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第五話 チョコレート

 父が小学5年生の頃の話。


 ある日の夕方、幼馴染みの友人と二人で遊びながら自宅近くの寺の前に来た時、敷地内から出てきた中年の女性に話しかけられた。


「君達、何年生?」


 穏やかな声で()かれ、「5年生です」と答えると、女性は「ああ、そうなの」と微笑み、「チョコレート、食べる?」と続けた。


 一瞬、警戒した父だったが、女性から漂う気配があたたかかったため、素直にいただくことにしたという。

 

 どうぞと差し出されたそれは、有名な食品メーカーのアーモンドチョコレートで、封も切られていない新品だった。


「ありがとうございます」


 父と幼馴染みがお礼を言って受け取ると、女性は顔をほころばせ、「食べてね……」と言って去って行った。 


 思いがけず、こんな良いものをもらえるとは。

 父と幼馴染みは喜んでチョコレートを開封し、口に運んだ。



「──ただな、そのチョコレートがあんまり美味くねぇんだよ」


 父はお茶を飲みながら、振り返る。


「それが不思議でなんないの。なんか、すっとぼけた甘さで……あれ? これって、もうちょっと美味かったような気ぃするんだけどな……って思った記憶だけはあんの」


 今にして思えば、あの女性は自分達と同じくらいの年代の子どもを亡くしたのではないだろうか。

 その子の墓参りに来て、お供えしたチョコレートを持ち帰ろうとした時、ちょうど目に留まった少年達に我が子を重ねたのかも知れない。


「チョコレートの“気”は、その亡くなった子が食べたんじゃないかって、俺はあとで思ったんだ」


 あの時の、うれしそうな……でもどこか哀しそうな、何とも言えない女性の笑顔が忘れられないのだと父は語った。



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