匠の下で教わるほうが成長するに決まっている。
いろんなものが噛み合わさって、俺はこの果実を享受できたわけだ。
でも、俺の生活はとくに何も変わってないけどね……。
3分前もラコにボコボコにされた。あまりにも強すぎる……。
「足の使い方は以前より上手になっています。地面から大きく離れないように移動しているので、バランスを崩されるリスクが減っていますね。ただ、私のフェイントに何度か引っかかりましたね。これはフェイントだなと見抜くような洞察力が必要です」
ラコはいつもの特訓場所に椅子を持ってきて、それに足を組んで座っている。
もう剣技の枠を超えたことを要求されている気がする。まあ、俺の実力はステータス上は相当なものらしいので、初歩的なアドバイスをする段階じゃないんだろうけど。
ちなみに、あまりにもラコの剣技が常人離れしているということはじわじわ周囲に広がっており、求婚しようとするような奴の数も減っている。みんな命が惜しいらしい。でも、恋愛感情って相手が強かったら減るものじゃないだろうという気もするが。
「こう、なんていうのかな、負けてばっかりなのが嫌だな。もうちょっと花を持たせてくれてもよくない……? 承認欲求的なものがもう少しほしいかなって……」
「手を抜くとレオンの成長が止まるんですよ。私は適切な負荷を与えて指導しています」
「理屈はわかるんだけど、強くなってる実感を持てないんだよね。もうちょっと喜びたい時もあるっていうか……。0勝500敗では強くなった気になれないだろ?」
「だって、レオンが強くなったと広まるのはよくないですよ。私が強いおかげで、レオンの強さに話がいかないのでよいカムフラージュでしょう? それに男女の性差の違いか、私の出身の一族がどこか気にしている方は少ないようです」
正論で言いくるめられてしまった。
ラコを危険視する話は噂でも聞こえてこない。女子が出身の一族の復讐で動いたなんて話はほぼ聞いたことがない。
しかし、このまま俺を強くしてラコは俺をどうするつもりなのだろう?
見張りが役割の砦なら詰めてる兵士も数人程度だろうから一人で占拠できるかもしれないが、そんなところから反乱を起こさせるつもりじゃないだろうな……?
それは無理だぞ。多数の軍隊を前にしたら勝ち目はない。雨のように降る矢を避ける能力なんてないし……。
「何か余計な心配をしているようですけど、レオンにそんな無謀なことはさせるつもりはないですからご安心を」
涼しい顔でラコは立ち上がると、倒れている俺の横にしゃがみこんだ。
やけに冷たいなと思ったら、ぬらしたタオルで顔を拭いてくれているらしい。
「私はレオンが偉くなる逸材だと思っているんですから。命を無駄にするような選択はさせませんよ」
ラコが微笑む。
悔しいが、ちょっとどきりとしてしまった。
見た目だけなら文句なしに美少女なのだ。正体を知らなかったら、俺も性懲りもなく告白でもしていたかもしれない。それぐらい破格の美貌なのだ。よくもこれだけ造作が整った顔をしているなと思う。200%は美化された貴族の肖像画なんかよりはるかに上だ。
「ですが、大領主になるまでの長期的な戦略をたしかにレオンに話していませんでしたね。先の長すぎる計画だと人間というのはやる気の出ないものなので言ってなかったのですが、今言いましょうか」
「いや、いい」
俺は手を顔の前に出して断った。
ラコが不思議な顔をしていた。
聞きたくない理由がよくわからないんだろうな。
「ラコがちゃんと考えてくれてるんだろ。だったら多分それが正解なんだ。ここまでは見事に成長できてるんだし、これから先もお前を信じるよ」
「なるほど。精神面のほうも成長してきましたね」
ラコは楽しそうだった。なんか、本当の従姉みたいだった。
「では、おおまかな計画だけ伝えましょう。このあと、レオンは独り立ちして、ほかの州に出ます。独り立ちといっても私もついていくのである意味二人ですが。そこで冒険者として自立します。で、お金と経験がたまれば、また状況次第で考えましょう」
なんか、ほぼ言われたような気もするが、これぐらいアバウトならいいか。
「仇討ちにしろ、それ以上の立身にしろ、それにはレオンについてくる人間がたくさん必要です。いわば、家臣ですね。ですが、さすがに十代の子供についてくる人間は限られています。なので、まずは武者修行です。外に出て実績をつけましょう」
まあ、おかしな話ではないか。
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