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最強の従姉と剣士1

 ラコの噂は一瞬で修道院全体に広まった。

 別にこの修道院が完全な女人禁制のわけではない。たとえば、村からお手伝いさんのような仕事をしにきているおばさんなんかはいる。でも、部屋で寝泊まりしている女性はいない。


 そこに可憐な女性が突如として現れたので、ちょっとした騒動になった。


「僕、還俗げんぞくしようかな……」などと20代の僧侶がつぶやいているのを聞いたり、「これは我々を堕落させる悪魔の差し金だ。いや、むしろ神が視覚だけでもやすらぎを与えようとしてくださってるのか……」と40代の副修道院長が悶々としているのを聞いたりした。


 副修道院長、道を踏み外しそうだな……。でも、そこで町の娼館に走ったりしないあたり、けっこうまともなのかもしれない。中には妻帯して恥とも思ってない僧侶とかもいるしな。


 それと村や近所の町にまでラコの噂は広がり、本当に求婚に来る奴まで出たが、言うまでもなくラコは丁重に断っていた。

「申し訳ありませんが、もう少し時間がたてば本格的に冒険者として生きていくつもりですので。夫を持つつもりはないのです」


 ラコの人柄など知らない奴の求婚だから完全に見た目で選んでるだけだ。

 そんな奴がフラれても別にかわいそうにとは思わないが、騒動になってはいるわけで、やっぱりおっちゃんみたいな見た目のほうがよかったのではないか。


 でも、竜騎士家の一族のおっちゃんとなると、いかにも仇討ちのために爪をいでいる疑いが強くなるか。なかなかうまくいかないものである。





 もっとも、ラコの見てくれがどれだけよかろうと、あいつの稽古は徹底して厳しかった。


「動きが甘いです。砂糖菓子ぐらい甘いです。もっと踏み込まないと敵にダメージを与えられませんよ?」

「踏み込む隙なんて……ないだろ!」


 最初にラコと戦った時があいつの全力ではないと思っていたが、案の定、猫をかぶっていた。あいつの力はあんなものじゃなかった。


 華麗な剣さばきという言葉では誤解を招く。華麗なうえに重いのだ。一太刀でも受けたら、その勢いにバランスを崩して叩き伏せられる。


 で、実際叩き伏せられた。

 ラコの圧力に耐えきれず、俺は背中から転倒した。

 顔の横の地面に剣をどんと刺された。


「う~ん。まだまだですね。力をいなす技術が不足しています。これではゴーレムみたいな敵が来たら吹き飛ばされてしまいますよ」

「そんな敵、そうそういないだろ。もう、剣の技術の話じゃない気がするし」


「でも、戦場で大男の一人や二人いてもおかしくないですよ。そこで諦めて殺されるわけにもいかないでしょう?」

「それは……そうだな」


 剣士を目指す時は考えてもいなかったが、剣士には腕力や筋力が想像以上に必要らしい。


 動きの流麗さだけで審査される演舞みたいな世界なら気にしなくてもいいかもしれないが、実際の戦闘では力任せに相手の動きを封殺するような手法が平然とまかり通る。プレートアーマーに身を包んだ敵が相手だったら切りようがないし。


 で、ラコはそれを俺に教えてくれている。

 ラコの見た目ではわかりづらいが、こいつは暴力的にやろうと思えばいくらでも振る舞える。それこそゴーレムみたいな力を内側に秘めている。


 そんなものと俺は戦わないといけない。ちょっとした道場で剣を学ぶのの三十倍は難しいと思う。


「はい、もう起き上がってください。休憩はおしまいです。今度は盗賊のように戦いますから」


 俺は立ち上がると、慎重に守りを固めた。が、気づいたら視界からラコが消えていた。

 そして背中から肩に衝撃が走った。

 後ろから剣を叩きつけられたのだ。


「思いきり飛んで背後から攻撃しました。反応が遅いです」

「いや、視界から消えるほどジャンプ力がある奴なんていないだろ……」


「じゃあ、レオンはもし、そんな敵がいたら仕方なく殺され――」

「わかった、わかった。俺が悪い。次から気をつける……」


 ラコの厄介なところ力任せなだけじゃなくて、素早く動こうと思えば本場の盗賊のようにスムーズに動けるところだ。ほとんどあらゆる戦い方を使いこなせる。


 で、そんなものを簡単に御せるわけがなく、俺はいつもボコボコにされていた。


「このあと、ミュハンさんが指導してくれる日ですし、今日はこのあたりにしますか」

 助かったと思った。修道院長も手練れだし、メイスでぼかすか殴られるが、ラコほどじゃない。息抜きの時間と言っていい。


 だが、なぜか俺の顔を見ると、ラコはにやにや笑っていた。

「なんだ? 今更、顔が土で汚れるぐらいで笑うなよ?」

「ミュハンさんの指導を救いの時間だなと思っていますね。価値観がだいぶ竜騎士家の人間らしくなってきましたよ」


 言われてみれば……。

 想像を絶する激しい特訓に完全に慣れてきていた。

 この2年ほどで俺の生活も価値観も激変している。


 そして俺が14歳の誕生日を迎えた日のステータスはこんな感じだ。



===

レオン

職業・立場 剣士

体力 68

魔力 18

運動 61

耐久 46

知力 39

幸運  1


魔法

回復魔法(小)


スキル

メッセージウィンドウ

一刀必殺・疾風剣・一点貫通・滅多打ち

===


「あれ……? 剣士になってる……。いつのまに……」

 毎日、ステータスを見ていたわけではないので、変化が起きたタイミングがわからない。


 間違いないのは14歳になった時点で俺は剣士になっているってことだ。


「あと、スキルもじわじわだけど増えてきたな。あんまり意識して使ったことはないけど」

 おそらく知らないうちに試したことがスキルに該当したとみなされたんだろう。魔法の場合は無意識のうちに知らない魔法を使ったということはありえないから習得がわかりやすいんだけど。


 それと、「回復魔法(小)」というのは、普通に魔法の練習を行って覚えた。修道院にいる間は聖職者見習いなのでおかしなことじゃない。


「あの、別にどこに注目してもらってもいいんですが、ほかにもすごい変化が起きてますよ」

 ラコはなんでわかってないんだよという顔をしている。


「ん? 数値も上がってはいるけど、そりゃ下がりはしないだろ」

「運動が60を超えています。どこの領主のところに行っても腕だけで仕官できる次元です」


「ああ、そりゃ、順調に成長すればそれぐらいにはな――えっ? それって、ものすごいことじゃないか……?」

「はい、だからすごいことですよ」


「それに、限りなく素人の状態から2年弱とかでどこの領主のもとでも仕官できる次元になったって余計にすごくない……?」

「はい、だからとんでもないんですよ! もっと衝撃を受けてくださいよ!」


 なんでお前がキレ気味なんだよ。


 はっきり言って、ラコにボコボコにされいてるので強くなった実感がないのだけど、強くなっていたらしい。


次回は本日夜更新予定です。

===

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